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2011年度新卒採用を振り返る

第1回 どう生き延びた? “激戦”といわれた2011年度新卒採用


金武明日香(@IT自分戦略研究所)
2009/7/12

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不安のためか、学生は早めに動いた

 データや企業側の動向を見る限り、2011年度卒の新卒採用を取り巻く環境はそれほど悪くなっておらず、復調の兆しが早く見えている。だが、就職活動を行う学生たちは強い不安感を抱いていたようだ。その気持ちは、学生の行動にも現れている。

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 これまで見てきたように、企業は採用活動をあまり早期化させなかった。そのため、就職活動全体のスケジュールは、例年とほとんど変化がない。一方、学生の動きはかなり変わった。「10月早々からナビサイトに登録するなど、スタートダッシュを行う学生が増えた」と、栗田氏は分析する。

 「状況は厳しくなる」という不安感からか、早期に就職活動を意識し始める学生の割合が、昨年よりも増えた。また、「大手企業ばかりを回っていては就職できない」と、学生は複数業界にエントリーを行ったようだ。結果、1人当たりのエントリー数は、2010年度卒の77.1社から2011年度卒では80.1社に増加(11年卒マイコミ学生就職モニター調査 10-5月の活動状況)。平均エントリーシート提出数も、16.3社(2010年度卒)から18.5社(2011年度卒)に増加した。

 状況が厳しいため、大手企業だけではなく中小企業に意識を向ける学生が増えたものの、実際のセミナー予約の場面では、学生の「大手傾向」は今年も相変わらず存在したようだ。一方、あまりに手広く範囲を広げすぎて、業界研究が手薄になってしまった学生も少なくなかった。

 「ただ、不安感や緊張がそれなりにある割には、マイペースな学生が多く、就職活動が本格化してからの具体的な行動は、前年とさほど変わらなかったように思います」と、栗田氏は振り返る。

理系学生も、早めに活動

 学生の動きは、全体的に早期化したという。では、理系学生はどうだったのだろうか。

 一般的に「理系学生は、文系学生に比べて就職活動を始める時期が遅い」といわれる。だが、2011年度卒の理系学生は、就職活動を意識して例年より早めに動く人が増えたようだ。その理由の1つに「推薦に対する価値観の変化」がある、と岡崎氏は指摘する。

 「リーマンショック以前は、面接対策をしなくても推薦面接で落ちる人はほとんどいませんでした。しかし、不況になってから状況が変わり、推薦面接でも落ちるケースが増えてきました。しかも、難易度はどんどん高くなっています。2009年度卒では、うまく答えられなくても面接官が話を拾ってくれましたが、2010年度卒になると、うまく答えられなければ落ちてしまうというケースが増えたようです」 (岡崎氏)

内定保有状況(文理男女別)
図3:内定保有率(文理男女別)
(11年卒マイコミ内定率調査:3−5月」より)

 これらの努力が実ったためか、理系学生の就職活動は比較的好調だったようだ。5月時点の内定保有率(全体)が41.4%であるのに対して、理系男子は48.7%、理系女子は41.4%(図3)。男女どちらも、文系と比べると10ポイントほど高い数値を出している。

内定をもらう学生、もらわない学生

 「『厳選採用』方針の結果、内定をもらう人ともらわない人の二極化が進むだろう」といわれていたが、実際はどうだったのか。栗田氏によれば、「内定をもらった学生は、早めに業界研究をしたり就職情報サイトを活用したりしていた」という。

 なぜ、業界研究が内定に結び付くのだろうか。前提として、栗田氏は「人事側が面接時に見るポイント」を3つ挙げた。

 まず「一緒に働ける人かどうか」、つまり「価値観」が合うかどうかがある。次に「志望動機」。これは「会社への熱意、興味関心の高さ」といえるだろう。そして、最後に「個人の能力やパーソナリティ」だ。

 「これら3つの中で、面接官が最も判断しやすいのは『熱意』と『価値観』。能力やパーソナリティは、質問側にスキルが必要になるので、やや判断しにくいからです。そのため、しっかり下調べができず『この業界で働きたい』『この会社で働きたい』という熱意を伝えられなかった学生は、内定を逃してしまう」と、栗田氏は「業界研究」の重要性を訴えた。

