自分戦略研究室 Book Review(8)
自分自身を見つめ直すのに必要なものは?
大杉文、鈴木麻紀、渡邉桂子
2005/9/27
プロジェクトごとに必要になる知識やスキルが異なるため、常に新しい知識を詰め込み、スキルを身に付ける。ITエンジニアならば当たり前の日常かもしれない。
では、こうした知識やスキルが身に付いた先には何が待っているのだろうか。常に必要とされる知識やスキルを身に付けていくだけでは、目標があいまいになる。
目標があいまいだと、さらに知識を蓄え、技術を身に付けることそのものに疑問を抱いてしまうようになるかもしれない。そうならないためには、少し落ち着いて自分自身を見つめ直してみることをお勧めしたい。これまでの自分のキャリアを振り返ることで、将来に対する考えがまとまり、整理できるようになるかもしれない。
今回本記事で取り上げるのは、絵本もあれば定番ものもある。いずれも“たまの読書”にお薦めできる本ばかりだ。これらの本を通して、いかに自分自身と向き合うか。そのコツやヒントをつかんでほしい。
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最初の一歩を踏み出せないあなたに |
続ぼくを探しに ビッグ・オーとの出会い シェル・シルヴァスタイン著、倉橋由美子訳 講談社 1982年7月 ISBN:4061133225 1575円(税込み) |
『ぼくを探しに』シリーズは、白黒のシンプルな絵とほんのわずかな言葉だけのシンプルな絵本です。日本で初版が発売されたのは1982年、それ以来もう20年以上も読み続けられています。
小さな三角形のかけらであるぼくは、誰かがやってきて自分をどこかに連れて行ってくれるのをじっと待っていました。いろいろな形がやってきますが、ぼくは、あれがいや、ここがいや、これはぼくが探している「誰か」ではない、とずっと理想の「誰か」がやってくるのを待ち続けていました。そんなある日、ぼくはいままでの誰とも違う「ビッグ・オー」と出会います。誰にも何も求めない自立した存在=ビッグ・オーと話すうちに、ぼくはある決断をします。
わたしはこのぼくの決断から、「最初の一歩を踏み出す勇気」や「自分を変えるのは、自分自身なんだ」というメッセージを感じました。でも、これはわたしの感じ方。この『続ぼくを探しに』は、読む人によって、またそのときの状況によって、どのようにも読み取ることができる不思議な話なのです。
ぼくが探していた「誰か」は、恋愛や仕事、もっと大きく人生そのものかもしれません。あなたも、白馬に乗った王女様(王子様)がある日やってきて、生活をガラリと変えてくれたり、会社があなたに向いている仕事を与えてくれるのを待っていませんか。
思うようにいかない、どうしたらよいのか分からない、現状を何とかして打破したい……。そんな閉そく感や不満を何となく感じ、自分のキャリアや未来の可能性に迷ったときに、ぼくの決断の意味を考えることで、次の展開へのきっかけが見つかるかもしれません。
人間は、もっと可能性に満ちている |
ハーバード流 キャリア・チェンジ術 ハーミニア・イバラ著 宮田貴子、金井嘉宏訳 翔泳社 2003年5月 ISBN:4798103861 2310円(税込み) |
わたしは、昨春(2004年)転職をすることによってキャリアチェンジをしたのですが、その行程には2年の月日を要しました。
キャリアチェンジへの最初のきっかけは、「このままではいけない」という思いでした。そのころわたしは、ITサービス系人材ビジネス企業で人事採用関連の業務に携わっており、仕事にも職場の環境にも満足していました。しかし、業務を通じて知り合うITエンジニアの雇用の環境に危機感を抱き、それを何とかできないものかという思いが日々大きくなっていくのを抑えられなくなってきていました。
でも、自分に何ができるのか、何をやったらいいのかが分かりませんでした。そんな思いを、社内外を問わずいろいろな人に聞いてもらい、またその人たちの考え方やアドバイスを聞いて回ったのでした。思えば、このころからわたしのキャリアチェンジは始まっていたのかもしれません。
