ITエンジニアのためのビジネスコミュニケーション診断

第5回 コミュニケーションは「情報」のキャッチボール

鹿野晴夫・大塚千春(アイ・シー・イー)
2009/1/14

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CompTIA日本支局が提供する「ビジネス・コミュニケーション・スキル診断」(BCSA)のスキル定義に基づき、ビジネスコミュニケーション力簡易診断テストを掲載する。「今日からできるスキルアップ術」で、ビジネスコミュニケーション力のスキルアップを図ってほしい。

 前回の記事「相手にYesといわせる説得力」では、ビジネスコミュニケーションの目的を達成するうえで欠かせない相手の納得を引き出すスキルについて解説した。物事には、必ず「メリット」と「デメリット」がある。相手の納得を引き出すには、相手の考える「メリット」が「デメリット」を上回っていることが鍵となる。相手がメリットを感じることができれば、納得を得られる可能性が高くなる。

ビジネスコミュニケーション力を進歩させる

 これまで4回にわたって、ビジネスコミュケーションの基本となる4つのスキル「信頼力」「説明力」「質問力」「説得力」を紹介してきた。しかし、4つのスキルを理解しただけでは、継続的なスキルアップには不十分だ。そこで今回は、「ビジネスコミュニケーション力を進歩させるスキル」を説明する。

 コミュニケーション力不足で問題が発生した事例を見てみよう(事例1)。

事例1
 新しい職場に異動してきたAさんは、不慣れな仕事を担当することになった。当初は、周囲の期待を感じてはりきっていたが、期待ほどの成果を挙げられず、だんだんとストレスがたまってきた。ある日、マネージャのBさんに呼ばれ、作業の遅延について指摘を受けた。
Bマネージャ: 「Aさんにお願いした作業が、期日までに終了しなかった理由について教えてほしいのだが」
Aさん    :

「そういわれましても、ほかにも作業があります。私も忙しいんです」

Bマネージャ: 「忙しいのは分かる。問題は、期日までに何の報告もなく、期日になってできていないと分かったことだ」
Aさん    : 「Cさんに頼んでいた作業が遅れたためです」
Bマネージャ: 「Cさんはアルバイトで、君が作業を指示しているのだから、それは理由にならないだろう」
Aさん    : 「みんな遅くまで頑張っているんです!」
Bマネージャ: 遅れた理由はもういい。作業がいつ完成するのか、作業計画を立てて期日を報告するように
 
  ヒートアップしたAさんは、不満そうな表情で打ち合わせの場を後にした。

 事例1でのAさんの最大の問題点は何だろう? それは、ビジネスコミュニケーションが「情報」のキャッチボールであることを忘れて、「感情」のキャッチボールをしていることである。

 Aさんの気持ちとしては、「自分は頑張っている」「みんな忙しいんだ」「ちょっとした失敗でいちいち指摘しなくてもいいではないか」といったところかもしれない。しかし、マネージャのBさんにしてみれば、「頑張っているのは君たちだけじゃない」「俺も忙しい」「いちいちいいたくはないが、君の失敗のせいでほかのメンバーが困っている」という気持ちだろう。

 このような感情のキャッチボールをしても、何も解決しない。ビジネスにおけるコミュニケーションは、組織や事業の目標達成のためにあることを常に忘れてはいけない。キャッチボールすべきは、目標達成に役立つ情報だけなのだ。

 次に、Aさんが情報のキャッチボールをしたらどうなるかを見てみよう(事例2)。

事例2
Bマネージャ: 「Aさんにお願いした作業が期日までに終了しなかった理由について教えてほしいのだが」
Aさん    : 「はい。直接の原因は、Cさんに指示していた作業が遅れたことです。しかし、私が作業の進ちょく状況を把握して、適切なフォローができていれば防げたと思います」
Bマネージャ: 「なるほど。Aさんの状況は私も理解しているつもりだ。済んでしまったことは仕方ないとして、再発防止案はあるのかな?」
Aさん    : 「Cさんと話をして、日次で進ちょく状況を確認することにしました」
Bマネージャ: 「分かった。それでいいだろう。進ちょく状況が思わしくないときは報告してくれ」
Aさん    : 「かしこまりました」

 上司に怒りをぶちまけてもAさんの忙しさは変わらない。無能な人間と評価されるか、意地悪をされて仕事を増やされるのが落ちだ。まず、原因と改善策という情報を発信し、上司の信頼を得る。次に、進ちょく状況という情報を発信しつつ、作業分担の見直しをお願いするのが得策だ。

 目標達成に役立つ情報だけをキャッチボールすれば、共通の目標達成のために努力していることがお互いに確認でき、問題は起こりにくい。情報に感情を加えてしまうと、もうビジネスのコミュニケーションではなくなってしまうのだ。

 しかし実際、お客さまや外部の人とコミュニケーションする際は極めて論理的な話ができる人でも、内部の人とのコミュニケーションになると感情のキャッチボールをし、問題を引き起こしてしまう人が多い。

 常に情報のキャッチボールができるようになるには、どうしたら良いのだろうか? 解説の前に、簡易版ビジネスコミュニケーション力診断にチャレンジしてみよう。

 

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