 岡崎氏は、学生が面接を通過できない理由の1つとして「あきらめの早さ」を指摘した。

 「これは理系学生に限らないことですが、話すことが苦手な学生は、面接でうまく話せないと『失敗した』と思って伝えることをあきらめてしまう場合が多いです。しかし、重要なのは『話のうまさ』ではなく、『自分の考えがある』こと。あきらめるのは非常にもったいない」 (岡崎氏)

 極論をいってしまえば、「しゃべり」はうまくなくてもいい。それよりも、「話す内容の整合性が取れていること」「しっかり考え抜いた意見や考える力を持っていること」の方が重要だ。面接で発言を間違えてしまったら、「失敗したからいいや」とあきらめるのではなく、「もう一度いい直してもいいですか」と提案するなど、“しぶとさ”を見せることが重要なのだという。

「理系学生はしっかり勉強すべし」

 最後に、これから就職活動を始める2012年度卒の学生に向けて、岡崎氏と栗田氏にアドバイスをもらった。

 岡崎氏は「理系学生にはしっかり勉強してほしい」と主張する。目的も分からないままインターンに参加したり、時間をやみくもに使ったりするより、しっかり勉強する方がいいという。

 IT業界は、技術革新のスピードが非常に速い。そのスピードや新しい技術に慣れ親しんでいる学生は、企業にとって魅力的な存在である。

 「これから就職活動を始める学生に持っていてほしいものは、『新しいものへの意見や興味』『深い専門性』『専門馬鹿にならないような柔軟性』です。これらのスキルは、しっかり勉強することによって身に付くでしょう」と、岡崎氏は語る。

 「社会に慣れる」という目的だけなら、研究を止めてまでインターンに参加する必要はない、というのが岡崎氏の意見だ。一方で、インターンに参加すると「なぜ自分が勉強しているのか」に気が付く学生も多いという。もしインターンに参加するなら、数日の短い「職業体験」的なものではなく、「企業は目的を持って活動している」ということを実感できるもの、仕事の流れ全体が分かるものに参加するとよい、と岡崎氏はアドバイスする。

 気持ちがはやるあまり、中途半端な活動をするより、じっくり自分の専門領域を勉強する。これは回り道のようでいて、就職には一番近い道かもしれない。

就職活動の源泉は、「なぜ仕事をするのか」という問い

 栗田氏は、「そもそもなぜ仕事をするのか」ということについて真剣に考えてほしい、と語る。

 「大事なのは、早い時期にいかに『仕事』というものと向き合うかどうか。なぜ自分は仕事をするのか。どんな仕事がしたいのか。この問いへの自分なりの答えを見つけてほしいですね」

 「なぜ仕事をするのか」について、きちんと考えて答えを見つければ、志望業界や志望職種、自己PRなどが自ずとできてくる。「なぜ働かなければならないのかが分からない」といった状態で自己分析をしても、うまくいくはずはない。「なぜ仕事をするか」、この問いこそが就職活動の“源泉”である、と栗田氏は指摘する。

 とはいえ、実際に働いたことがない学生が「なぜ仕事をするのか」について考えるのは、なかなか難しいだろう。就職活動の下準備として、学生は先輩に話を聞いてみるといいと、栗田氏はアドバイスする。いろいろな人に会って仕事の話を聞いたりインターンに参加するなど、実際に働いている人の声を聞くことが重要だ。「夏休みのうちに、知見を広めてほしい」と、栗田氏は語った。

◇◇◇

特集「2011年度 新卒採用を振り返る」 ラインアップ

 特集「2011年度 新卒採用を振り返る」では、7月16日(金)までの1週間、毎日記事を更新する。IT業界就職ラボの連載でおなじみの井上敬浩さんに、その独特な就職活動を振り返ってもらうインタビューや、ディー・エヌ・エーとTISの内定者インタビュー、野村総合研究所 人事担当者のインタビューをお送りする予定だ。

 これから就職活動を始める「2012年度新卒」のエンジニア志望の皆さんは、ぜひ参考にしてほしい。

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