国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?
第26回 海外の活力を取り込む4つのポイント
小平達也
2007/12/20
■海外の活力を取り込む4つのポイント
まず下記の表を見てほしい。海外の活力を日本が取り込む方法は、
- 国内で取り込むか、海外で取り込むか
- 人的資源(社員)として取り込むか、市場(顧客)として取り込むか
という2つの軸から考えられ、以下4点に大別できる。
- 国内で海外人材の活用を進める
- 海外で現地人材の活用を進める
- 国内の外国人市場で販売する(内在的輸出型企業)
- 海外の現地市場で販売する
国内 | 海外 | |
人的資源 (社員) |
1.外国人社員の活用 外国人就労者数(厚生労働省) 1996年 37万人 ↓ 2006年 75.5万人 |
2.現地社員の活用 2005年 海外現地法人従業員数 (経済産業省) 合計 436万人(前年比 5.2%増) アジア 305万人(前年比 10.1%増) (うち中国 141万人[前年比 18.3%増]) |
市場 (顧客) |
3.外国人市場 登録外国人 1996年140万人 ↓ 2006年 208万人(法務省) 訪日外国人 1996年 380万人 ↓ 2006年 730万人 (国際観光振興機構) |
4.海外市場 業界別海外売上比率 自動車 70% 精密機械 55% 電気機器、機械 50% |
表1 海外活力(人材・市場)を自社に取り込む視点 |
それぞれについて紹介していこう。
1.国内で海外人材の活用を進める
国内の労働力人口が減少する一方で、日本国内における外国人数は伸びている。すでに在日外国人数は200万人を超えており、うち日本での就労を目的とした外国人も1996年の37万人から2006年の75.5万人と、この10年で倍増している(厚生労働省)。
日本企業の国内における外国人社員活用の目的としては、主に以下の3点が挙げられる。
-
(a)国籍不問採用
(b)ブリッジ要員
(c)ダイバーシティ(多様性)
(a)の国籍不問採用は文字どおり、国籍に関係なく優秀な人材を求めるというもので、かなり前から存在する。特に理工系の人材採用で多く見られるのが特徴である。
(b)のブリッジ要員は、海外とのインターフェイス(=架け橋)となる要員で、外国人社員の言語や出身地といった「母国との関係性」に期待をするものである。特に2001年に中国がWTOに加盟し、中国市場攻略という経営課題がクローズアップされてきて以降、必要性が顕在化してきた。最近では中国に限らず、対ベトナム要員、対インド要員など、日本企業の進出に合わせたニーズも出てきている。
(c)のダイバーシティ(多様性)はこの1〜2年の間に期待されるようになった考えだ。2005年から始まった日本社会における人口減少を背景に、企業内の人口構成も年長者が多く若手が少ない「少子高齢・逆ピラミッド構造」となる中、あえて異文化背景を持つ人材を社内に取り込むことにより組織の活性化を促したいという目的により導入されている。
企業の「採用氷河期」の影響もあって、日本の大学に進学した留学生の日本での就職も増加しており、2006年には8272人と過去最高となっている(法務省入国管理局)。
2.海外で現地人材の活用を進める
海外で暮らしている在外日本人数はすでに100万人を突破(外務省)しているが、日系企業が海外で雇用している現地法人従業員数も436万人と過去最高に達している。中でもアジアにおける現地従業員数は多く、アジアで305万人、うち中国は141万人となっている(ともに2005年度、経済産業省)。特に注目すべきは中国における伸び率で、海外現地法人従業員数全体の伸び率が前年比5.2%に対して、中国は同18.3%と群を抜いた伸びを示している。
現地人材の活用の目的は、主に以下2パターンに分けられるだろう。
-
(a)海外で生産し、日本市場で売る(=市場は日本)
(b)日本もしくは海外で生産し、海外市場で売る(=市場は海外)
かつては(a)のケースが多く、あくまでも日本市場向けであるので、現地社員の活用といっても仕様どおりに製造工程を担当するオペレーション要員がメインであった。IT業界のオフショア開発も日本市場向けという意味では同様であり、仕様書どおりにコーディングするプログラマの活用といったところだ。
