研修終了後、少しして不動産サイト「スマイティ」の立ち上げにかかわることになった山口さん。そのいきさつは非常にユニークだ。
「トレーナーの方からいわれた課題をやっていたら、『実はそれ、本番で使うよ』っていわれて。いつの間にか新しいサイトを作っていました」
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当初は、すでに安定した体制のできている価格.com本部(価格比較サイト「価格.com」を担当する部署)でじっくり勉強したいと考えていたという山口さん。ところが、まったく想定していなかった「いきなりの実戦投入」となってしまった。
スマイティは、エンジニア2人、デザイナー1人、営業兼リーダーが1人の計4人という小さなチームで運営されている(立ち上げ時はエンジニアがプラス2人)。新人をのんびりと育成していられるような余裕はなかった。すべては実戦で学ばなければならない。
立ち上げ時、山口さんはトレーナーに助けてもらいながら、「沿線検索」機能を一通り開発したという。それから1年余りが過ぎた現在では、スマイティの新規開発や運用をほぼ1人で担当するまでに成長した。もう1人のエンジニアは、山口さんのスケジュールチェックやサーバ周りの対応、緊急のバグなどを担当するのみである。
新人のエンジニアといえば「夜遅くまで働き、下手すれば土日も」というイメージがあるかもしれないが、カカクコムはそうでもないようだ。
「納期が迫ってくると、さすがに夜遅くまで働くこともあります。それでも21時半とか22時。普段は20時くらいには帰ります。土日出勤もほとんどありません。わたしは1度あっただけです」
土日に家で勉強をする、ということもあまりないという。分からないことがあれば、仕事時間中にいかに効率良く勉強するか、というスタンスだ。
同社 代表取締役社長 田中実氏は自身のブログで次のように書いている。
「結婚祝いや出産祝いの際に、一言声を掛けるとき『火事場のバカ力的な頑張りは止めてください。長続きするような仕事振りで頑張ってください』とお願いするようにしています」
こうした社風が社内に行き届いているのだろう、と記者は感じた。
また、「仕事で学ぶ」という姿勢は、新規事業立ち上げ部署に所属していることも関係しているようだ。
「価格.com本部のようにじっくり教育してもらう余裕はありませんでした。トレーナーにも『走りながら武器を取れ』っていわれていました」
当初期待していた「じっくり学べる」環境とは正反対。作りながら勉強し、勉強しながら作る環境だ。それでも現在は、スマイティなどの新規事業を担当する事業開発部の仕事を「楽しい」と語る。
「いまとなっては、事業開発部に配属されて良かったと思います。新しくチャレンジするものが多いので、やりがいがあります」
ちなみに、お給料の方はどうなのだろうか。
「悪くはないと思いますよ。残業代もちゃんとつきますし。1分からつくんですよ」
勤務時間や待遇という点では、安定した会社という印象だ。一方で、新規事業の部署に配属されると、少人数チームでどんどん仕事が任されるのを覚悟すべきということだろう。
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学生記者(左)と山口さん(右) |
未経験の新人だけに、仕事でのミスもあるそうだ。一番大きなミスは「delete」だ。
「テストサーバのデータを全部消しちゃったことが1度だけあります。『山口さん、最初から作ってみようか』といわれて、2日間、泣きそうになりながらやりました」
逆に「うれしかったこと」や「自分はすごいと思ったこと」を聞くと、「リリースをした時の反響がすごくて、うれしかった」と笑う。
「ユーザーさんがブログで褒めてくれたり、はてなブックマークで人気になったり。はてブのユーザー数が800を超えて、『そんなに評価されるものを自分は作っていたんだ』とうれしくなりました」
はてなブックマークのコメントを見ると、間取り図や画像登録を必須としている点や、物件の詳細な所在地を地図で表示している点などに対するポジティブなコメントが多い。こうした反響を見ることができるのも、Webサービス開発の醍醐味(だいごみ)のようだ。
今後の抱負として、山口さんは「愛着のあるスマイティをもっと良くしたい」と語る。開発とは異なる「運用の難しさ」について、山口さんは強調した。
「機能が増えたり、物件が増えたりするのはサイトとしては良いことなんですが、エンジニアとしては『重くなる』ので、新しい課題も生まれます。作るだけなら簡単ですが、速度を上げるというのは難しい」
続いて10年後の抱負を聞くと、少し考え込んでから、こう答えてくれた。
「自分でシステムからデザイン、ディレクションまで全部やりたい。ウェブマスターっていうんですかね。自分でWebサイトを作って事業として回す、っていうのができたらいいかな、と思っています」
最後に、エンジニアを目指す学生へのアドバイスをいただいた。
「プログラムに触れておくに越したことはないと思いますが、仕事で必要になればいくらでもプログラミングをすることになるので、学生時代に触るのが必須というわけではないと思います。社会人になると平日の時間がほとんどなので、やりたいことをやっておくといいですよ」
未経験で入社し、「走りながら武器を取って」Webサイトの立ち上げと運用をこなしてきた山口さんだからこそいえる言葉だろう。プログラミング経験がある学生はもちろん、そうでない学生も(「走りながら武器を取る」覚悟は必要だが)エンジニアへの道をあきらめるのは早そうだ。
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