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第6回 大常昌文――「懇親会でしか出ない話」こそ面白い

岑康貴
2008/9/4

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「あの人が見たいから、勉強会に行ってみる」

 
 

 大常氏は勉強会にはどのくらいの頻度で顔を出しているのだろうか。

 「大きなものは3カ月に1回くらい。20人規模くらいの小さなものだと、2カ月に1回くらいでしょうか」

 初めて参加したのは「Lightweight Language Weekend」。tDiary(Rubyで作られたWeb日記ツール)の作者、ただただし氏が書いていたLightweight Languageのイベントレポートを読んだのがきっかけだという。

 「僕は当時、プログラム言語を使って仕事をするという立場ではなかった。せいぜい、システム管理上でスクリプトを書くくらい。だから、テーマそのものに大きく興味を引かれたわけではなかったんです。なぜ興味を持ったかというと、ただただしさんの日記は普段から読んでいたから。Rubyがどうこうという内容よりも、その人を知りたいから、その人に会ってみたいから、という理由で行ってみようと思ったんです」

 いってみれば「ネタとして」見てみたかった、と大常氏は語る。それ以外にも、Rubyはほかの言語と比べてどうだ、という「言語戦争」も見てみたかった。技術的な部分は「正直、どうでもよかった」という。

 「当時はMatzさん(Ruby開発者のまつもとゆきひろ氏)を見るのにも、そういった大きなカンファレンスのような場でなければ見られなかった。人を見に行く、という感覚ですね。Rubyで有名な人は、日記やブログを見ていると、Ruby以外の話も面白い。どういう人か見てみたかったんです」

 そのため、実は「本編はおまけで、懇親会がメイン」だったという。

懇親会には、懇親会に適した話題がある

 スピーカーとして話すことは「小さな勉強会で少しするくらい」だという。大規模な場で発表することはほとんど無いが、2008年2月に行われた「Developers Summit 2008」ではライトニングトークを行った。テーマは「ネットウオッチ2.0 〜PlaggerとGmailを駆使したネットウオッチ観測事例について〜」。ネットを見るのに無駄な時間は減らし、機械にできることは機械にさせようというコンセプトを披露した。

netwatch 2.0
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 「竹迫(良範)さんに、ネット関係で受けそうなネタを話してほしいと誘われたんです。あの手の話は、草の根レベルではよく流通している情報。勉強会後の懇親会で、『こういうソフトを使うと便利だ』という話が酒の肴としてよく話されます。わざわざブログに書くほどでもない話ですね」

 懇親会でしか聞けない話はたくさんある、と大常氏は話す。ブログに書くまでもないような軽い話は酒の席でよく出るが、聞いてみると意外と面白かったりするという。ブログに何かを書くにはエネルギーが必要なため、そうした話は「懇親会ならでは」だ。

 「ブログにはブログで書くのに適した強度の話があり、TwitterやIRCにも、適した強度の話題がある。同じように、懇親会に適した、くだらないけど面白い話というのがあります」

 まるでメディア論だ。メディアによってメッセージが規定される。酒の席で、面と向かうことで「話される話題」は、ほかとは異なるのだ。

 「1次会で20人くらいの規模のときと、2次会で別の店に行ったときと、終電がないから朝まで飲もうというときで、話の内容が変わる。転職するとか、新しい会社を作るといったようなディープな話になると、3次会くらいまでいかないと出てこない」

したいことがあるから、その技術を学ぶ、というスタンス

@IT自分戦略研究所カンファレンス
上級ITプロフェッショナルのスキルとキャリア 開催
日時:2008年9月27日(土)
11:00〜18:00(受付開始 10:30〜)
場所:秋葉原UDX 6F RoomA+B
詳しくは開催概要をご覧ください。

 大常氏にとってコミュニティや勉強会にかかわる、一番の理由は何だろうか。

 「仕事で3Dのグラフィックを扱うことが多いのですが、アメリカで作られた3DソフトはPythonをスクリプトエンジンとして積んでいることが多い。業務上、必要に駆られてPython.jpというコミュニティのイベントや懇親会に参加したり、IRC channelの#python-jaにjoinしたりしました。ところが同じように仕事で使うAdobe After Effectsは、スクリプトエンジンとしてJavaScriptを使用しています。なぜアドビはPythonにしてくれなかったのかと思いましたね。JavaScriptが読めて、コピペで書ける程度にはなっておこうと思い、JavaScript系の勉強会に行ったり、IRCやユーザーグループに入ったりしました」

 身もふたもないようだが、彼にとって技術とは「何かをするためのもの」であり、それを学ぶために、あらゆる手段を活用している。それは、オンラインゲームをしたいがためにLAN環境を構築し、ファイルサーバが重いから本を買って勉強し、果ては快適な業務のために自らサーバを構築してしまった、彼自身のこれまでの行動からもよく分かる。

 「松野(徳大)さんがブログで書いていましたが、僕は快適にネットウオッチをしたいがために、Plaggerが使いたかった。PlaggerはPerlで書かれているので、『仕方なく』、Perlが読めて、コピペで書ける程度にはなっておこうと勉強したんです。すべて、何かやりたいことがあって、そのために勉強しています」

 そうして勉強して身に付くと、達成感は確かにある。だから、プログラマがいう「プログラミングは素晴らしい」という言葉の片りんは理解できるという。しかしあくまで「自分にとって、プログラミングとは何かをするためのツール」なのだと大常氏は語る。

 だからこそ彼は、コミュニティや勉強会も「それを学ぶためのツール」として活用する。自分の周りに詳しい人がいなければ、そういった場に頼るべきだと大常氏は主張する。自身も最初にサーバを構築したとき、周りに詳しい人がいて、聞くことができればもっと楽だったはずだと振り返る。

 また、企業内で一子相伝のように技術を学んでいると、世の中のトレンドに沿わない、ガラパゴス化した技術を身に付けてしまう恐れがあるという。それを避けるためにも、外の場に出て行くことは重要だと大常氏は語った。

 

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