一方で、この数年伸びてきているのが(b)の海外市場向けである。この場合、海外市場向けの企画開発、製造、販売、売上回収など一連の対応が必要であり、自立的に考えられるマーケット型のホワイトカラーが対象となる。IT業界でいえば、現地でERPパッケージソフトを販売するなどが代表例だろう。当然、ワーカー(大量に存在)とホワイトカラー(採用競争)では採用・活用のアプローチが異なり、特にホワイトカラーについては多くの日本企業が苦戦をしているところである。
3.国内の外国人市場で販売する(内在的輸出型企業)
日本国内の人口は、2000年の1億2693万人から2050年には1億60万人に減少するという国立社会保障・人口問題研究所の中位推計がある。これは日本国内市場そのものの縮小を意味し、すでに自動車などは国内市場で売れなくなってきているという。一方で、日本在住の登録外国人、旅行で日本を訪れる訪日外国人はともに増加している。
-
(a)登録外国人 1996年の140万人から2006年の208万人へ増加(法務省)
(b)訪日外国人 1996年の380万人から2006年の730万人へ増加
(国際観光振興機構)
従来はきちんとした「外国人市場」というセグメントはなく、草の根、口コミ的に販売が行われていた。しかし上記のような登録・訪日外国人それぞれの大幅な増加により、一定の市場規模を持つようになってきた。
これら「顧客の囲い込み」の試みは、ホテルや温泉などではすでに行われているが、業界を超えて広がりを見せ始めた。高島屋は在日外国人向けのポイントカードの発行を始めるほか(日本経済新聞)、家電量販店などでは訪日外国人向けに外国語の堪能な接客要員を配置するような動きが出てきている。このように今後、従来型の顧客層に加え、国内の外国人市場向けビジネスがメインとなってくる企業を筆者は「内在的輸出型企業」と呼んでいる。これらの企業は今後増加するであろう。
4.海外の現地市場で販売する
業界別・海外売上比率を見ると、自動車の70%を筆頭に、精密機械55%、電気機器、機械50%と、海外での市場規模を拡大する業界が出てきている。
これ以外にも海外市場を目指す業種は数多くある。「将来の働き手」である15歳未満の人口は2007年4月1日時点で1738万人と26年連続減少(総務省)という背景を受け、子ども向けアパレルのミキハウスはフランスや中国だけでなくトルコやアゼルバイジャンにも進出し、子ども服の販売を始めているという(日本経済新聞)。
少し変わったところでは、日本語教育や日本語テストについても海外市場は見逃せない。中国における日本語学習者は約40万人といわれているが、この市場を狙った日本企業の参入などの話もある。
■取り込むか、取り込まれるか――国・地域・企業・個人
IT業界においても、人的リソースとして、マーケットとして、海外人材と市場の影響は大きい。今回の記事をヒントに、海外の活力を自らに取り込めるか否かが、今後じわじわと影響し、高付加価値化のポイントとなってくるだろう。これは、国・地域・企業・個人ともにである。
それぞれの立場で目的・ミッションを持ちながら自分がイニシアチブを取り、環境を創造していくというスタンスでないと、取り込むことは容易ではない。労働力人口が激減する「20年後」の自分の立場から現在を振り返り、大胆すぎる対応をするくらいでちょうどよいのではないだろうか。
今回のインデックス |
海外の活力を取り込む4つのポイント(2030年、日本に働き手はいなくなる?) |
海外の活力を取り込む4つのポイント(取り込むか、取り込まれるか) |
筆者プロフィール |
小平達也(こだいらたつや) パソナテック 海外事業部 部長 パソナテックコンサルティング(大連)有限公司 董事 早稲田大学アジア太平洋研究センター「日中ビジネス推進フォーラム」講師 商社にて中国を中心としたサプライチェーンマネジメントの構築、運営に従事。現職では「人材サービスを通じて企業のグローバル展開を支援する」というミッションの下、大手日系グローバル企業の海外における人材採用と育成を支援している。外務省「『人の移動』に関するシンポジウム」で経済界の意見を発表のほか、学会などでの講演、執筆多数。 |
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