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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第31回 金融危機をチャンスに変える、日本企業の人材戦略

小平達也
2008/11/11

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ITエンジニアの競争相手が海の向こうからやってくる。インド、中国、それに続くアジア各国。そこに住むエンジニアたちが日本人エンジニアの競争相手だ。彼らとの競争において、日本人エンジニアはどのような道を進めばいいのか。日本だけでなく、東アジア全体の人材ビジネスに携わる筆者に、エンジニアを取り巻く国際情勢を語ってもらった。

世界同時不況。危機に直面する世界経済と日本企業の採用動向

 2008年9月15日、158年の歴史を持つアメリカ第4位の証券会社、リーマン・ブラザースが経営破たんした。これ以降、世界各地で株価の大暴落が連鎖的に起こり、世界同時株安が発生した。ダウや日本経済の平均株価は連日乱高下を繰り返し、新聞や雑誌、ニュースの見出しには「世界大破局」「株暴落」「大恐慌」の文字が劇的に飾られた。アメリカをはじめとした各国政府は、金融機関への公的資金(税金)投入や時価会計基準の一時凍結など、なりふり構わず安定化に向けて対応している。今後は金融だけでなく製造業やサービス業など実体経済にどのような影響が出るか注目が集まっている。

 筆者は日本企業のグローバル展開を人事・組織の点から支援している。現在のような世界経済の減速・後退に対応すべく、今年7月には現役の外交官、弁護士、医師を講師に招いた「企業経営者向けグローバルリスク総点検セミナー」を開催した。その後も今後の人材戦略についてさまざまな業界の経営者らと意見交換を続けてきたところ、企業の採用姿勢は、主に以下の4つに分類できると見た。

●今後の人材戦略 4分類

(1)新卒、キャリア採用とも景気によってぶれないタイプ

 景気変動があっても新卒、キャリア採用ともに変動がないタイプ。大手製造業に見られることが多い。

 新卒に関して、景気に左右され採用抑制をしてしまうと、社内の年齢別人口構成がいびつになってしまい、本来「ピラミッド型」にすべきところが「つぼ型」などになってしまう。こうした後々の課題に先手を打っている。

 キャリア採用についても中期計画どおり推進することを基本とし、現在のような景気後退期は「(他社が採用を手控えるので)優秀人材を採用するチャンス」と考える。

(2)新卒は継続、キャリア採用は絞り込んだり、凍結するタイプ

 (1)に近いが、新卒採用のみで採用を継続していくタイプ。新卒採用のスタンスは(1)と同じだが、景気変動の影響は避けられないのでこれをキャリア採用の部分で調整し、キャリア採用を相当絞り込む、もしくは全面的に凍結する。(1)に比べ危機感は強く、キャリア採用凍結は社内へ向けた経営者からのメッセージにもなっている。同時に、経費節減なども意識的に行うことがある。

(3)新卒は絞り込み、キャリア採用は継続するタイプ

 (2)とは反対で新卒採用は絞り込むが、キャリア採用は継続するタイプ。IT業界でも金融系以外のシステムインテグレータなどが当てはまる。スキルの高いエンジニアに対しては好況・不況問わず需要が高い。一方で、採用基準を厳しめに設定しているため、スキルが低いポテンシャル層やミドル層である若手の採用は厳しくなる。

(4)新卒、キャリア採用ともに絞り込んだり、凍結するタイプ

 文字どおり、新卒・キャリアを問わず採用を相当数絞り込んだり、全面的に凍結したりするタイプ。すでに外資系の金融・証券業界などで動きが出ている。金融だけでなく、人材採用と売り上げが相関関係を示しやすいサービス業でもこのタイプが多い。

 ここでは4つのタイプを挙げた。世間では不況といわれ始めているが、同じITエンジニアでも所属する業界によってその動向は異なるので注意が必要だ。自分自身が関係する企業・業界タイプについて把握・理解をしておく必要がある。

野村ホールディングス、インドで一気に3000人を雇用

 各社の採用動向が上記のように分類できる一方で、まったく別の動きを見せる日本企業が出てきている。野村ホールディングスは、経営破たんしたリーマン・ブラザーズ(以下、リーマン)のインド子会社3社の買収に合意した。この3社は合計で約3000人の従業員を抱えている。そのうち技術者は約1200人。3社は、IT関連、決済業務など各種オペレーション、会計関連業務、リスク・マネジメントなど、投資銀行が必要とするさまざまな機能を持つため、今後、野村ホールディングスのグローバル・ビジネスのサポートを行っていくという。

 以下、野村ホールディングス 執行役社長兼CEO渡部賢一氏のコメント。

 「本案件で買収した3社は、弊社のグローバル戦略においても重要な位置を占めるだろう。この3社の買収が、野村とリーマンの人材が融合して得られるビジネス拡大を支える、グローバルな機能プラットフォームの強化を確実なものにするに違いない。本案件は、弊社の『ワールドクラスの競争力を備えた金融サービスグループを目指す』との経営ビジョンの実現をより確実にするとともに、弊社の顧客、株主にとっても意義あるものであると確信している」(同社Webページ 2008年10月6日プレスリリースより抜粋)

 世間は「不況だ」「大恐慌だ」と騒ぐが、先見性と行動力、そしてその前提となる体力がある日本企業にとって、現在の株価下落と円高は「100年に1度のチャンス(某社社長)」である。野村のような金融業界のみならず、製造業やサービスを営む企業もグローバル展開に積極的に打って出るだろう。

 その場合、進出方法としては従来のような業務提携や自社現地法人設立ではなく、すでにある企業を買収するM&Aが主流となる。今回のリーマン関連の買収で、野村ホールディングスの海外社員比率は一気に高まるが、このような展開をする企業は自社社員構成が一夜にしてグローバル化する。今後は国内外問わず各業界で大規模な合併など再編・淘汰(とうた)が進んでいき、取捨選択のプロセスで新たな産業が出てくる可能性がある。いずれにせよ、いままで足並みをそろえていたように見える日本企業の間にもこの1〜2年で「グローバルで徹底的にやり抜く企業」と「グローバル化を目指したが、やはり無理だったので海外撤退・国内市場回帰をする企業(それでもしばらくは事業継続できる)」に大きく分かれるだろう。


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