就職活動は、学生にとって迷いと決断の連続だ。どの業界を受けるのか、どの職種に応募するのか、自分はどんな仕事がしたいのか……。そのうえ、NRIでは「エンジニアになりたい」という学生に対し「どっちにしますか?」と尋ねてくる。これは学生にとっても大変だし、NRI側にとっても、学生に説明するのは大変ではないだろうか。
「確かに、学生への説明がしっかりできているかというと、まだまだ課題はあると思っています。入社案内の資料や各種説明会のほか、エンジニア職全般を対象にした『ITソリューションセミナー』とは別に、テクニカルエンジニア志望向けの『テクニカルセミナー』を行うことで、職種ごとの違いを説明しています」
しかし、それでも学生に明確に職種の違いを説明するのは難しいし、学生は理解できたとしても、まだ仕事を始めていない段階でどちらかを選ぶのは極めて困難だろう。
事実、1次面接の段階で「こちらの職種で応募したけど、実は迷っている」という学生や、話してみると明らかに逆の職種の方が本人の志向に合っていそうな学生が数多くいるという。
「1次面接は、企業理解の場でもあるととらえています。実は、1次面接ではかなりの時間を、こちらからの説明に費やしています。その場で相談されることもあります」
面接というより、キャリアカウンセリングの場のようだ。1次面接での“カウンセリング”の結果、志望職種を変更する学生は少なくない。
繰り返すが、採用は企業にとっても重要な業務であり、成果を上げることが求められる。そのため、採用数が減ったり、優秀な学生が受けに来なくなるような施策は本来、避ける傾向にある。募集段階で細かく職種を分けるNRIの施策は、学生に躊躇(ちゅうちょ)させる原因になりかねない。事実、社内でも議論の対象になっているという。
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だが、それでも中野さんは「職種を分けて採用した方が、ミスマッチが少なくなる」と説明する。
「確かに採用の初期段階における障壁は高くなるかもしれません。機会損失もあるかもしれないですね。でも、こうして職種を分けて、『あなたは本当は何がしたいのか?』を問うことで、ミスマッチが減ると考えています」
就職したばかりの学生にありがちな「自分がやりたかったことは、こんなことじゃない!」を防止するために、職種を明確に分けるのは効果があるという。
そもそも、就職活動での悩みの1つに「仕事のイメージがわかない」というものがあるだろう。NRIは、「職種を明確に分け、就職したらこういう仕事をしてもらう、という内容を明確にしておく」という道を選んでいる。
「1次面接で、『そもそもどうしてシステムエンジニアの仕事がしたいのか?』をじっくり聞くと、単純な『エンジニアになりたい』の奥底に、本当の志望動機が見えてきます。すると、どっちの職種がより向いているかが分かってくるのです」
就職活動は、自分が何の仕事をするかを決める行為でもある。その際、どこまで自分のキャリアビジョンを明確に描くべきなのだろうか。
NRIの新卒採用戦略は、「具体的な仕事やキャリアパスまで見越したうえで決めてほしい」というメッセージとも受け取れる。
「もし決められなかったとしても、結局、どこかに入社して、何らかの仕事をすることになります。そうやって受け身のままがいいのか、それとも自分で考え抜いて、『腹に落ちた状態』で入社するのがいいのか。後者の方が、学生にとっても企業にとっても幸せだとわたしたちは考えています」
本特集で登場した3人の学生は、「考え抜く」「自分の軸を作る」というキーワードを示してくれた。企業側もまた、就職活動の際に「考え抜いてほしい」と思っているのだ。
これから就職活動を始める学生に対し、中野さんは次のようなアドバイスを送る。
「まずは、自分の研究をしっかりやってほしいです。そこがおろそかになってはいけません。それから、就職活動を始めたばかりの段階では、なるべく視野を広く持ってほしいですね。業界や職種を絞るのは、後からいくらでもできますから。あとは、なるべくOB・OGにたくさん会って、話を聞き、会社や仕事のことをたくさん調べてほしいと思います」
1週間にわたってお送りしてきた特集「2011年度 新卒採用を振り返る」はいかがだっただろうか。まだ就職活動を続けている2011年度新卒の学生にとっては「耳が痛い」話も多かったかもしれないが、ぜひあきらめずに頑張ってほしい。
そして、「就職活動なんてまだ先の話だ」と思っている2012年度新卒の学生の方にも、ぜひこの特集を通じて、「自分はどんな仕事がしたいのか?」ということを考えてみてほしい。漠然と「プログラミングが好きだから、エンジニアになりたい」では駄目なのだ。
決して就職活動を焦って始める必要はない。だが、アルバイトやインターン、あるいは勉強会への参加を通じて、少しずつ「自分はどんな仕事がしたいのか?」ということを考え始めてほしい。そうすれば、きっと来年の春、良い結果が得られるはずだ。
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