「転職には興味があるが、自分のスキルの生かし方が分からない」「自分にはどんなキャリアチェンジの可能性があるのだろうか?」――読者の悩みに応えるべく、さまざまな業種・職種への転職を成功させたITエンジニアたちにインタビューを行った。あなた自身のキャリアプラニングに、ぜひ役立ててほしい。 |
第8回 元ネットワークエンジニア、iPhoneアプリ開発の世界に飛び込む
今回のテーマ:ネットワークエンジニアから、Web開発を経てiPhoneアプリ開発エンジニアへ | ||
●転職者プロフィール 株式会社ジェネシックス 開発本部 チーフエンジニア 上杉隆史さん(34歳、転職4年目) 【仕事内容】 FTP入稿システムのネットワーク整備 → ビジネスポータルサイト 「cybozu.net」の開発 → モバイル向け情報配信 システムの整備 → スマートフォン向け アプリケーションの開発 |
右肩上がりの急成長を続けているスマートフォン市場。端末の普及に伴い、注目を集めているのが、スマートフォン向けアプリケーションの開発だ。短期間・低コストで開発ができ、高収益の可能性があることから新規参入する企業が後をたたない。転職市場においても、アプリ開発エンジニアに対するニーズは高まるばかりである。
今回紹介する上杉隆史さん(34歳)は、スマートフォン向けアプリの企画・運営を行う、ECナビ子会社『株式会社ジェネシックス』に勤務するITエンジニア。現在はスマートフォン、特にiPhoneアプリの開発を手掛けているが、もともとは印刷会社に勤務するネットワークエンジニアであった。まったく異なる業界からいかにして転職を成功させたのか、そしてスマートフォンアプリ開発ならではの面白さとはどのようなものか、話を聞いた。
6年間キャリアを積んだネットワーク分野から Web系プログラマとしての再チャレンジを決意 |
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大学を卒業した上杉さんは、新卒で印刷事業を手掛ける企業に入社。情報システム部門に所属し、ネットワークエンジニアとして、FTP入稿システムなどのネットワーク整備に取り組んでいた。ネットワークに関する一通りの知識やスキルを身に付ける一方で、入社5年目からは蔵書管理システムの開発にも関わり、サーバ構築はもちろん、簡単なWebプログラミングも手掛けていた。
入社から6年間、着実に経験を積んできた上杉さんであったが、30歳を前にして転職を考えるようになったという。
「当時、僕はネットワークエンジニアとして、社内ネットワークにおいては、大体のことが分かるようになっていました。しかし、ある外部の勉強会に参加したときに、『本当に自分でプログラムが書けるのか』という問い掛けを受けて、はっとしました。僕は単にネットワークの設定ができるだけの人だったんじゃないかと。しかし、そんな僕でも社内では“できる”人になってしまっていました。環境を変え、ちゃんと自分の手を動かしてモノを作れる人になりたいと思ったんです」
プログラマとして再チャレンジしよう――そう考えた上杉さんは早速、転職エージェントを活用して転職活動を始めた。
当時、勢いを増しつつあったWeb系企業を4社ほど検討した。そこで、インターネットメディア事業を手掛ける『株式会社サイバーエージェント』と出合う。
「サイバーエージェントを選んだ決め手は、社員が若く、楽しみながら生き生きと働いている様子だったということでした。印刷業界にいたときは、周りは年配の方ばかりで、年が若いというだけで『サークルじゃないんだからさー』と揶揄(やゆ)されることもありました。その反動で、若い人と一緒に、楽しみながら仕事に取り組める会社で働きたかったんです」
面接を担当したのは、現在ECナビ 代表取締役CEO、ジェネシックス 取締役を務めている宇佐美進典氏。上杉さんは、スーツを着ていない宇佐美氏のフランクな対応に驚き、会社全体の生き生きとした雰囲気に惹かれたそうだ。無事に採用が決まったものの、テクニカルスキルに対する不安を感じていた上杉さんは、入社までの約1カ月間、時間を作って自主勉強に励んだ。
少数精鋭の環境で任される責任の大きさを痛感 知識を深めるために、自ら勉強を続ける日々 |
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転職後は、サイボウズ株式会社とのジョイントベンチャー『cybozu.net株式会社』に籍を置き、ビジネスポータルサイト「cybozu.net」の構築に携わった上杉さん。6名程度のチームの中で、プログラミングやインフラ整備を担当した。少数精鋭体制だったため、転職直後はその責任の大きさに驚き、知識をもっと深めなければと感じたという。
「ひたすら勉強」の日々について語る上杉さん |
「当時は、技術関係の本を読み漁りました。“年間50冊”など目標を決めて、達成するまで読み続ける。また、サイボウズ・ラボに所属している優秀なエンジニアたちがどんなことを学んでいるのかなども聞きながら、勉強に役立てました」
さらに「人材育成や開発プロセスについても学びたい」と考えていた上杉さんは、転職して1年が経ったころから、上司や同僚の協力を得て大学院に通い始めた。限られた時間で仕事と両立させていく厳しさはあったが、「勉強すべきことがたくさんあるのはすごく楽しかった」と上杉さんは語る。
