自分戦略研究所 | 自分戦略研究室 | キャリア実現研究室 | スキル創造研究室 | コミュニティ活動支援室 | エンジニアライフ | ITトレメ | 転職サーチ | 派遣Plus |

第5回 檀上伸郎――「はてな」と「けもの道」

岑康貴
2008/8/1

前のページ1 2

コミュニケーションで何も与えないのは失礼だ

 
 

 さて、コミュニティにおける檀上氏はどのような立ち位置なのだろうか。どちらかというと、懇親会で目立っているという話を聞くのだが……。

 「単に、飲み会になると元気になるというのも、もちろんあるんです。ただ一方で、僕は1人で会社をやっていて、株式会社なんですが、ほとんど個人事業主といってもいい。会社をどうやって続けていくか。重要なことは2つです。1つ目は、取引させていただいたお客さんの信頼を保ち続けること。2つ目は、潜在的にお客さんになりそうな人たちに対して、常にアピールすることです。それを意識すると、例えば飲み会ではしゃいで、あいつはばかだよねー、という具合に覚えてもらう、ということもあるのかもしれない。キャラづくりはしていないつもりでいますが、深層心理ではしているのかもしれません」

 しかし、利己的な考えだけではないようだ。

 「コミュニケーションにおいて、自分が楽しむというのは、すごく大事なことだと思います。ただ、自分が楽しむということで、相手に与えられるものがあるはず。人と会って、何も与えずに取っていくだけっていうのは、すごく失礼なことだと思っています。常に、どんな出会いであっても」

 懇親会ではしゃぐのとは関係がないようですが、と檀上氏は続ける。お酒を飲んでいて、ネタを提供するというのが、「与えられるもの」の1つなのだという。

 「僕が持ちネタとして持っているのは、はてなのサバ管でしたという話なわけです。僕の失敗談はすごく受ける。実はあのときのあれは、僕が対応していて泣きそうでした、とか。そうやって飲み会の場のネタを提供するキャラで、しばらくやっていました」

 だが、転機が訪れる。

転機となったYAPC

 2008年5月に開催された「YAPC::Asia 2008」に、檀上氏はスタッフとして参加した。

 「会社を作った後で、あまりお金は使いたくない。でもYAPCは行きたかったんです。スタッフならお金がかからないし、ちょっと抜けて聞きたいセッションが聞けるだろうという甘い考えがありました。実際は全然聞きに行けなかったんですが」

 ここで檀上氏は受付係を担当した。そのため、当然ではあるが、YAPCに来場したほぼすべての人間と顔を合わせることになった。参加者はもちろん、スピーカーも含めてだ。

 「外国からいらっしゃったPerlハッカーがたくさんいたので、積極的にコミュニケーションを取ってみました。それも、あまり技術的なことではなく、『どこから来たの』とか、『いつごろ帰るの』とか、『観光していくの』とかいったことを」

 その結果、あこがれていたすご腕技術者たちの意外な一面が見えてきたという。囲碁を打ちに来たという者、カフェ巡りをするつもりだという者。すごい人というのは、常にPerlのことを考えているものだと思っていた。しかし実際はそうした人たちも、技術以外の普通の趣味を持っている、普通の人間だったのだ。

 「YAPCで話すような人たちも、実は普通の人なんだなあと思いましたね。勝手にハードルを高くしていたんですが、その体験を通じて随分と低くなりました」

 お返しをするということを、飲み会でばかをやるだけでなく、勉強会の本編でもやってみよう。こうして「裏方」だった檀上氏は、スピーカーとして前に出ることを決めた。

飲み会で培ったプレゼン術

 「ずっと温めていたネタはありました。独立した後、最初は認証系のことをやろうと思っていたんです。だから、『Identity Conference』の話を聞いたときに、話させてくれって手を挙げました」

 話したのはOpenIDについて。なかなか広まらないOpenIDに対する解決策として作ったPerlモジュールをテーマにした。

 「技術が存続するためには、広まらないといけないわけで、それを考えるのは重要という話。場所とタイミングが良かったですね」

 本連載に登場した廣瀬氏や宮下氏は、勉強会に行きつつも深くはコミットせず、ふとしたきっかけからスピーカーとなり、そこから本格的に交流するようになったという順番だった。しかし、檀上氏はちょうど逆だ。すでにコミュニティに居場所があり、多くのものをもらい、お返しとしてスピーカーとなった。

 スピーカーとして話す前と後で、何か変わったことはあったのだろうか。

 「飲み会のことしか考えていなかったころと比べると、身の入り方が違いました。でも、飲み会でのコミュニケーションのおかげで、ちゃんと相手の目を見て話せるというのは大きかった。あそこにいるあの人にちょっと話を振ってみようか、なんてことができた。飲み会でたくさんコミュニケーションを取っていて良かったなあと思いましたね」

 今後も内容やタイミングが合えば、スピーカーとして話すことを積極的にやっていきたいという。もちろん、懇親会も含めて。

「同僚は大事にしましょう」

 
自宅の仕事場
 

 ところで、これまで本連載に登場していただいた方々は皆、企業に属しながらコミュニティで活動していた。そんな彼らは一様に「同僚も、コミュニティの仲間も、エンジニア友達」と、特に線引きを意識していなかった。しかし、独立して1人で働いている檀上氏にとって、同僚の意味は違うようだ。

 「同僚はすごく大事です。僕は3回会社が変わって、その後独立しているわけですが、いま仕事をもらっている人が昔の会社の先輩だったりする。それ以外にも、技術的に分からないことがあって困ったときに、誰に聞くかといったら、元同僚です。会社を辞めたからといって関係は切れません。一緒に苦労した経験があるし、お互いに人となりも分かっているのは大きい。戦友ですから」

 檀上氏は「同僚は大事にしましょう」と強調した。コミュニティの仲間とは違った軸で、同僚は大切だと感じているのだという。では逆に、コミュニティの仲間は檀上氏にとってどのような存在なのだろうか。

 「昔の同僚が助けてくれる存在なら、コミュニティの仲間は新しい刺激をくれる存在。あまり頻繁に会うわけではないし、かかわっている仕事の内容も違うので、たまに会って話すと、違う視点が得られます。こんな使い方をしたいからこういう機能を付けてくれ、とか。だから、どちらも違う意味で大切ですね」

 自分はまだコミュニティに深くコミットしているわけではないので、新鮮だという。今後、深くかかわっていく中でまた印象が変わってくるかもしれない、と檀上氏は補足した。

 独立して1人で会社を経営する檀上氏から見たコミュニティとは、企業に属しているエンジニアにとってのそれとは、どうやら少し違ったもののようだ。最後に檀上氏は、こんなメッセージをくれた。

 「僕は自分をどうしていきたいか、ということを考えて、実行に移してきました。その先にいまの自分があります。そういう意味で自分は、非常に良い形でキャリアの積み重ね方ができていると思うんです。同じように、自分をどうしたいかという方向性があるのであれば、そのためのレール、選択肢はなるべく多く用意しておいた方がいいと思います。自分の思いだけがあっても、周りの環境がないと、どうにもならないことがありますから。その結果としてコミュニティや勉強会に顔を出したいと思ったら、行かないともったいないですよ」

 

前のページ1 2


関連記事 Index
オープンソースコミュニティとともに歩んで
アイデンティティはオープンソースプログラマ
スキル向上にオープンソースを活用せよ
自分を磨く場所は会社の中だけじゃない
コミュニティへの参加は、好きだからこそ続けられる
自分戦略研究所、フォーラム化のお知らせ

@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。

現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。

これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。