国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?
第34回 テクノロジの世界展開に必要なのは、理念と伝える力
小平達也
2009/4/23
ITエンジニアの競争相手が海の向こうからやってくる。インド、中国、それに続くアジア各国。そこに住むエンジニアたちが日本人エンジニアの競争相手だ。彼らとの競争において、日本人エンジニアはどのような道を進めばいいのか。日本だけでなく、東アジア全体の人材ビジネスに携わる筆者に、エンジニアを取り巻く国際情勢を語ってもらった。 |
■グローバル展開計画の下にGmailを導入
本連載第33回「成長企業ユニ・チャーム、情報システム部の海外展開」では内需型企業の中で積極的にグローバル展開をしているユニ・チャーム情報システム部のグローバル展開とグローバルISマネージャー会議の戦略的役割についてご紹介した。そこでは世界の吸収体製品市場で10%のシェア獲得を目指す新中期経営計画「グローバル10計画」の下、海外各国の情報システム部のマネージャーが本社に集合し、本社戦略の理解と併せ、技術知識の向上および拠点間のコミュニケーションを図る姿を紹介した。今回は、同社情報システム部が現在進めているメールシステムのグローバル展開についてご紹介しよう。
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ユニ・チャームは2009年1月より社内メールシステムをグーグルが提供する「Google Apps Premier Edition」に移行した。これはグーグルのWebメールである「Gmail」にスケジュール共有などの機能を加えたものである。これにより、1人当たりの保存可能なメール容量を従来の300メガバイトから25ギガバイトまで拡大し利便性を向上させた。それだけでなく、メールドメインを「@unicharm.com」に一本化した。現在国内の約3000人が同サービスを利用し、今後は海外を含めたグループ各社に展開していくという。
ユニ・チャームにおけるGmail導入にはどのような背景があり、職場と情報システム部の担当者にどのような影響を与えたのだろうか。また、Gmail導入と同社のグローバル展開とのかかわりについて、同社 情報システム部でGmail導入の中心的な役割を担った3人に話を聞いた。
左から、二神幸平氏、大山千春氏、東上泰樹氏
■メールシステム導入を通じて職場に起こった変化
小平「まずはGmail導入に当たって3人の役割を教えていただけますか」
二神「わたしと東上は事務局として全体を取りまとめる役割を担いました。主な業務は、ログインシステムの構築、社内インフラ整備を含むプロジェクト全般の管理、社内・情報システム部内調整、社員教育研修のカリキュラム作成、説明会実施など多岐にわたります。大山には技術面だけでなく、判断に迷ったときには大切にすべき『利用者目線の考え方』でアドバイスをもらうなど、コーチ的な役割を担ってもらいました」
小平「技術面をベースに全体を取りまとめる若手社員と、全社導入に当たって大切にすべき自社としての『考え方』を要所でアドバイスするミドルという役割分担ですね。ところでユニ・チャームにおけるGmail導入はIT企業のみならずユーザー企業など業界内外からかなり反響があったようですね。Gmailを導入したそもそもの背景を教えていただけますか」
二神「当社はもともと、自社でメールシステムを運用していました。2005年にグローバルで利用できるメール環境を目指したことがあるのですが、そのときは膨大なコストと各国に最適化した言語表示ができないなど課題が多く、実行するには至りませんでした。それから4年たち、メール利用の拡大と迷惑メール増加によって、メールシステムに関係する負荷が大きくなっていました。既存メールシステムの限界、ユーザー利便性向上、そしてグローバル展開する国内外各拠点への対応において一番いい形を目指し、1年ほど時間をかけ検討・検証を行い、最終的にGmail導入を決定しました」
小平「今回のGmail導入で工夫された点はありますか」