そして、考えているだけでは始まらないので何かをやってみよう、とキャリアカウンセリングの資格取得に向けて通学と勉強を始め、そこで得た知識はもちろんのこと、先生やクラスメートと話す中で、あらためて自分の考えを再構築することができたのでした。そんなときに担任の先生から薦められて読んだのが、この本です。
タイトルこそ「ハーバード流」とちょっと硬めですが、紹介されている39人のキャリアチェンジの過程として、誰にでも起こるかもしれない事例が多く書かれています。偶然の重なりからインスピレーションを感じ新天地を見つけた夫婦、たまたまドライブが長時間に及び自分自身と向き合う時間ができたことで、本当にやりたいことにが明確になった男性、最初の転職に失敗したことで、自分の価値感に気付いた女性など。
いままでのキャリアについて書かれた本や学説の多くは、「目標を決めて、それに向かって計画を立てる」ことを推奨してきました。それに対してこの本は、「まず、動け!」と語りかけます。
「人間は、もっと可能性に満ちている。」(本書244ページ、監修者解説より)
可能性を探りまず動いてみる。その中で小さな勝利を積み重ね、大きな勝利につなげる。この本が説くキャリアチェンジの方法は、まさにわたし自身が歩んできた過程を肯定してくれる考え方であり、繰り返し読むうちに、わたしの漠とした思いは確信となっていったのでした。まさにわたしのキャリアチェンジのバイブルともいえる本です。
わたしのキャリアチェンジの旅は、転職することで1つの形となって実現されました。@ITサイトのようなメディアで働くという発想は、キャリアチェンジを考え始めた当初わたしの頭の中にはありませんでしたが、2年間の試行錯誤と軌道修正を繰り返す中で、メディア側からアプローチするという選択肢が生まれ、そのためには会社を替わる必要があったため、結果的に転職を決意することになったのです。
今回わたしはたまたま転職をするという選択をしましたが、すべてのキャリアチェンジを目指す人が会社を替わる必要があるとは思いません。なぜなら、わたしのキャリアチェンンジはアイデンティティのチェンジでもあり、会社を替わることだけではなく、わたし自身が変わることでもあったからです。そしてわたしのキャリアチェンジは、いまもまだ続いているのです。
仕事がハードなときに、本書を読んで初心に帰ろう |
いやいやえん 中川李枝子、大村百合子、子どもの本研究会著 福音館書店 1962年1月 ISBN:4834000109 1260円(税込み) |
子どものころに読んだ本で、皆さんの記憶に残っている本は何でしょうか。私が大好きでいまだに持っている本がこの『いやいやえん』です。
本書の主人公は、ちゅーりっぷ保育園に通う「しげる」。全体で7つの話に分かれているのですが、本書のタイトルにもなっている「いやいやえん」は最後の話です。
しげるは、保育園の決まりを守らずに物置に入れられそうになったり、いたずらをしても全部友達のせいにしたり、先生のいうことも両親のいうこともまったく聞かない、こんな子どもが自分の子どもだったら絶対に嫌だなという、わがままでやんちゃな4歳児です。
ある日、しげるはお父さんが買ってきた真っ赤な自動車が赤色だったことが不満で、散々文句を言い続けます。
「赤いじどうしゃなんて、いやだよう。
女のじどうしゃなんて、いやだよう。
くろいのでなくちゃ、いやだよう」
嫌なら、よその子にあげてしまうよといわれても、
「いやだい。あげちゃいやだい」
と「いやだよう」を繰り返します。
あれも嫌、これも嫌と嫌を大連発するしげるが、連れて行かれたのが「いやいやえん」という名の保育園なのです。
いやいやえんでは「嫌」といったものは何1つやらなくてもよいのです。が、赤が嫌だといったら、大好物の赤いりんごも食べられず、赤いおもちゃで遊ぶこともできず、赤に関係することは何もできないのです。その中でしげるは、次第にちゅーりっぷ保育園の良さを実感していきます。
私は昼寝の時間もなければ、お弁当もどこで食べてもよくて、泥んこになって遊んでも怒られることもない、「遊びの中で子どもたちは最もよく学ぶことができる」という自由教育の幼稚園に通っていました。
