最初は特に業界を絞らず、さまざまなセミナーに出たり、インターン情報を集めたりしていたという井上さん。周囲はコンサルタント志望が多かったそうだが、井上さんはコンサルタントではなく、IT業界で「自分で何かを作る」プレーヤーになりたいと考えるようになった。
「僕は『自分で何かを作る』のが楽しくて、これまでいろいろな開発をしてきました。IT業界なら、その経験がそのまま生かせるのではないかと感じました。それに、自分で考えて自分で作る、という『プレーヤー』になりたかったんです。コンサルタントはプレーヤーになれないのではないかと思い、エンジニアを目指すことに決めました」
「Webサービス企業のエンジニア」を 選んだ経緯について語る井上さん |
自分の志望する方向を決めた後、井上さんがしたことは「インターンへの参加」だった。「IT業界で働くって、どういうことなんだろう?」という疑問を解消するために、井上さんはサーバやシステムインテグレーションを扱う大手IT企業と、インターネットショッピング事業を扱うWebサービス企業、2社のインターンに参加した。
前者では、システムエンジニア(SE)ではなく、開発職としてインターンに参加。実はこの時点で、SEという職種に就くつもりはなかったという。「自分で考えたサービスを作る」という仕事がしたかったためだ。
インターンは3週間。最初の1週間は全体研修でビジネスマナーなどを学び、残りの2週間は実際に開発部署で仕事を体験した。マイクロプロセッサのプログラミングに携わったという。
「実際に開発部署に通って仕事をする、という体験を通じて、何となく『エンジニアとして働くこと』が肌で感じられました。加えて、その会社はこういう仕事もしているんだな、ということを知ることができたのは良かったですね。サーバとかばかりだと思っていたので」
年末にはWebサービス企業のインターンに参加した。こちらは2週間のプログラムで、学生が1つの部屋に集まり、課題を与えられるタイプのインターンだった。
「その会社のAPIを使ってWebサービスを作るという課題でした。僕はユーザーの『欲しいものリスト』から価格や属性の情報を取ってきてレーダーチャートを作り、似たユーザー同士でつながるようなサービスを開発しました。どうやら好評だったようで、優勝できました」
同じIT企業とはいっても大きく性格の異なる2社を体験した井上さんは、この経験から「自分の行きたい方向が決まった」と語る。
「やっぱり自分はBtoCのWebサービスを作る会社で働きたい、と感じました。両方の仕事を実際に体験できたからこそ、そう決めることができたんだと思います」
単純にBtoCのWebサービスを開発しているだけではなく、すでにある程度のユーザーを確保できていて、かつエンジニアとして働きやすい、技術に優れた会社がいい――井上さんは、そこまで自分の志望を絞った。それだけ絞ると、日本で候補に挙げられる企業はほんの数社。だが、井上さんはその基準を緩めるようなことをせず、候補に挙がった4社を狙い撃ちした。
2010年初頭からエントリーを始め、2月末にDeNAから内定を得た井上さん。選考は、グループ面接、エンジニアとの面接が2回、そして最終面接という順番だった。面接では学生時代のサービス開発の話や研究の話、ITの世界でいま気になっているトピックなどについて聞かれたという。
井上さんの希望するような企業は、まだまだ少ない。それだけ志望を絞ることに、不安はなかったのだろうか。
「もちろん不安はありました。友人の話を聞いていると、みんな何十社と受けていましたから。でも、あまりたくさん受けるのではなく、本当に行きたい会社を狙い撃ちした方がよいと考えたんです」
「滑り止め」のような気持ちで受ける会社を増やすと、かえって本命の会社に集中できなかったり、ボロが出たりするのではないか。それに、景気が悪いからといって、妥協するのは嫌だった、と井上さんは振り返る。井上さん自身の性格でもあるようで、実は大学受験のときも、1校しか受けなかったそうだ。
井上さんは、最終的にDeNA以外にもWebサービス企業の内定を得た。その中で、DeNAを選んだ決め手は何だったのだろうか。
「1つは、その会社にいるエンジニアがどれだけ優秀かということ。もう1つは、1年目からどれだけ最前線で仕事をできるか、ということでした」
DeNAのエンジニアは、モバゲータウンの開発者である取締役の川崎修平氏をはじめ、優秀なエンジニアがそろっていた、と井上さんは語る。また、あまり大きくなりすぎていない会社なら、より多くの裁量を持って働くことができるだろう、と考えたのだという。
逆に、採用担当が井上さんを選んだポイントはどのような部分だったのか。ヒューマンリソース本部の安藤裕史氏は、「井上さんに限った話ではないが」と前置きをしつつ、「新しいものを生み出そうという強い意欲がある学生を採用したいと考えています。これは、自分から興味を持って、何かに自発的に取り組んでいる学生を採用したいということです。また、じっくり考え抜いて発言できる学生が望ましいですね」と評価ポイントを語る。研究以外でもWebサービスを開発したり、自分がどのような会社で働きたいかを考え抜いて、その軸に沿って就職活動を行った井上さんは、DeNAの評価ポイントとうまく合致したのだろう。
井上さんは「多くの人に受け入れられるサービスを作れるエンジニアになりたい」と語る。それも、自分で企画から考えて、自分で開発できるエンジニアになりたいのだという。加えて、「世界で戦えるサービスを作ってみたい」と意欲をあらわにする。井上さんの作ったサービスが世界中で使われるようになる日を、楽しみにしたい。
最後に、これから就職活動を行う「後輩」へのアドバイスをもらった。
「面接は自然体で臨んでください。自分の軸を持って、その軸に沿って正直に話すのが一番です。そのためにも、自分の軸について、事前にしっかり考え、整理し、筋を通しておきましょう。しっかり考えておかないと、『何をいおう?』と慌ててしまい、ボロが出てしまいますから」
井上さんが「自分の軸」を据えるきっかけとなったのは、Webサービス開発の経験に加え、2回のインターンが大きく作用しているという。「理系の人は研究が忙しいとは思うけれど、なるべくインターンには参加してほしい」というのが井上さんの意見だ。セミナーやWeb上での情報だけでは分からないことがある。仕事のイメージをつかみ、自分の軸を作るために、インターンは1つの良い材料になる、と井上さんは強調した。
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