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パソコン創世記


アメリカからの風

富田倫生
2009/8/21

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本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、日本のパソコン業界黎明期に活躍したさまざまなヒーローを取り上げています。普段は触れる機会の少ない日本のIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は『パソコン創世記』の著者である富田倫生氏の許可を得て公開しています。「青空文庫」版のテキストファイル(2003年1月16日最終更新)が底本です。「青空文庫収録ファイルの取り扱い規準」に則り、表記の一部を@ITの校正ルールに沿って直しています。例)全角英数字⇒半角英数字、コンピューター⇒コンピュータ など

 1976(昭和51)年2月からのマイコン販売部のスタートに向けて、渡辺和也は準備作業に追われていた。

 当時の集積回路事業部長、常木誠太郎から「マイクロコンピュータを作ることは作った。あとは、とにかく売れ」とマイコン販売部長として先頭に立つことを命じられた。確かに1個のLSIに押し込められたマイクロコンピュータは、原版にあたるマスクができればあとは写真を焼き付けるように一括して大量に作ることができる。

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 マイクロコンピュータの製造部隊であるマイクロコンピュータ部が集積回路事業部内に設けられた当初は、コンピュータ音痴の集積回路屋集団ゆえの笑い話めいた出来事もあった。「ソフトウェア」などという言葉に出くわしても、何のことだか分からない。「きっと織物のことじゃないか」と、今から見れば冗談としか思えない言葉が交わされる。何しろ当時の電子回路の常識からすれば、機能とは回路上に作り付けになっているはずのもので、ハードウェアにソフトウェアが加わって機能が実現されるといわれても、さっぱりピンとこない。目の前にある回路上には存在しないというソフトなる代物には、何やら宙に浮かんだ幽霊のようなイメージがある。

 しかし当初はそうした困難があったものの、日電内でのマイクロコンピュータ作りの体制も徐々に整っていった。マイクロコンピュータの生産においては、セカンドソースの奨励という、いわば二番煎じを積極的に認める方針がとられている。もともとのオリジナルを開発した企業から他の半導体メーカーが設計のノウハウを買い取り、まったく同じ仕様のものを生産するのである。これにより、マイクロコンピュータを使う側にしてみれば仕入れ先が複数になって、供給の安定性が高まる。オリジナルの開発メーカーからすれば、自社の生産能力をはるかに超えた幅広い市場を獲得できる。そして、セカンドソースとなるメーカーにとっては、ゼロからの開発に伴う膨大な初期投資を抑えられることになる。

 そして日電でも、自社オリジナルのマイクロコンピュータに加え、セカンドソースとしての生産体制も整えていったのである。ただし、生産体制が整うことと、売れることは、直接につながっているわけではない。「あとはとにかく売れ」といわれても、果たしてどこに売ればよいのか。もともとは電卓用に開発されたマイクロコンピュータだが、大量に生産される低価格機には、専用の回路を用意した方がはるかに安くつく。高度な機能を備えた関数電卓には使われているものの、数から見ればとても勝負にならない。

 何しろ生産ラインができてしまえば、あとはハンコでも押すように製品ができてしまうのである。渡辺自身、マイクロコンピュータは大きな可能性を秘めていると確かに感じるものの、いざ何に使うかと自問すると答えが出てこない。家電製品ならどんなものにも組み込んで、コントロールに使えるのでは、とそこまでは思う。しかしそれを使ってどんなことができるかとなると、そこからは頭が回らない。

 他に答えられる人もいない。

 しかし、準備作業を進めていくうちに、いくつか見えてきたこともある。

 マイクロコンピュータをどこに売っていけばよいのか、とにかくその手がかりをつかもうと、この時期渡辺は何度かアメリカに渡っていた。アメリカへの出張となれば、当然大手の電気メーカーを訪ねるのが常識である。ゼネラルエレクトリックやウェスティングハウス、RCAなどのエリート技術者たちから情報を引き出し、マイクロコンピュータの売り先を考えるべきである。

 ところがそうしたエリート技術者たちからは、めぼしい情報が出てこない。

 その代わり、いささか毛色の変わった連中が、このゲテ物に熱中しているのには大いに驚かされた。そろそろマイコンクラブの走りのようなアマチュアのクラブが生まれており、ネクタイにはまったく縁のなさそうなひげ面の連中が、仕事ではなく好き好んでマイクロコンピュータの使い方に頭を悩ませている。ガレージにクラブのメンバーが集まって激論をたたかわせているのだが、その内容がすこぶる高い。

 そうした数々のマイコンクラブの中でも、神話的色彩を帯びて伝説として語られることの多いホームブリュー・コンピュータ・クラブ――。

 このクラブからは、パーソナルコンピュータの代表的メーカー、アップルコンピュータ社を育て上げたスティーブン・ジョブズやパーソナルコンピュータの原器ともいうべきアップルII を生んだスティーブン・ウォズニアックをはじめ数々のパーソナルコンピュータ界のヒーローが生まれていった。

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