子供心に、ちゅーりっぷ保育園のように細かくやってはいけない約束事がたくさんあるのは嫌だ、けれどもいやいやえんはもっと嫌で怖いところだと思い、「嫌だ、嫌だ」と思っている自分に気付き、いやいやえんに連れて行かれることに怯え、幼心に自分が通っている幼稚園は何ていい幼稚園なんだろうと思ったことを思い出します。
年齢を重ねるごとにやりたいことだけをやって過ごすことは難しくなり、あれが嫌だ、これが嫌だと思うことが増えてくると、本棚から古くてボロボロになった本書を引っ張り出して読み返し、子どものころに感じたことを思い出し童心に帰ることができる私にとって最良の1冊です。
ヒューマンスキルについて考えたいときに |
人を動かす 新装版 デール・カーネギー著、山口博訳 創元社 1999年10月 ISBN:4422100513 1575円(税込み) |
『人を動かす』(原書『How to Win Friends and Influence People』)は1936年に初版が発売され、半世紀にわたって世界各国の人々が読み続けている大ベストセラーです。
時代が移り変わった今日でも相変わらず親しまれる本として存在する理由は、時代背景に合わせて事例内容を改訂し続けていることもあるでしょう。しかしそれだけではなく、過去の偉人たちの経験の成功例や失敗例をふんだんに織り交ぜた内容が読者の記憶に残りやすく、それ故に実際の行動に落とし込みやすいからではないでしょうか。
さて本書は「人を動かす三原則」「人に好かれる六原則」「人を説得する十二原則」「人を変える九原則」、そしておまけの「幸福な家庭をつくる七原則」の5章で構成されています。例えば、「人に好かれる六原則」の中には「笑顔を忘れない」という原則があります。なーんだそんなことかと思うような原則かもしれませんが、簡単に思えることが実はなかなかできなかったりするものではないでしょうか。
しかめっ面をしながら仕事をしていたり、家に帰れば疲れて笑うことさえ忘れていたりすることがありませんか?
事例の1つとして挙げられていた、ニューヨークのデパートでクリスマス・セール期間中に出していた広告を紹介したいと思います。
「クリスマスの笑顔
元手がいらない。しかも利益は莫大。
与えても減らず、与えられたものは豊かになる。
一瞬のあいだ見せれば、その記憶は永久につづく。
どんな金持ちもこれなしでは暮らせない。どんな貧乏人もこれによって豊かになる。
家庭に幸福を、商売に善意をもたらす。
友情の合言葉。
つかれたものにとっては休養、失意の人にとっては光明、悲しむものにとっては太陽、悩めるものにとっては自然の解毒剤となる。
買うことも、強要することも、借りることも、盗むこともできない。無償で与えてはじめて値打ちが出る。
クリスマス・セールでつかれきった店員のうちに、これをお見せしないものがございました節は、おそれいりますが、お客さまのぶんをお見せ願いたいと存じます。笑顔を使い切った人間ほど、笑顔を必要とするものはございません。」
仕事でもプライベートでも、ちょっとした場面で必ず役に立ちそうな分かりやすい原則が多く書かれた内容ですので、ヒューマンスキル、コミュニケーションスキルについて考えるとき、ぜひ手軽に手にとっていただきたい1冊です。読み終えた後、自分自身の苦手な原則が解き明かされることと思います。
知らずに守りに入っていることに気付かせてくれる |
仕事は楽しいかね? デイル・ドーテン著、野津智子訳 きこ書房 2001年11月 ISBN:4877710787 1365円(税込み) |
タイトルが印象的で、何となく記憶に残っていたのが本書。今回初めて、内容をしっかりと読むことにしました。短編なので非常に読みやすいです。
ストーリー仕立ての啓もう書であるのですが、読んでいて最初に衝撃を受けました。過去に呼んだ啓もう書とはひと味違ったからです。ストーリーは、大雪のため、空港で足止めをくった35歳のビジネスマンが、見知らぬ老人に出会い、アドバイスを受けるというものです。
その老人、実は超有名コンサルタントらしいのです。私が衝撃を受けた老人の言葉というのは、「計画を立てても無駄だ」というものです。あれ、計画を立てるっていいことではないのでしょうか?
