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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第13回 日本で働く海外ITエンジニアの悩み

小平達也(パソナテック 中国事業部 事業部長/早稲田大学ビジネススクール講師)
2005/10/28

ITエンジニアの競争相手が海の向こうからやってくる。インド、中国、それに続くアジア各国。そこに住むエンジニアたちが日本人エンジニアの競争相手だ。彼らとの競争において、日本人エンジニアはどのような道を進めばいいのか。日本だけでなく、東アジア全体の人材ビジネスに携わる筆者に、エンジニアを取り巻く国際情勢を語ってもらった

品質低下の原因は?

 先日、都内の某大手企業を訪問したときの話だ。世界的にも知名度の高い、伝統ある企業である。迎え入れてくれた先方役員の服装や振る舞いにもすきがなく、「エグゼクティブ」のイメージそのものだ。ところがこの企業、この数年国内外で不祥事が続き、品質レベルは低下する一方というのがIT業界関係者の中で定説になっている。

 「このようなしっかりした役員が経営する企業で、なぜ、不祥事が続くのだろう……」順調に面談を終えた筆者は、素朴な疑問を持ちながらエレベーターでロビーフロアに降りてきたのだが、そこで見た光景がすべてを教えてくれた。同社の受付ロビーは豪華そのもので、カウンターで対応する受付嬢たちにも、先ほどの役員同様に清潔感が漂う。しかし、である。筆者が通るその横で、何と受付嬢が堂々と(?)ネットサーフィンをしているのである(もちろん当の本人は見られているとは思っていない)。着飾って表面を取り繕っていても「ああ、実際にはそういう社風なのだな」と実感する一場面であった。

 もちろんこの企業を取り巻く状況は複雑なのであろう。それでもあの場面を見れば、残念ながら市場や顧客との基本的なコミュニケーション構築に失敗していると感じてしまう。この企業を「本社」とする海外事業体、そこで働くITエンジニアたち(同社は欧米諸国をはじめ中国でも展開している)は、表面だけではない真の社内コミュニケーションを取れているのだろうか、とふと思った。事実、若手を中心とした社員の流出は相当数に上っているようだが……。

日本企業に勤務する海外ITエンジニアの悩み

 筆者は日本国内で働く海外ITエンジニアたちに対し、日常的にヒアリングを行っている。そこで多く挙げられる悩みとして、「職場における日本人上司・同僚とのコミュニケーション」があることを皆さんはご存じだろうか。

 日本人からすると「海外のITエンジニアは日本人と比べて積極的。基本的にドライであり、単刀直入にモノをいってくる」というイメージが一般的であるようだが、実際は必ずしもそうではないようだ。

 日本人が海外エンジニアとコミュニケーションする際に意識すべきことについては、本連載第7回「海外エンジニアとの日本語コミュニケーション術」で一部を紹介した。特に外国人と日本語で話すためのJNJ(Japanese talk for Native speaker of Japanese)8原則は好評をいただいたので、機会があればぜひともご活用いただきたい。

JNJ8原則:
    1.目的と手法を明確化
    2.主語や代名詞を明確化
    3.数値での設定
    4.日本語のニュアンスに注意
    5.カタカナ語・外来語の使用に注意
    6.単語の定義づけ
    7.打ち合わせ結果はメモ確認
    8.1つの長文より5つの短文
(詳細は第7回「海外エンジニアとの日本語コミュニケーション術」を参照)

 JNJ8原則は日本人向けの「即戦・日本語」ツールであるが、今回は日本国内の企業に勤務している海外ITエンジニアから寄せられた相談の中から、日本人とのコミュニケーションに関する部分を引用して紹介する。

「入社当時、社内に相談できる相手がいなくて戸惑った。特に社内ルールやビジネスマナーといった方面で」(中国、26歳、女性)

「特に電話が難しい。対面では相手のボティランゲージである程度分かるが、電話だと言葉だけなので非常に不安。さらに、会社、肩書き、立場、名前が分からない状況で相手に呼び掛けなくてはいけないとき、どのように呼べばよいのかいつも悩んでしまう」(イギリス、32歳、男性)

「上司がいいたいことをはっきりいわないため、含まれる意味が読めず、後になって分かったことがあった」(インド、27歳、男性)

「特にITエンジニアの仕事では、外来語の技術用語がたくさんあり意味が分からない。用語自体が新しいため、辞書を引いても調べきれないことが多い」(韓国、29歳、男性)

