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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第25回 「戦わずして勝つ」。戦略のプロに学ぶ自分戦略

小平達也
2007/10/22

ITエンジニアの競争相手が海の向こうからやってくる。インド、中国、それに続くアジア各国。そこに住むエンジニアたちが日本人エンジニアの競争相手だ。彼らとの競争において、日本人エンジニアはどのような道を進めばいいのか。日本だけでなく、東アジア全体の人材ビジネスに携わる筆者に、エンジニアを取り巻く国際情勢を語ってもらった

 本連載では「ITの進化とグローバリゼーション、それに伴う仕事と所得の平準化に対して、自分戦略として個人の高付加価値化は必須である」という考えのもと、海外技術者のキャリア観や企業経営者の視点、政府の動向などについて紹介している。2003年に開始し、この11月に5年目を迎える。

 現在の国内の状況を見ると、「企業業績回復」「景気拡大」などといわれる一方で、民間企業における(1年を通じて勤務した)給与所得者の平均年収は前年比で約2万円の減少と、9年連続で減少している(国税庁発表の平成18年分 民間給与実態統計調査)など、個人にとっては厳しい状況が続く傾向にある。昨年は「フラット化」という言葉も出現し(第18回「『フラット化する世界』のキャリア形成を考える」参照)、個人がいかにグローバルな競争の中で機会を見つけていくか、空間を超えて世界中の仲間と共同作業を行っていくかがますます重要な時代になってきた。

自分戦略を「可視化」する

 第24回「中国とインド、進むIT業界の『相互乗り入れ』」で、「グローバルな人材動向をウオッチする日系企業の経営者」について紹介した。そこでは、経営を「タコつぼ化」(いま自分のいるポジションだけを見て、外に目を向けようとしないこと)させないように努力している日本企業の海外法人経営者のスタンスについて述べた。

奥出阜義(おくであつよし)氏
元防衛大学校教授
国際戦略シナジー学会専務理事
エー・アイ・エス主席研究員
防衛庁(現防衛省)で要職を歴任。防衛大学校生から高級幹部までに戦略・戦術理論と実践の教育を行う。また、パイロット・機長経験を生かして「戦略学」を実践活用し、多くの成果を挙げる。防衛庁退官後は、富士重工業航空宇宙カンパニー・航空技術アドバイザーを務める傍ら、各界の国際的リーダー育成における「知的武装」の必要性を説き、一般企業や大学院などで過去数十回「戦略MM学講座」を主宰。多くの受講生から支持されている。2006年9月から現職。首都大学東京オープンユニバーシティや早稲田大学大学院などでセミナー講師を務めている。

 フラット化が進む世界で成功を収めるためには、このように周囲を知る努力をすると同時に、自らの独自価値(ユニークバリュー)を打ち出していく必要がある。しかし、「キャリア戦略」「フラット化」などについて考え、把握し、対応していくことは難しい。その難しさの理由の1つとして、これらが目に見えず、分かりづらい概念だということがあるだろう。

 今回は、その分かりづらい「戦略」のプロであり、かつ「戦略を可視化する」プロである、元防衛大学校教授で軍事戦略コンサルタントの奥出阜義氏に話を聞いた。欧米などではビジネススクールにも戦略的な思考法が組み込まれており、退役した軍人が大学で戦略を教えるなど「開かれた学問としての戦略」が存在するということだが、日本では奥出氏がこの分野のパイオニアである。

 奥出氏は企業の戦略アドバイザーを務めるほか、戦略決断力の育成方法として国際的に定着している「マップマヌーバー」と呼ばれる図上戦略演習法を国内では先駆的に開発。民間企業の幹部研修などで、これまでに数百人の現場リーダーの育成をしている。

「戦略」と「戦術」を分けて考える

小平 「グローバル化とITの進化によって、日本人ITエンジニアの競争相手は『隣の机』にではなく、まったく目の届かない『通信回線の先のどこか(大部分は海外)』に出現しています。このような状況で自らのキャリアを考えていくことは困難です。競争相手をよく知らないことに加え、自分戦略自体が見えづらい(可視化されていない)ことも難しさの一因だと私は考えています。

 先生は戦略を、マップマヌーバーという図上演習で分かりやすく『可視化』させているわけですが、今回はグローバルな環境の中でのキャリア戦略を考えるヒントをちょうだいしたいと思います」

奥出氏 「国際化に伴い、企業間の生存競争がより激烈になってきているいま、リーダーたちに最も必要なのは、グローバルな世界で勝ち抜くための戦略的な発想力や判断力です。よく『経営戦略』などといいますが、これはビジネスが『戦い』と認識されていることの表れでしょう。しかし、日本のビジネスパーソンが『戦い』の本質を分析・理解しているとは思えません。むしろ、『戦略』を『戦術』と混同しているケースが往々にしてあるのではないでしょうか」

小平 「本連載は『グローバリゼーションとITの進化の中でのITエンジニアのキャリア』をテーマとしています。グローバリゼーションは『世界的な大競争』でもあり、ITの進化は『常に大きな変化にさらされていること』でもあります。このような中でITエンジニアは自分戦略を考えているわけですが、いまお話に出た『戦略』『戦術』の違いについてお教えいただけませんか」

奥出氏 「戦略と戦術の定義を簡単に説明しましょう。

戦略:戦争の目的や遂行理由、各行動の原則。長期的かつ広範な視点での検討・決定。最高指揮官や上級指揮官の手に委ねられるべきもの

戦術:目的達成のための具体的な行動計画や部隊の運用方法。短期的かつ狭い視点での検討・決定。現場指揮官が携わるべきもの

 2つには以上のような違いがあります。ちなみに、『戦略・戦術』を実践する行動を『作戦』といいます」

小平 「なるほど。それではITエンジニアが自分戦略を考える際、戦略・戦術・作戦は以下のように読み替えられるのではないでしょうか。

(1)戦略:自分の人生を通しての総合的、長期的な大方針の決定

(2)戦術:限定時間の中、どの業種・業界でどのような役割を果たし、キャリア形成をするかという計画

(3)作戦:(1)(2)を達成するための日々の仕事を通じた業務遂行」

奥出氏 「組織論的には小平さんの分類で結構ですね。ただし、ITエンジニアが日々の作戦を実行=業務を遂行するに当たっては、総合戦略の『目的・構想』を基に、その作戦がいかなる『目標・地位・役割』を持つかを確立し、一貫性をもって進めることが肝要ですね。過去においても、『戦略本部(本社)』と『第一線(技術部)』の遊離による敗戦の戦訓は枚挙にいとまがありません」



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