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第27回 松下電器産業の社名変更に見るグローバル戦略
小平達也
2008/2/20
■松下電器産業の社名変更――パナソニックへの統一
松下電器産業は今年に入り、主に白物家電で用いられている「ナショナル」ブランドを廃止、同時に社名も「パナソニック」に統一すると発表した。
「グローバルエクセレンスへの挑戦権を得るため」。松下電器産業の大坪文雄社長は語ったという。グローバル対応には遅すぎるという批判もあるが、それでも英断であると評価したい。ブランドの発信力強化はグローバル市場での競争のみならず、グローバルな人材獲得競争においても重要だからだ。
筆者がインドやベトナムなどの外国人エンジニアにインタビューするとき、「入社したい日本企業」「知っている日本企業」としてよく挙がるのは「トヨタ」「ソニー」などだ。いずれも一般ユーザーに製品を提供する、企業名とブランド名が一体となった企業だ。
バングラデシュでの例を挙げよう。2007年にスマートコミュニケーションズがバングラデシュの私立大学、East West Universityで、日本のIT産業に関する学生向けセミナーを行った。その際、「知っている日本企業」で松下電器産業を挙げたのは63人中、わずか2人であった。ちなみに回答が多かった企業名トップ10を紹介すると、トヨタ自動車、ソニー、三菱自動車、本田技研工業、NEC、富士通、カシオ計算機、日産自動車、東芝、キヤノンの順である。やはり企業名とブランド名が一体化して認知されているのだ。
インド人エンジニアにインタビューした際も、「パナソニック」という商品名は出てくるのだが、「松下電器産業」(もしくは松下)という名前は出てこなかった。日本人が慣れ親しんだこの社名も、海外では「マツシタデンキサンギョウ」という音になってしまうのだから、ある意味当然ともいえる。学生など一般の人々の間で「松下」という社名が出てきやすいのは、中国など漢字圏だけだろう。
グローバル採用戦略上、この意味は大きい。日本国内のITエンジニアでも、通常は企業を認知する際、無意識のうちに「製品+社風」で認識していると考えられる。例えば松下電器産業では、「携帯電話や家電などの『松下製品』」「創業者・歴代の経営者、知り合いの松下社員から見える『企業カルチャー』」両面で認知しているのである。当然、この接点の大きさはセールスのみならず、人材採用上もメリットが大きい。
これが海外新興国に展開するとどうなるか。図2をご覧いただきたい。
図2 グローバル採用戦略の背景 |
海外では、製品は通用したとしても、企業文化や経営者についての情報は圧倒的に欠落している。つまりは製品だけで、グローバル採用という激烈な人材獲得競争に参入してしまうことになる。
一方、欧米企業は「カリスマ経営者」「オープンな社風」などをPRすることで、少々製品の競争力が弱くても優秀な人材を引きつけている。これでは勝敗の結果は明らかだろう。その意味で、今回のパナソニックへの社名変更は「グローバルな人材獲得競争で絶対に勝つ」という強い意思表明ととらえることもできるだろう。
■個人にとっても必要な「伝える力」
上記は企業の例だが、まったく同じことがITエンジニア個人にも当てはまる。「製品+社風」を「テクニカルスキル+コミュニケーション能力」といい換えてみると分かりやすいだろう。
いくら素晴らしいスキルを持っていたとしても、それを相手に伝え、理解・支持されなければ競争力はついてこないのである。冒頭でも述べたが、激しい環境変化を迎えるとき、テクノロジをベースとしながら、いかに相手に分かりやすく伝え、素早く前向きに対応していけるかがいままで以上に求められてくる。
特に企業が国境を越えグローバルに活動する時代においては、あなたがあなたであること、つまり「あなたは他人と比べ、何が優れているのか」をどのように伝えていくかが問われてくるのだ。
今回のインデックス |
グローバル採用は第2段階へ |
松下電器産業、「パナソニック」への統一 |
筆者プロフィール |
小平達也(こだいらたつや) ジェイエーエス 代表取締役社長 早稲田大学アジア太平洋研究センター 日中ビジネス推進フォーラム 特別講師 東京外国語大学 多言語・多文化教育研究センター コーディネーター養成プログラム アドバイザー 大手人材サービス会社にて、中国・インド・ベトナムなどの外国人社員の採用と活用を支援する「グローバル採用支援プログラム」の開発に携わる。中国事業部、中国法人、海外事業部を立ち上げ事業部長および董事(取締役)を務めた後、現職。ジェイエーエスではグローバル採用および職場への受け入れ活用に特化したコンサルティングサービスを行っており、外国人社員の活用・定着に関する豊富な経験に基づいた独自のメソッドは産業界から注目を集めているといわれている。 |
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