自分戦略研究所 | 自分戦略研究室 | キャリア実現研究室 | スキル創造研究室 | コミュニティ活動支援室 | エンジニアライフ | ITトレメ | 転職サーチ | 派遣Plus |

国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第28回 外交のプロに学ぶ、自分を「伝える力」

小平達也
2008/4/25

前のページ1 2

マスコミやコミュニティとの付き合い方

井出参事官 「4つ目のポイント、それは中国人スタッフについてです。中国で展開している日本の各種組織、日系企業で働く方は現地の名門大学を出た優秀な人材が多く、日本語は堪能なのですが、必ずしも『日本語能力の高さ=日本的常識がある』ということではないのです。日本では常識だと思われていること、例えばTPOに合わせたファッションなどは十分理解されていないことがあります。このギャップを埋めるには、『日本人にとって常識的なことでも知らないことがある』ということを前提に、一から研修やマニュアル作成で対応する必要があります」

小平 「確かに、日本語ができる中国人社員が相手でも、実際のビジネスシーンでは問題が発生します。TPOのほかに、日本語のできる中国人社員に対する日本人の不満としては『ITエンジニアなのに、専門用語が通じない』『日本語のニュアンスや行間が読めない』などもあります。相互理解に手間暇がかかると、コミュニケーション自体がストレスのもとになってしまいます。例えば当社ではクライアント企業向けに『外国人社員向けスタートアップパッケージ研修』としてギャップの最小化を目指すプログラムを提供して対応をしています」

井出参事官 「5つ目のポイントは中国のマスコミとの付き合い方です。欧米企業などは上手にやっているところが多いようです。現地駐在のトップも含め常日ごろから現地の記者たちとオープンに付き合いをしているので、何か問題が発生したときにも質問に答えやすいのです。一方で日本企業の場合、普段そのような付き合いはなく、問題発生時に記者が問い合わせをすると『防御的な対応』をして、いっそう閉鎖的なイメージを植え付けてしまうことが多いのです。日ごろから話ができる雰囲気をつくっていくことが大切です。

 最後になりますが、6つ目のポイントが現地コミュニティとの付き合いです。『アメリカでは日本企業・日本人が現地コミュニティと積極的に付き合っており、これが日米関係を基層で支えている。その点、中国ではまだまだ足りないのではないか。中国ではどのように積極的に現地コミュニティと付き合ったらよいか』という問題意識を持って、日本大使館と日本企業関係者とでよく意見交換していました。年に1回は、中国各地の日本人会・商工会議所の代表が北京に集まる大きな会合も開催していました。反日デモの後、特に日本企業関係者が中国における社会貢献活動をいっそう積極的に展開し、かつそれを『隠徳』として広報しないのではなく、うまく広報していく姿勢に転換したことは、注目すべき動きだと思います」

小平 「現地コミュニティとの付き合いといいますが、具体的には一般の日本企業・日本人はどの辺りから始めればよいのでしょうか」

井出参事官 「私は教育担当でもあったので、強くお勧めしたいのは各地域の大学に設置された日本語学部・学科の先生、学生さんたちとのお付き合いです。中国では英語に次いで日本語学習者の数が多いのですが、学校内では日本のテレビや最新の情報に触れたり、日本人と対話をしたりする機会はほとんどありません。

 皆さんが地域の日本語教育機関と積極的に交流すれば、それは学生たちにとっても日本について学ぶ機会になります。例えば各地の日本人会・日本商工会の忘年会・新年会などに、大学の先生を招待しているという話を聞いています。また企業で読み終わった日本語の新聞などを大学に寄付するととても喜ばれます。同時に日本人の価値観を理解してもらうことにもつながります。その交流で培った中国への理解、ネットワークは、ビジネス上のさまざまなシーンで役立つはずです」


 今回の井出参事官との対話で出てきた6つのポイントを、以下にまとめたい。

その1:ビジネスパーソンであっても日中政治関係を理解する
その2:中国社会を理解する
その3:クレーム対応、広報対応の能力を高める
その4:中国人スタッフの知っていること、知らないことを理解する
その5:中国のマスコミと話をしやすい雰囲気を保っておく
その6:現地コミュニティとうまく付き合う

 これらは、日本国内で外国人エンジニアと交流する際にも、十分応用できるものだろう。自社の考えや仕事の進め方を分かりやすく相手に伝えたうえで、自分のやり方で仕事を進める――。このような「自分発」のグローバル化を考えてみてはいかがだろうか。

 

今回のインデックス
 自分を「伝える力」の重要性
「自分発」のグローバル化を意識しよう

前のページ1 2


筆者プロフィール
小平達也(こだいらたつや)
ジェイエーエス 代表取締役社長
早稲田大学アジア太平洋研究センター 日中ビジネス推進フォーラム 特別講師
東京外国語大学 多言語・多文化教育研究センター コーディネーター養成プログラム アドバイザー

大手人材サービス会社にて、中国・インド・ベトナムなどの外国人社員の採用と活用を支援する「グローバル採用支援プログラム」の開発に携わる。中国事業部、中国法人、海外事業部を立ち上げ事業部長および董事(取締役)を務めた後、現職。ジェイエーエスではグローバル採用および職場への受け入れ活用に特化したコンサルティングサービスを行っており、外国人社員の活用・定着に関する豊富な経験に基づいた独自のメソッドは産業界から注目を集めているといわれている。

エンジニアの在り方、将来などについての記事一覧
日本人ITエンジニアはいなくなる?(本記事)
覆面座談会:ITエンジニアは育たない!?
豆蔵の萩本氏が語る理想のエンジニア像
エンジニアの夢を実現するには?
エンジニアは技術だけでは幸せになれない
人月での見積もりがエンジニアをダメにする
必要とされるエンジニアの条件
自分を見つめ直すきっかけにしたい6冊
エンジニアの将来を考える
自分戦略研究所、フォーラム化のお知らせ

@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。

現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。

これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。