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〜自分戦略研究所 転職者インタビュー〜

転職。決断のとき

第6回 技術力だけでは生き残れない

中村京介
2003/7/11

 スキルを上げるため、キャリアを磨くため、給料を上げるため――。エンジニアはさまざまな理由で転職し、新しい舞台で活躍する。では、転職の決断をするのはいつなのか? そしてその決断に至った理由とは何だろうか? その決断のときを、今回は@ITジョブエージェントを利用して転職したエンジニアに尋ねた。

今回の転職者:山口健治氏(仮名・29歳)
プロフィール有名大学の法学部を卒業後、システム会社に就職。その後、ベンチャー企業を経て、昨年、大手シンクタンクに転職。

■20代はどの会社でも年収に大差がない

 IT不況が長期化する中、多くのエンジニアが、キャリアアップのために転職を意識し始めている。エンジニアにとって「転職」は極めて身近な問題になりつつある。最近ベンチャー企業から大手シンクタンクのシステム部門への転職を果たした山口健治氏(仮名・29歳)のケースは、“成功モデル”の1つといっていいだろう。

 大学では法律を学んでいたが、卒業後はまったく畑違いの情報システム会社に就職。UNIX環境で顧客管理系ソフトウェアの開発などを行い、エンジニアとしてのキャリアをスタートさせるが、「できるうちに好きな仕事をやっておきたい」との一心から1年10カ月で同社を退社。競馬のソフトウェアを開発するベンチャー企業へと転職する。

 「私は大の競馬好きで、大学3年時に競馬の予想ソフトを自分で開発したのがそもそもコンピュータに触れるきっかけだったのです(笑)。会社を辞めることに対しては、リスクは感じませんでした。逆に、30歳をすぎてから新卒で入った会社を辞める方が、よほど危険だと思います。20代の前半はどの会社で働いても給料は大して変わらない。だったらいくつもの会社で働き、さまざまな仕事の進め方を体で覚え、いろいろなスキルを身に付けた方が絶対に得だと思ったのです」

 転職した会社には3年4カ月在籍し、パッケージソフトやWeb環境における競馬のデータベースシステムの制作、自社のネットワーク、あるいはWebサイト立ち上げの際はサーバ設定など、ベンチャー企業らしく、技術に関してありとあらゆる仕事を経験する。しかし、ITバブルがはじけると、会社は大幅なリストラを始める。やがて給料は遅配気味になってくる……。

 「リストラについていえば、わたしは解雇される側に問題があるという考え方なので、あまり気にしませんでした。ただ、会社が傾き始める1年ほど前から、経営状態が悪化している様子が感じられたので、その時点からすでに転職を視野に入れていました」

■わずか2週間で大手シンクタンクに内定

 もっとも、仮に会社の業績が右肩上がりで成長していたとしても、転職の意思は変わらなかった。自分のキャリアパスを考えた場合、もう一度チーム単位で大きなプロジェクトの案件に携わってみたいと思ったからだ。

 当時勤めていた会社は、競馬関連のソフトという特殊な製品を扱っていただけに、顧客や金額などは必然的に限定せざるを得なかった。その意味で、もっと規模が大きい仕事に携わりたいと思っても、その欲求が当時の会社では満たされないことはハッキリしていた。そして、そういう規模の大きな仕事を担当できる会社はどういう会社なのか……と考えた結果、「ある程度、資本の大きな会社で働く方がいいだろう」という結論に至る。

 こうして山口氏が転職したシンクタンクは、世間一般では入社のハードルが高いとされる会社だが、面接は3回、わずか2週間で内定を獲得する。

 「WebシステムやJavaを使ったシステム開発の経験があり、年齢的に28〜29歳で、プロジェクト・マネジメントができる人――というのが、企業側が求めるスペックだったらしく、ちょうどそれが私にマッチしたようです。中でも、プロジェクト・マネージャをこなす能力があると判断されたことが大きかったと思います」

 競馬ソフトの制作が中心だった前職時代は、「プロジェクト・マネージャ」という明確な肩書きがあったわけではない。しかし、ベンチャー企業の多忙な毎日は、山口氏の中にプロジェクト・マネージャとしてのスキルを確実に育んでいった。

 「当時は、メンバーや協力会社をマネジメントしていたし、営業兼技術屋みたいな感じで、お客さんのところにニーズを聞きに行って技術の話をしたり、お金の見積もりをしたりということまで全部1人でやっていました。そういう意味では、これまで自分の責任範囲の中で自分の考えで動くということに対して自信を持って仕事に臨んできたので、その点が評価されたのだと思います」

■技術力だけでは“宝の持ち腐れ”
 
 最近、エンジニアも“単なる技術屋”では人材マーケットで評価されないということが指摘されている。それを裏付けるのが、山口氏の転職といっていいだろう。

 「技術を持っていても、人と話せなければ宝の持ち腐れにすぎません。面接は基本的に一発勝負です。だから、いくら優れた技術を持っていても、自分がどんなことをやってきたかを面接官に伝えられなければ意味がない。逆にたいした仕事をやっていなくても、上手に説明できればそれで通ってしまいます(笑)。面接のとき、自分の言葉で分かりやすく、自分がやってきたことを説明できたことが、内定につながったと思います」

