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特集:転職市場予測

第1回 転職市場回復は順当に行けば2012年ごろの見通し


荒井亜子(@IT自分戦略研究所)
2009/9/24


プロジェクト案件減少による採用ストップ……。崩壊したITエンジニアの転職市場を占う。中途採用はいつになれば復活するのか、どんなエンジニアなら転職できるのか。見えない出口を探る。

■失業率過去最悪。正社員の求人は4人に1件

 今回の不況(2007年夏のサブプライムローン問題に端を発し、2008年秋のリーマンショックを引き金に世界中に広まった不況)は、過去に類を見ないほど深刻である。

 1992年の不動産バブル崩壊、2002年のITバブル崩壊と、われわれはこれまでも厳しい不況に直面してきたが、世界同時に、それもすべての業種が辛酸をなめる不況というのは初めてではないだろうか。

 経済の悪化は当然、雇用情勢に大きく影響する。今年7月、わが国の完全失業率は5.7%を記録し、過去最悪の5.5%を更新した。同じく7月、国が企業の休業手当の一部を補填する雇用調整助成金の支給対象者が200万人を超え、昨年12月の18倍に膨らんだ。パートタイマーやアルバイトを含む有効求人倍率(7月)は0.42倍。大雑把にいえば、求職者2人に対し1件しか求人案件がない状況だ。これが正社員の有効求人倍率(7月)となると0.24倍であり、4人に1件となる(参考)。

 厚生労働省は、7月の情報通信業(IT業界)の求人案件数が1万4063件で、前年同期比の46.2%減と発表している。全業種が23.4%減、最も減少したのが製造業の46.3%減であることから、IT業界の求人案件数の減少は著しいことが分かる(参考)。

 外需依存の強い日本経済は、世界の景気に大きく左右される。直近では、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が9月15日、「米国の景気後退は終わった可能性が高く、経済は回復局面に向かいつつある」と発表している。だが、遅行指数である雇用が回復に向かうのはまだ先の話である。バーナンキ議長も雇用創出には時間がかかるとの認識を示している(参考)。いったい、いつになったら雇用情勢が回復するのか。雇用は、われわれの生死に直結する課題なだけに、早期回復が望まれる。

 @IT自分戦略研究所、9月の特集のテーマは転職。ITエンジニアの転職市場はいつごろ回復するのか、またITエンジニアはそれまでに何をすればいいのか。5回にわたってお届けする。


■不穏な動きを見せる求人案件数の推移

 「どうも動きが読めない」。9月某日、総合人材サービス企業 アデコのキャリアコンサルタント 藤田孝弘氏はITエンジニアの求人案件数の推移に首をかしげていた。求人案件数は、4月のひどい状況に比べれば徐々に増え、ましにはなってきてはいるものの、9月に入りまた減りはじめているという。変則的な状況は当分続きそうだ。

 藤田氏に、IT業界の「事務職以外(≒ITエンジニア)」と「営業職」の月別求人案件数を折れ線グラフにしたデータ(非公開)を見せてもらった。ITエンジニアの求人案件数は増えたり減ったりしながらも、近似値を取れば減っている。逆に営業職は微増傾向にあった。企業はいま、案件獲得のため攻めに出ている時期なのだ。

■不況でもほしい人材と求人企業の傾向

 不況期は企業の要求(する求人レベル)が給与に対し高まる傾向にある。即戦力の人材を安価で雇いたいのが企業の本音である。

 人気が高いのは、依然として「ITエンジニア経験3年以上で35歳くらいまでのプロジェクトリーダークラス」(藤田氏)だ。ここまでは従来と変わらないのだが、スペックの中身が異なってきている。企業はスペックの非常に細かい部分にまで気を配った採用基準を設けるようになってきているのである。

 システムインテグレータ(SI)業界では、求人企業が2極化する傾向にある。1つは慢性的にITエンジニアが不足している多重下請け企業。もう1つはNTTデータや野村総合研究所のように財務体質の強固な大手企業である。

 藤田氏は、「両者の真ん中辺りに位置する中堅企業からは、1ポジション1人といった具合にぽつぽつと求人案件が出てくるものの、要求レベルが高く細かいため、すぐに紹介できる人がいないといった難しい状況」だと話す。例えば「Javaができて、カード業界経験○年以上」といった具合に、企業はいま要求スペックに対し“ドンピシャの人”を求める。

 その点SI業界に比べ、Web系企業の求人は間口が広く安定的といえるかもしれない。グリーが先月からITエンジニアを大量募集しているのは人材業界では有名な話である。藤田氏も「Web系企業は、わりと求人案件が多い」と話す。

