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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第22回 中国・インド・ベトナムの理工系人材を徹底比較

小平達也
2007/4/17

ベトナムと日本はハネムーン期? 各国で異なる日本との関係

図1 異文化適応のUカーブ理論(Black&Mendenhall,1991)

 図1は、異文化適応のUカーブ理論である。通常は海外赴任者が異文化に適応する過程を「異文化適応レベル軸」と「滞在期間軸」で表したものである。海外赴任者という「ヒト」に対して適用されるものであるが、ここではあえて「日本企業と各国」という関係性を一般化してみた。

 中国については反日デモなどがあったが、進出企業1万9779社(2004年)、在留邦人11万4899人(2005年)と接地面は拡大している。日本と中国、それぞれの違いを単に非難するより、事業をうまく行ううえで何が必要かを学習しつつあるという段階にきている。
 
  一方、中国と比較されるインドだが、進出日系企業は328社(2004年)、在留邦人は2134人(2005年)にすぎず中国との差は大きい。業種にもよるがこれから本格化していくという段階だろう。

 現場での体感値として中国とインドとの中間に位置していると感じるのはベトナムだ。駐在員、出張者を問わず日本人ビジネスパーソンの間でとにかく評判がいい。ビジネスそのものだけでなく、ベトナム人の気質や食・住という生活インフラに対して好感を持つ方が多いのが特徴で、まるで「ハネムーン期」にいるようである。

 こうして日本と各国との関係を比較してみると、成熟期に向かいつつある中国、まずは相手のよいところに目が行くベトナム、大半の企業にとってはこれからというインドに分けられる。このような日本との関係度合いの違いをベースとし、以下を見てみよう。

各国エンジニアの特徴比較〜技術・親和性・日本語力〜

表1 中国・インド・ベトナム 一般論でみるエンジニア比較
(出所:企業担当者へのヒアリングをもとにパソナテック 海外事業部が作成)
中国
インド
ベトナム
技術的背景
語学:日本語
語学:英語
日本文化との親和
柔軟性・環境適応
コメント 技術日本語人材が多い。
個人差が激しい。
技術英語が最大の売り。日本語はできて日常会話程度。 柔軟・純朴・真面目さが最大の特徴。
中・印には技術と語学でいま一歩。

 同じIT産業でも国内需要向けのサービスで成長している中国、アメリカなど海外需要向けが大きいインド、輸入・輸出それぞれ半分ずつのベトナムなど、それぞれの国において方向性が異なることにも目を向けたい。

 表1は中国、インド、ベトナム各国のITエンジニア比較を一般化したものである。技術、日本語、英語、漢字文化で親和性の高い中国、シリコンバレーに直結した技術と英語を誇るインド、擦り合わせ型産業でのポテンシャルが期待されるベトナムなどそれぞれ特徴がある。

 特にベトナムでは新興国の技術エリートにありがちな「技術者と技能者の間の高い壁(技術者は学術志向・論文主義で、技能者が手を動かしている現場に出ないなど)」が少なく、現場主導で改善していくという姿勢はメカトロ系などの産業にも向いている(ちなみにこのような姿勢の優秀なエンジニアは東欧にも見られるという)。

 上記では技術、語学、親和性に触れたが、よく質問を受ける日本語レベルについて見てみよう。実はひと言で「日本語」といっても国によってレベルは大きく異なる。表2を見てほしい。

表2 中国・インド・ベトナム 日本語学習者比較
(出所:国際交流基金)
日本語能力検定受験者数(2005年)
1級
2級
3級
4級
合計
中国
47,325
50,564
20,920
20,920
124,422
インド
156
797
1,476
1,723
4,152
ベトナム
375
1,746
2,474
650
5,248

 これは国別の日本語能力検定受験者数であるが、それぞれにカタマリがあることに気付くだろう。どの国の人材でも「日本語を学んだ、しゃべれる」という人材はいるが、どのレベルの「できる」なのかはこの表と比例している。中国では1、2級、ベトナムでは2、3級、インドでは3、4級といったところが一般的だ。

各国の「世代間の壁」を見抜くポイント

表3 就業における価値観 優先順位(2006年版)
(出所:パソナテック 海外事業部)
優先
1
2
3
タイプ
日本
会社
家族
趣味
サムライ奉公型
中国
家族
コミュニティ
会社
独立起業型
インド
宗教
家族
会社(職種)
スペシャリスト志向型
ベトナム
家族
コミュニティ
会社
一家団欒(だんらん)型

 各国と日本との関係性、技術者の特徴を紹介してきたがここではキャリア観の違いを見てみる。表3は「就業における価値観 優先順位(2006年版)」である。1つの職場で長期にわたり「会社に対し忠誠を誓い、勤め上げる」ことが最高の価値であるような日本のサムライ奉公型。起業を視野に入れる中国の独立起業型。1つの職を職人的に極めていくというインドのスペシャリスト型、職選びにも自宅からの距離(バイクで15分以内など)がポイントとなるベトナムの一家団欒(だんらん)型など、ここにも特徴がある。

 中国、ベトナムが家族、インドが宗教を第1の基準にしているのに対し、日本の場合は会社が最初にきていることが対照的だろう(だからこそ、日本人は会社に対して家族的な忠誠心と団欒(だんらん)を求め、宗教的とさえいえるのめり込みを見せがちなのかもしれない)。

 もちろん、上記は極めてステレオタイプに一般化したものなので、この点はご留意いただきたい。また、世代によって変化が大きいことも要注意だろう。日本人の新入社員については冒頭で触れたが、従来型の「大卒男子中心・終身雇用・年功序列=サムライ奉公型」をベースとしながらも着実に変化の兆しが顕在化しつつあり、世代間のギャップは大きい。

 同様に中国人=独立起業というのも実は30代以上の方々を見た場合のイメージであり、最近の新入社員や大学生へインタビューを行うと「できるだけ長く安定的に勤務をしたい」「1人っ子なので家族のそばにいたい」というようなコメントも多く見られるようになってきておりこちらも確実に変化しつつある。

<世代間の壁、を見抜くチェックポイント>
中国……市場経済政策、1人っ子政策
インド……IT革命
ベトナム……ドイモイ(刷新)政策

 上記それぞれの前後、どちらで15〜20歳といった価値観形成の時期を迎えたのかによってキャリア観は大きく異なってくる。当然、自社社員として採用や育成をする場合、パートナーとして提携する場合に背景的な知識として押さえておいた方がよいだろう。

 企業経営者や事業責任者の立場からすると、「グローバルリソースの最適化」を考えるに当たり、物価水準や為替レートとともに上記のような背景も考慮に入れながら、今度は日本国内での人材採用、活用を考えていくことになる。

 それでは、日本人エンジニアの技術・語学力・グローバルビジネスでの親和性とは何であろう。環境変化の方向、スピードを把握したうえで、独自の強みをより強化していくのか、多角化させていくのか。このようなベースのうえでぜひ、独自の答えを見いだしていただきたい。

 

今回のインデックス
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筆者プロフィール
小平達也(こだいらたつや)
パソナテック 海外事業部 部長
パソナテックコンサルティング(大連)有限公司 董事
早稲田大学アジア太平洋研究センター「日中ビジネス推進フォーラム」講師

商社にて中国を中心としたサプライチェーンマネジメントの構築、運営に従事。現職では「人材サービスを通じて企業のグローバル展開を支援する」というミッションの下、大手日系グローバル企業の海外における人材採用と育成を支援している。外務省「『人の移動』に関するシンポジウム」で経済界の意見を発表のほか、学会などでの講演、執筆多数。

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