 現在勤務する大手シンクタンクのほかにも、大手ITコンサルティング会社から内定を獲得する。さらに、転職には踏み切らなかったものの、1年前にも大手シンクタンクから内定をもらった。

 面接におけるコミュニケーション能力の重要性――山口氏の成功はそれを証明している。すでに3年後は「マネジメント」を選択することを心に決めている。

 「技術は自分で勉強できる。でも、マネジメントや、人と話をするとか営業とかいうのは職務の中で経験を積まないと身に付かない。私の場合、技術の土台はあるので、これから先は、それを使ってコンサルティングやプロジェクト・マネジメントの方に進みたい。現在も、例えばWebサイトを作る場合、デザイン面できれいなページを作るというレベルではなく、ログを精密に分析したり効果測定を行ったりするなど、Webサイトをどうクライアント企業の戦略に結び付けるかという、コンサルティング的な視点を常に持つようにしています」

■30歳を超えたら「技術力」プラスアルファ

 「技術」だけのエンジニアは、年齢を重ねるたびに、転職マーケットでのバリューは下降の一途をたどりかねない。技術に関しては、若い人の方が知識の吸収力が高く、給料も安いため、当然、若いエンジニアの方が採用の可能性は高いからだ。

 どこにでもいるようなエンジニアになってしまうと、それこそ40代以降、先が見えなくなる。いまの会社に28歳で転職したが、「この年から新たにエンジニアとして技術をガリガリやらせるつもりで会社が採用しているとは思えない」と苦笑い。

 「技術力があれば、20代のうちは転職できると思いますが、30歳を超えて『技術だけで食べてきました』という人は、よほどの技術力がないと簡単には転職できないでしょう。給料に妥協できるのだったら話は別ですけど……。転職活動を通じて、さまざまな立場、職種の人と話す機会を持つことができたので、そのことに早く気付きました。でも、多くのエンジニアは転職せずに、ずっと1つの会社でぬるま湯につかっている。この先、『自分の仕事はどうなるのか?』という危機意識が足りないと思います」

 エンジニアに技術が重要なのは当然だが、問題は、エンジニアのマインドの中で、技術に対する比重が大きすぎる場合が多いことだ。技術は「顧客のニーズを実現する手段の1つにすぎない」と山口氏は強調する。

 「私がこの業界でやってきて一番うれしい瞬間は、自分が手を動かしたとか、自分がプロジェクト・マネージャをやったとかに関係なく、作ったものが実際にきちんと動いて、顧客の業務改善に結び付き、喜んでもらえたときです。例えば、アクセスログが一気に増えてモノが売れたときとかは、喜びを感じます。でも、エンジニアは、どうしても自分の技術を追求したり、理想に走りがちなんです(笑)」

 顧客が望んでいるものを高品質で作り、それを顧客が喜び、そして、売り上げが増えたり、新規顧客が増えたりという結果に結び付かなければ意味がないということを実感している。

■技術に固執しすぎるとキャリアを狭める

 「技術は顧客の希望を実現する手段の1つにすぎない」と語る山口氏。自分がいくらいいものを作ったと思っても、結果が出なかったら喜ぶべきではないと考えている。それは、顧客のニーズを十分にくみ取れていなかったことでもあるからだ。

 エンジニアの世界には「40歳定年説」なるものがある。しかし、それは技術に固執するあまり、キャリア形成に失敗してしまったケースだけに当てはまるものではないだろうか。

 「40歳になったときにはマネージャをやっていたい。この先のキャリアとしてITコンサルタントの選択肢も考えています。実際、いまの仕事はそれに近い動きをしており、楽しんで業務に励んでいます。ずっといまの会社にいるかどうかは分からない。けれども、これまで勤めた3社ではそれぞれ良い部分と悪い部分を見てきたので、ここに一生勤めることになってもたぶん後悔はしないと思います」

 40歳になった山口氏は、エンジニアのキャリア形成の新たな“成功モデル”となっているかもしれない。

担当コンサルタントからのひと言
 山口氏は将来のキャリアパスとしてプロジェクトマネージャ(PM)を志向していました。そこで、PMのキャリア構築に必要なプロジェクトマネジメントの手法などの情報を提供しました。

 最大手のシンクタンクを紹介した理由は、何よりもプロジェクトマネジメントについて、他社に比類ないほどの経験を積める場であるからです。採用基準が非常に高いため、事前に過去の面接受験者によるフィードバックを提供し、万全なサポートを行いました。

 ベンチャーから国内最大手シンクタンクへの転職は、非常に困難なケースともいえますが、それを成功させた理由は、高い技術力や説明能力とともに、零細ベンチャーにおける経験が、安定した大組織に新しい風を吹き込む改革者として評価されたからだと思います。

 
テクノブレーン 人材紹介事業部 コンサルタント 村井 知光氏


転職。決断のとき Index
  第1回 経営方針についていけず、転職を決意
  第2回 転職を繰り返し、ようやく見えたキャリアの光明
  第3回 エンジニアを究められる環境を求めて
  第4回 転職しないことを「リスク」と感じた
  第5回 転職は市場価値を上げる手段だった
第6回 技術力だけでは生き残れないと感じた
  第7回 “技術屋”的発想から抜け出したかった
  第8回 “孫請けエンジニア”の仕事に限界を感じた


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