東上「特に工夫し、印象深かったのは導入研修の実施です。国内の従業員3000人への導入に当たり、各部署で合計80回近い説明会を開催し、93%の社員に参加してもらいました。全社員に関係するものなのでユーザーと直接コミュニケーションする機会を大切にするとともに、説明会の資料や説明方法など、『相手に伝わる説明』を心掛けました。導入後、実際にユーザーから『新しいメールシステムはいいね』と声を掛けられるなどユーザー満足を体感しています。また、個人的な話ですが日常の業務ではなかなか人前で話をする機会自体がないのですが、今回の導入研修という場を通じてプレゼンテーション能力が向上したと思います」
小平「プレゼンスキルの向上という、『伝える力』を身に付けることはエンジニアにとっても大切ですね。ところで大山さんは、Gmail導入に当たって大切にすべき、利用者目線の考え方においてアドバイスを担っていたということですが、詳しく教えてもらえますか」
大山「Gmailは重要なコミュニケーションインフラですから、単なるシステム導入で終わらせたくない、という気持ちがあります。『(システムを)入れました、使ってください』ではなく、全社員が共感して、感謝し合う『信頼をベースとした』システム導入を目指しました。そのために僕たちは、とびきりの思いやりで相手を喜ばそうという気持ちを大切にしてきました。弊社には、『今日の最高は、明日の最低』という語録がありますが、僕たちも、ハッと感じたことや、いただいたご意見を取り込み、ほぼ毎日のように方針を修正してきました。
この10年ほどで、メールは社内で最も身近なコミュニケーションツールになりましたが、心配りやマナーが足りないメールを受け取るたびに、道具としては使いこなすことができても、『コミュニケーション品質を向上させることはできたのだろうか? むしろ悪化していないか?』と疑問に思っていました。新しいメールシステムの導入に当たっては、利用者となる社員と顔の見えるコミュニケーション機会を作る・増やすということを意識して、説明会を丁寧に行い、『相手を尊重し、同じ目線で話す』こういうコミュニケーションスキルを発揮することが成功のポイントであると、3人で共有してきました。説明会を重ねるたびに、『こちらがやりたいことを理解していただける相手を増やせた』という実感と感謝の気持ちが生まれてきて、それらが『良いものを作りたい』という原動力に変わっていきました。忙しい中、説明会に参加し、『利用者との一体感こそが、最も大切なことである』ということを気付かせてくれた社員のみんなには、心から感謝しています。
このような機運の中、プロジェクト内での僕の役割は、「成功のイメージを毎日提示すること」と、「情熱の火が消えないように毎日支え守ること」でした。この2つを続ければ、どんな障壁でさえも3人で乗り越えて行けると思っているからです。
今後、当社の海外拠点にもGmailのシステムを導入していきますが、どうしてこのメールシステムを導入するのか、どうやってこれを活用し生産性の高い職場を実現するのかという背景となる考え方を各国の情報システム部のメンバーで共有しながら進めていきたいと思います」
小平「単なる技術論でユーザーとの対話を完結させない、というスタンスですね。今後は日本国内だけではなく世界各国のユニ・チャーム拠点にGmailシステムを導入していくうえでも利用者目線の考え方を大事にしていくということですが、これはミッションやウェイ、イズムともいえますね。この考え方を伝えていくために、どのような工夫をされていますか」
大山「いくつかあるうちの1つを紹介すると、Gmail導入に込めた『思い』を日本語・英語・中国語の3カ国語で言語化し、各国・各拠点のメンバーと共有していこうと考えています(図1)。なぜなら、各国の情報システム部のメンバーには、ユーザー対応をする際に、分からないことをそのまま伝言ゲームのように本社に問い合わせするような仕事の仕方をしてほしくないと思っているからです。だから、僕たちにとっても彼らにとっても、自分のこととして考えられるように、Gmail導入のプロセスを一緒に知恵を絞り、達成感を味わう、情熱を注ぐ舞台として演出していきたいのです」
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図1 Gmail導入に込めた思い |
エンジニアの在り方、将来などについての記事一覧 | ||||||||||||||||||
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