国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?
第29回 日本人が知らないフィリピン系ITエンジニアの実力
小平達也
2008/7/3
■日本で働くフィリピン人ITエンジニアの現状
日本企業は高ポテンシャル層を中心に海外のITエンジニアを積極採用し、国内には3万5000人を超える外国人ITエンジニアがいる。在日フィリピン人ITエンジニアの現状を見てみる。フィリピン人ITエンジニアの採用実績がある、先に紹介したジョブストリートの日本法人の菱垣雄介社長に話を聞いた。同社はフィリピンから累計で約90人のITエンジニアを採用している実績がある(主要な分野はファームウェア開発)。
小平 「フィリピンのITエンジニアを日本企業に派遣し始めた経緯を教えてください」
菱垣氏 「東南アジアの人々に、より深い業務経験を得てほしいとの考えから、東南アジアで採用し、日本国内で雇用するという事業を始めました。当初はハードウェアの品質管理業務も行っていましたが、徐々にソフトウェア開発分野へ派遣業務の比重を高めていきました。フィリピンを選んだのは、日本との交通時間が短かったことが最大の理由でした。
もちろん、大学進学率が高く、大卒者採用が行いやすいこと、IT産業が発達していることも背景としてありました。また、豊富な人材を持つ割に国内産業は成長途上なので、現地の有能な人材は『チャンスが限られている』という問題意識を持っていました。」
小平 「フィリピンのITエンジニアの特徴は何でしょうか」
菱垣氏 「いくつか挙げられますが、まずは背景的なことをご紹介すると、1つ目のキーワードは『国内産業の不在』です。フィリピンの大学進学率は28%で、ベトナムの10%、インドネシアの17%と比べると東南アジアの中ではとても高いのですが、国内産業の発展がこれからなので、上流工程に対応できるエンジニアが少ないのです。
当社で行う面接の選考結果を見ても、特に電子回路系は、自分で実践的に回路を理解し設計できるような人はあまりいませんでした。また、ファームウェア系といっても、ユーザーインターフェイスなどハードウェアの知識が要求されない業務に従事している人が大半を占めています。インターネット関連のソフトウェア開発エンジニアにしても、小規模なシステム構築経験しかないのが普通です。
現在のフィリピンでは、新しい回路や機構を開発するという産業はまだありません。産業がないところでは、経験も得られない。知識と意欲がありながらも、業務経験を積む機会に恵まれていない、という状況なのです」
小平 「なるほど。高い大学進学率を誇りながら、卒業後国内産業で力を発揮する機会自体が少ないわけですね」
菱垣氏 「そのとおりです。2つ目は『キャリアパスの不在』です。現在のフィリピンのIT産業は、中国やインドとは異なりオンサイト−オフショア、上流−下流などの軸で描けるようなキャリアパスはまだありません。例えば、フィリピン国内のソフトウェア技術者は、収入の変動が非常に激しいものの、平均すれば500ドル程度の月収をシーリング(上限)とした業務にとどまることが多いのです。技術的にも収入的にもその上を目指そうとすれば、シンガポール、アメリカ、ヨーロッパといった場所での業務に挑戦する必要があります」
なお、フィリピンの方の多くは、非常にフレンドリーで、日本人だけでなくほかの国の人々とも親和性が高いといえると思います。分かりやすい例を挙げると、フィリピン人の医者(メディカル・ドクター)が他国に行きお手伝いさんや介護士をする、というホスピタリティが高い精神性は、フィリピン以外の国ではちょっと想像ができないですね。
その一方で、柔軟性が高過ぎるというか、物事を自分の都合の良いように解釈してしまうことがあります。自分たちに課すハードルや、業務に求められる必要条件の設定を勝手に低くしがちであるという面が一部ではあるのです」
小平 「ところで、語学の話になるのですが、フィリピンには英語によるコミュニケーション力のポテンシャルの高さを感じますが、日本語運用能力はどの程度なのでしょうか」
菱垣氏 「現地でジョブストリートに登録しているITエンジニア12万6289人のうち、日本語を業務レベルで習得している、と自己申告している人は174人で、全体の0.1%にすぎないのです。実は、これはフィリピンに限った話ではなく、当社が展開しているアジア8カ国全体にいえます。これがアジアまたは世界の中での『日本語の地位の現実』なのです。従って、日本企業が、“技術力+やる気”のある人材と一緒に仕事をしたければ、そのための受け入れ環境を整えること、日本語教育制度の充実などが不可欠になります」
今回出てきたフィリピンに関する5つのポイントを、以下にまとめる。
その1:フィリピンは日本から近く、ほぼ同じタイムゾーンに位置している
その2:フィリピン人はホスピタリティがあり、コミュニケーション能力が高い
その3:フィリピンは英語人材が豊富
その4:フィリピンのITエンジニアは理工系の高等教育を受けている
その5:フィリピンの国内産業は発展途上段階であるため、ITエンジニアが上流工程などのキャリアを考える場合、海外勤務を選ぶことが多い
今回のインデックス |
フィリピンのITエンジニアは、高いポテンシャルを持っている |
日本で働くフィリピン人ITエンジニアの現状 |
筆者プロフィール |
小平達也(こだいらたつや) ジェイエーエス 代表取締役社長 早稲田大学アジア太平洋研究センター 日中ビジネス推進フォーラム 特別講師 東京外国語大学 多言語・多文化教育研究センター コーディネーター養成プログラム アドバイザー 大手人材サービス会社にて、中国・インド・ベトナムなどの外国人社員の採用と活用を支援する「グローバル採用支援プログラム」の開発に携わる。中国事業部、中国法人、海外事業部を立ち上げ事業部長および董事(取締役)を務めた後、現職。ジェイエーエスではグローバル採用および職場への受け入れ活用に特化したコンサルティングサービスを行っており、外国人社員の活用・定着に関する豊富な経験に基づいた独自のメソッドは産業界から注目を集めているといわれている。 |
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