その老人が人生で唯一掲げた目標は、「明日は今日と違う自分になる」ということでした。計画を立てて自分を管理している気分になるのではなくて、毎日毎日、昨日より良くなることが目標なのだそうです。
なるほど、「何もしない」という概念の上の階層に「計画を立てる」または「計画を立てない」という選択肢が横並びにあるわけではなくて、「何もしない」概念の上に、「計画を立てて自分を管理する」という概念があり、そのさらに上に「自分を管理する計画にとらわれずに領域を広める」という概念が存在するのです。老人のいう「計画しない」は、私が思っていたようなことではありませんでした。
過去の成功者の例を挙げて(例えば、風邪薬から生まれたコカコーラなど)、新しいものは計画されてこの世に出てきたものではない、といいます。ありとあらゆる可能性を「試す」ことで誰にでも成功するチャンスがあるのです。ただ、多くの人が「試す」ことをしていないだけ、ということです。
コカコーラの例でいうなら、確かに、自分が作った風邪薬を従業員が水で薄めて「おいしいおいしい」と飲んでいたら、「馬鹿なことを」と思ってしまうでしょう。「それでは売り出してみよう」とは思えない気がします。この時点で「試す」チャンスを逃しているのです。
このビジネスマンは、老人との一夜をきっかけに大きく変わり、その後成功を収めるようです。たった一夜ですべてを悟り、大きく成功したというのは少しうさんくさいのですが、思考転換のきっかけにはよい本かもしれません。ただ、いかにも「英語をそのまま訳した本」といった感じが強いのが残念だしたが。
毎日忙しくて将来を考える余裕がないときに |
7つの習慣――成功には原則があった! |
「7つの習慣」は哲学書です。○つの習慣、と聞いて連想したことは、「食後30分以内に歯を磨く」とか、「就寝前4時間はものを食べない」といったたぐいのことでした。本書もその延長線上にあるものかと思っていましたが、もっと奥深い、根本的な価値観のことを示していました。
私にとっては、「習慣」というと何だか表面的な、軽い感じがしてしまいます。だが本書を読むと、習慣に「価値観」とか「理念」のような言葉が持つのと同様の「重み」を感じます。
7つの習慣とは、具体的には以下のことです。
第一の習慣:主体性を発揮する
第二の習慣:目的をもって行動する
第三の習慣:重要事項を優先する
第四の習慣:Win-Winを考える
第五の習慣:理解してから理解される
第六の習慣:相乗効果を発揮する
第七の習慣:刃を研ぐ
最初に目次を見たときの感想は「うーん、分かるようでさっぱり分からない。当たり前のようだが、実感がわかない」というものでした。
しかし読み進めるにつれ、筆者が具体的なエピソードを交えながら実に分かりやすくこれらの習慣を説いているのです。分かりやすく、というのは少し語弊があるかもしれません。なぜならばそれぞれの内容が非常に奥深いため、すぐに完全に理解できるはずもなく、読むたびに新しい発見があるからです。
1つ1つの習慣については、ここでは触れませんが、全体を通して私が感じ取ったことは、「環境があって自分が存在する」のではなく、あくまで「自分が存在し、その存在が環境を形成している」ということです。
つまり、自分が働きかけることで自分の環境を変えることができます。逆にいえば、現在置かれている環境に不満を持っている人は、その環境をつくり出した自分にこそ責任があるのです。この事実を理解し、納得した人と、そうでない人では、まったく異なった人生になるのでしょう。
その際に重要なのが「自分」の軸を保つための「指標」であり、ミッションステートメントだというのです。偏差値教育に代表されるような、「相対評価」に慣れてきた私たちにとって、周囲の影響を受けない「自分」の軸を持つことは非常に重要であると感じます。時間はかかるでしょうが、私も自分のミッションステートメントを明らかにしていこうと考えています。
第三の習慣に連動したかたちで、フランクリン・プランナーというスケジュール管理ツールが発売されています。普通のスケジュール帳に加えて、ミッションステートメントへと導いてくれる自己発見ツールが盛り込まれていますので、興味のある人は試してもいいかもしれません。
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