サイバーエージェントでの3年間で、上杉さんが一番学んだこととは何だったのだろうか。
「優先順位のつけ方ですね。当時は少数精鋭の環境だったので、常にメンバー全員のタスクをお互いに知っておく必要がありました。毎週のミーティングで、各々が自分のタスクを書き出し、優先順位を発表します。そのうえでお互いに話し合い、優先順位を調整します。エンジニアとしてやりたいことだけを考えるのではなく、一番効果的で収益につながる優先順位の考え方を意識できるようになりました」
上杉さんが携わったcybozu.netの事業は、社内の事業グレードの上位に入るほどの成功を収めた。そんな折に、同じフロアにあったサイバーエージェントのグループ会社『株式会社ECナビ』のエンジニアから、「うちで働かないか」と誘われたという。
「ECナビでは社内勉強会が数多く立ち上がっていて、僕も時々参加していました。だからメンバーのことはよく知っていたし、一緒に飲んだりもしていたので、非常に意識が高くて、面白い人たちがいるというのは分かっていました。だから誘われたときも、特に難しく考えることなく、スムーズに転籍を決めました」
WebからiPhoneアプリという新しい領域へ ゼロからスタートすることの苦労と面白さを実感 |
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ECナビに転籍後、上杉さんはモバイル向け情報配信システムのメンテナンスに関わった。cybozu.net時代は「自分の事業」として開発に取り組んでいたが、ECナビでは横断的にシステムを見る部署に配属されたため、「別の部署のエンジニアがユーザー」という状態で、新鮮な感覚を得られたという。「求められている以上の仕事をしなきゃいけないと、あらためて感じた」と上杉さんは語る。
ちょうどそのころ、世間ではiPhoneやAndroidなど、スマートフォン分野の台頭が顕在化し始めていた。上杉さんも新しい技術に興味を持ち、仕事において、どうやってその領域に関わっていこうかと考えるようになっていった。
ECナビに転籍して半年後、転機が訪れる。現ジェネシックス 取締役の冨田憲二氏から、ジェネシックス立ち上げに参加しないかという話を持ちかけられたのだ。
「突然だったので、さすがに慎重になりました(笑)。でも、3時間くらい冨田とお互いのことを語り合った結果、やろうという気持ちになりました。スマートフォン向けアプリ開発という領域は面白そうだったし、冨田の人柄にも惹かれたので」
2010年5月にジェネシックスへと転籍した上杉さんは、立ち上げに伴うさまざまな業務や、Twitterアプリ「ガチャツイ」をはじめとするiPhone向けアプリの開発、インフラ整備、そして新人教育と幅広く活躍している。これまでの転職経験や独学経験から、環境が変わることに抵抗はなく、むしろ当初は自信があったそうだ。だが、「転籍してすぐ、久々に自信をなくしました」と上杉さんは語る。
「同僚が、iPhoneアプリ開発の面でかなり技術的に突っ込んだ経験を持っていたので、追い付くのが大変でした。ここでもゼロからのスタートでしたね。いまも本を何冊もカバンに入れて時間を見つけては読み込んだり、自分で簡単なアプリのモックを作ったりしています。設計の知識やプロジェクトマネジメント経験、モチベーションを保つチームの雰囲気作りなどは、これまでの経験が生きていると思います」
上杉さんは、スマートフォン向けアプリ開発という領域に踏み込みたいなら、「技術力や知識の面で、ビリになることを恐れてはいけない」と語る。
「まだビジネスモデルが固まっているわけではなく、ここ数年はいろいろなことが変化し続けると思います。それに追い付いていくためには、むしろビリでいられる場所の方が学べることが多いと考えて、そういう環境を自ら選んでいくだけの意欲がないとダメです。興味があるなら、関わっているエンジニアが少ないいまこそ、飛び込んだ方がいいと思います」
上杉さんが開発に関わったTwitterアプリ「ガチャツイ」はリリース後、App Storeランキングで総合5位、SNSカテゴリでは1週間以上にわたって1位を獲得した。苦労した分、大きな達成感を得られたそうだ。
最後に、上杉さんの今後の目標について聞いた。
「技術的に分からない部分はまだまだたくさんあるので、それを1つずつ、つぶしていきたいと思います。あとは、優秀なエンジニアを育てるために、どんな教育をすべきかを追求していきたいですね」
●株式会社ジェネシックスの採用担当に聞いた、エンジニア採用時の評価ポイント 経歴やスキルに関しては、ゼロからインターネットサービスを作ったことがある経験と、サービスを全体から見渡してプロダクトのアウトプットを出す能力、PHPやPerlでの開発経験を評価します。 最も重要視するのは、「ポジティブであること」「新しいことに取り組む姿勢を重視していること」「仲間との摩擦を恐れないこと」「“one for all, all for one”のマインドを持っていること」「自分のプロダクトで世界を変えるぐらいの気概を持っていること」といった、当グループのカルチャーにフィットするマインドを持っていることです。 |
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提供:マイナビ転職
企画:アイティメディア営業企画
制作:@IT自分戦略研究所 編集部
掲載内容有効期限:2010年10月31日