■求人動向4つのトピック

 藤田氏が現在の求人動向で注目している点をまとめた。全部で4つのポイントに分けられる。

(1)即戦力の若手リーダークラスは依然として人気

 上述したように、「ITエンジニア経験3年以上で35歳くらいまでのプロジェクトリーダークラス」は企業の人気が高い。しかし、求人レベルが高く、スペックが細かいため、企業にとっては適切な求職者が見つかりにくい。

(2)営業職の求人案件数が微増

 IT企業の営業職の求人案件数は微増傾向にある。企業はここ数年間で若手エンジニアを積極採用してきたが、この不況で彼らに仕事が降りてこなくなった。仕事が多く、受け皿さえあればよかった時代とは違う。彼らを食べさせるためには、営業が仕事を取ってくるしかない。

 ここで、藤田氏に「ITエンジニアは営業に行けるのか?」という疑問をぶつけた。ITエンジニアが一時的にもプリセールスなどの営業職に“避難”する手立てを探ったのだが、藤田氏によると「とても厳しい」とのこと。営業職の求人スペックは高く、「IT営業○年以上」という求人ばかりなのだという。営業への転職を考えるITエンジニアは少なからずいるそうだが、苦戦を強いられているのが実情だ。

(3)派遣の求人が増加傾向

 これは主に間接部門での話だが、ここ数カ月、コストダウンのため正社員のリストラを行った企業が、派遣社員を補充し、仕事の穴を埋めているという。

(4)部長クラスのポジションの求人案件が出始めている

 ここ最近、部長クラスの求人案件が目立ち始めている。藤田氏は「企業の投資が人材採用にまわり始めている」と、雇用情勢回復の兆しをほのめかした。

■雇用回復の時期。順当に行けば3年後

 最後に、藤田氏に雇用回復の見込みを予想してもらった。「過去に照らし合わせて、順調に行けば3年後(2012年)くらい」という回答だった。その根拠は以下のである。2002年のITバブル崩壊から5年で雇用がピークまできている。不況のはじまりを、2007年夏ごろ発生した米国サブプライムローン問題とすると、2012年には採用が復活する計算である。

2002年 ITバブル崩壊
2004年 IT系営業職の求人数増加
2005年 一部大手が若手採用を開始
2006年 中小企業でも徐々に採用開始
2007年 採用ピーク
(表)ITバブル崩壊後の雇用回復経緯

 ただし、「求人案件数は増えたり減ったり、不規則な動きをしているので順当に推移するかは不明」とも付け加えた。

心配なのは、やはり離職者

 心配なのは、求職者に離職者や離職見込み者の数が増えていることだ。「会社を辞めた人と同時に、辞めることが決まっている人も多い」と藤田氏は述べる。派遣先の仕事が終了し、待機になると給料が何%かカットされるため、生活が困窮して退職を決意した人が増えているのだ。待機が続いたら踏みとどまるべきか、辞めるべきかは難しい選択だ。藤田氏は「動かないまでも情報収集はした方がいい」とアドバイスする。

◇◇◇

■明日は小飼弾が登場

 いまだどこが底か分からない不安な状況が続く雇用情勢。身動きできない不況下、ITエンジニアは何をすべきなのか。明日はプログラマ 小飼弾氏が、「いまITエンジニアがすべきこと」というテーマで、ITエンジニアを激励すべく“弾言”を披露する。どうぞお楽しみに。

9月の特集、「転職市場予測」ラインアップ

 特集:「転職市場予測」のラインアップは次のとおり。

転職市場回復は順当に行けば2012年ごろの見通し
特集:転職市場予測(1) 
案件減少による採用ストップ……。崩壊したITエンジニアの転職市場を占う。中途採用はいつになれば復活するのか。見えない出口を探る
小飼弾「転職活動する暇があったらブログを書け」
特集:転職市場予測(2) 
「転職市場崩壊とはどこの星の話だ」「ITエンジニアはいつからだぶつくようになったんだ」小飼弾が、ITエンジニアを激励すべく“弾言”を披露する

エンジニアライフ時事総論:それでも我々は転職をする
特集:転職市場予測(3) 
次の転職への準備、転職のコツなど、エンジニアライフのコラムニストが語る。実体験に裏打ちされた生の声から学ぼう

転職、温故知新。不況期はトレンドを見極める時期
特集:転職市場予測(4) 
過去の不況期、エンジニアはどこに転職をしていたのか。人材業界20年のベテランキャリアコンサルタントが、過去の不況から得た教訓をアドバイス
有名IT企業13社が回答――「採用抑制」が過半数
特集:転職市場予測(5) 
有名IT企業13社に対し、中途採用に関する独自アンケートを実施。昨年に比べ採用人員数を50%近く絞っている企業が多く見受けられた

自分戦略研究所、フォーラム化のお知らせ

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