「上司が非常に忙しく、なかなかつかまえられない。電子メールで進ちょく報告だけするのもとても不安。しゃべりかけるきっかけの作り方を知りたい」(中国、25歳、男性)

 以上、身近な例を挙げてみた。日本国内の企業で働く海外エンジニアも、日本人とのコミュニケーションには「かなり気を使っている」ようだ。日本企業での勤務経験が相当年数ある方から相談を受けることもある。皆さんの職場など、身近に海外ITエンジニアがいる場合は参考にしてほしい。

海外ITエンジニアの日本語コミュニケーションのポイント

 筆者は日ごろ、日本語で仕事をする海外ITエンジニアに研修や個別カウンセリングを通じてアドバイスをしている。上述のような悩みに対するアドバイスのうち、ビジネスに関連する一部分を紹介しよう。外国人向けのアドバイスであるが、ベースとなる発想部分には日本人も活用できる点がありそうだ。

ケース1 相手を呼ぶとき
(×)「あなたは〜」 → (○)「○○さんは〜」

 特にテキストや学校の授業だけで日本語を学習してきた方に多いいい方だが、一般に職場で相手を「あなた」と呼ぶのは避けた方がよい。○○さんといういい方は「人」だけでなく「企業」の場合も使用できるのが日本語の面白いところである。企業名を「○○さん」と呼ぶと、「御社」というよりも親しみや優しさが感じられる。もちろん、実際の会話では顧客や上司など、先方や周囲のいい方(社内呼称が○○さんなのか肩書きで○○部長なのか)に合わせることが最も大切である。

ケース2 質問や確認をするとき
(×)「〜でしょう?」 → (○)「〜ですか」

 これは目上の相手を「むっ」とさせることが多い注意ポイント。しり上がりの調子で文を結び、質問としているが、いい方によっては非常に無礼に聞こえる可能性が高い。スキルがあるのにこの点で損をしていることは、Bridge Career Chainの第3期に相当する人材など、日本での勤務経験がある方にも意外と多い(Bridge Career Chainについては本連載第4回「中国人ブリッジSEのキャリアパス」を参照)。

 全体に共通することだが、日本語が少々しゃべれる外国人に対して日本人は一般に寛容である。その一方で「何だ、この人は! 失礼ないい方だな」と思っても、よほどのことがない限り相手の日本語を直接注意することはないと考えた方がよい。

ケース3 いい切りは避ける
(×)「〜です」「〜だ」 → (○)「〜と思います」「〜だと思います」

 文法上は正しいのだが、「〜だ」のようにいい切ってしまうと、ほかの可能性を否定するニュアンスを発してしまうことがあるので注意が必要。文末に結論がくるのが日本語の特徴だが、「〜と思います」といういい方だと「自分は〜と思うが、あなたはどう思いますか(ほかの可能性も一緒に検討しましょう)」という余地を残す。このような態度を相手に示すことになり、解を広く求めるというメッセージにもつながる。

相手の立場を理解する

 上記は海外ITエンジニア向けのビジネス日本語コミュニケーションにおける注意点の一例である。筆者がアドバイスする際に繰り返し述べることは、「どんなにスキルやキャリアが素晴らしくても、新しい職場や客先での打ち合わせなど『広義の市場との接触』の場合、大部分のケースではいい回しや外見的な印象などがコミュニケーション上非常に重要な因子となってくるので、できる限り注意を払った方がよい」ということだ。

 今回のケースは海外ITエンジニア向けのアドバイスの一部であるが、実は日本人にとっても活用できる基本的なポイントがある。それは、コミュニケーションを取る際にはあくまでも、相手の立場を理解し尊重したうえでの対応が必要であるという思想である。

 同じITエンジニアでも所属先は新興IT企業なのか、伝統的な企業集団なのか。業種がメーカーなのか、サービス業なのかによっても社風は異なり、コミュニケーションの取り方が相当違ってくるし、同じ社内でも相手の年代によって対応方法が違ってくる場合がある。コミュニケーションのコンテンツをその場その場で変える、ということではなく、内容を相手に伝えるデリバリースキルのポイントや重要度、方法が異なってくるということである。

 当たり前すぎる話で恐縮だが、それでも繰り返し述べたい。

 「相手個人の立場・背景を理解したコミュニケーションは、エンジニアのみならずすべての個人にとって非常に重要であるし、有用である」

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