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2011年ITエンジニア転職市場動向〜Web業界編

優秀なWebエンジニアの争奪戦は2011年も続く

大きく市場が動いた2010年のWeb業界。優秀なエンジニアの「争奪戦」が繰り広げられたのも記憶に新しい。この状況は、2011年も続くのか。Web業界専門のヘッドハンターに話を聞いた。

  ソーシャル系ビジネスが「大化け」した2010年

 2010年、Web業界全体はどのような動きを見せたのだろうか。ヘッドハンティング・エグゼクティブサーチを行うサーチファーム・ジャパンで、Web業界を専門に扱うヘッドハンターの篠原光太郎氏は、次のように語る。

 「2010年は、とにかくソーシャル系ビジネスが大化けした年、といえるでしょう。一方、コマースは堅調さを維持しています。厳しかったのは、長引く不況の影響を受けた広告・メディア業界。またモバイルコンテンツプロバイダも伸び悩ました」

篠原光太郎氏
サーチファーム・ジャパン
IT・サービスグループ
グループリーダー
篠原光太郎氏

 篠原氏は、「ここ数年でWeb業界のサービス淘汰が起きた」と語る。不況のあおりを受けた現在、生き残っているのは、ユーザーをしっかりと確保してサービスを提供し続けている企業である。そうしたなかで、台頭してきたのがソーシャル系ビジネスだ。

 ディー・エヌ・エー、グリー、ミクシィに代表されるソーシャルアプリ・プラットフォーマーの躍進はいうまでもないが、そのビジネスパートナーというべきソーシャルアプリケーションプロバイダもまた、着実に成長を続けている。バンダイナムコやコーエーテクモといった老舗ゲーム企業がソーシャルアプリ分野に参入したのも記憶に新しい。また、割引クーポン共同購入サービスに代表されるフラッシュマーケティング分野においても、新たなビジネスモデルが生まれ始めている。

 ソーシャル系ビジネスを中心に活況を見せているWeb業界であるが、転職市場においては、「人材の枯渇」という大きな課題を生むことになった。

  エンジニアの需要と供給のバランスが大きく崩れた

 2010年、Web業界で求められていたエンジニアは、「企画から設計、開発、運用までをトータルに手掛けられ、さらにビジネスマインドも兼ね備えているスーパーエンジニア」だった、と篠原氏は語る。エンジニアが作ったサービスで成功する企業が相次いだため、上記のようなマルチタイプのエンジニアをさらに求める動きが加速した。また、海外戦略を視野に入れた企業が増える中で、英語力を求めるケースも増加したという。

 とはいえ、それほど幅広く、かつ高いスキルを持ったエンジニアが、市場にどれほど存在しているのか。篠原氏自身の経験値から推測すると、「Web業界のエンジニア100人にアプローチして、企業の要求に見合う人材は数名いればいい」という状況だったという。そんな狭いパイの中で人材を奪い合うため、企業側の採用活動も、入社支度金や高年収の提示といったアプローチが見られた。業界内では、そういった採用方針を疑問視する声もあったようだが、採用側としては「そこまでしなければ採用できない」という厳しい現実があった。

 “エンジニアの枯渇”という新たな課題を抱えた2010年のWeb業界。では、2011年の転職市場はどのように動くのだろうか? 業界動向予測とともに見ていきたい。

  ハードウェアが変わる2011年、転職市場はどう動く?

 2011年のWeb業界動向について、篠原氏は「『スマートフォン』と『電子書籍』がキーワード」と断言する。

 iPhoneとAndroidが牽引するスマートフォン市場は2011年もさらなる成長を継続すると見て間違いない。電子書籍もまた、iPadをはじめ、GALAPAGOS、GALAXY Tabといった端末が登場したことで、今後急速に市場を伸ばしていくと見られている。

 こうしたハードウェアの大きな変化は、Webビジネスにも多大な影響を及ぼしていくだろう。篠原氏は、特にスマートフォンに関して「2011年中に本格的に対応できなければ、落ちていく企業は多い」と見ている。大きく台頭したソーシャルアプリビジネスもまた、フィーチャーフォン向けからスマートフォン向けに移行していくと予想される。

篠原光太郎氏
篠原氏はWeb業界専門のヘッドハンター。2010年は「コードが書けてビジネスマインドもあるスーパーエンジニア」のヘッドハンティング依頼が増えたという

 こうした新たなハードウェアの普及に伴うサービスとビジネスの変化に、いかにキャッチアップできるかが、企業にとってもエンジニアにとっても重要なカギとなりそうだ。

 では、具体的に転職市場はどう動くのだろうか。篠原氏は次のように語る。

 「2011年も、マルチなスキルを持ったエンジニアの争奪戦は続くと思います。しかし、そういった人材を確保できる企業は限られるので、多くの企業は採用条件を緩和していくでしょう。JavaやPHP、Perlなどの言語経験がある方であれば、SI業界出身者も含めてニーズは広がっていくと思います」

 また、ソーシャルゲームの増加により、2010年後半はLAMPやFlashの経験者に採用ニーズが集中したが、篠原氏は「スマートフォン向けサービスへの移行を視野に入れた企業からは、Android、iPhoneアプリケーション開発者の要望に加え、『HTML5のスキルを持つエンジニアを採用したい』という声がすでに聞こえ始めている」と語る。転職市場で需要のある技術スキルの今後の移り変わりについても、注視する必要があるだろう。

  Web業界の成熟に従い、キャリアプランも見直される

 Web業界の変化に対応する必要があるとはいえ、現在の職場環境で新しい技術に触れられるとは限らない。篠原氏は「個人の時間を利用して学んでいかないと、時代に取り残される可能性がある」と指摘する。企業側も業務経験だけでなく、独学で学んだ経験を積極的に評価し始めているそうだ。

 また、「果たして現在のソーシャル系ビジネスの波に乗っていいのだろうか」と不安に思うエンジニアも少なくないはずだ。将来性はあるのか、いつまでこの活況が続くのか……。

 こうした懸念に対し、篠原氏は「成長産業に身を置くだけで、エンジニアのキャリアにとっては大きなプラスになる」と語る。成長産業は基本的に人が足りていない。そのため、エンジニア1人に任される業務の幅は必然的に広くなり、確実なスキルアップにつながる。特にソーシャル系ビジネスは前述の通り、確保したユーザーに対して高品質のサービスを提供し続けるビジネススタイルなので、たとえ将来ソーシャル分野が低迷したとしても、身に付けた“ユーザー志向”や“サービス志向”のマインドは、別分野でも有効活用できるだろう。

 Web業界は、本格的にビジネスが回るようになってから日が浅い。今後、業界の成熟が進むに従い、エンジニアのキャリアプランが見直されてくるだろう、と篠原氏は予測する。サービス企画開発、技術特化、マネジメントなどの方向性があるなかで、自分がどの方向へ進むのかを、しっかりと考え始める時期にきているのだ。市場動向に常にキャッチアップし、自らの志向と照らし合わせながらキャリアプランを立てることが、エンジニアの成長への道といえそうだ。


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掲載内容有効期限:2010年1月31日

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