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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第35回 世界同時不況に打ち勝つ「アジア人材戦略」

小平達也
2009/7/28

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ITエンジニアの競争相手が海の向こうからやってくる。インド、中国、それに続くアジア各国。そこに住むエンジニアたちが日本人エンジニアの競争相手だ。彼らとの競争において、日本人エンジニアはどのような道を進めばいいのか。日本だけでなく、東アジア全体の人材ビジネスに携わる筆者に、エンジニアを取り巻く国際情勢を語ってもらった。

世界同時不況をどうとらえるか?

 先日、アジアとITに関連するあるシンポジウムで基調講演をした際、参加者の皆さんに2つの質問をした。

質問1
「世界的な不況が終息し、景気が回復するのはいつごろか」

質問2
「世界的な不況に自社はどの程度影響を受けているか」

 これらの問いについての回答は以下のとおりである。

質問1の回答。

(A)今月……0%
(B)半年以内……5%
(C)1年以内……15%
(D)1年以上かかる……80%

質問2の回答。

(A)影響ない……0%
(B)一部影響を受けている……10%
(C)大いに影響を受けている……90%

 参加者の業種は大手メーカー、シンクタンク、ITベンチャーなどさまざまであったが多くの方は今回の不況を「長く深い不況」と認識しているようである。

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 さて、基調講演に際し、企画段階で主催者から提示された講演タイトルは「世界同時不況に打ち勝つ! アジア人材戦略」だった。主催者はIT業界関連団体で参加者の立場は経営者からエンジニア、国際部門の担当者まで多様ということであった。そこで筆者は長期を見据えた戦略的な話と、現場指揮者が知っておくべき比較的短期の戦術的な話の両方を交えながら、アジアとITビジネスという切り口で「押さえておくべき10のポイント」という話をした。今回はその内容を紹介しよう。

「世界同時不況に打ち勝つ! アジア人材戦略」押さえておくべき10のポイント

ポイント(1):「フラット化」を過信しすぎない

 ITの進化とグローバリゼーションによって迎えたフラット化については本連載第18回「『フラット化する世界』のキャリア形成を考える」で紹介したが、一方で、語り尽くされていない事実がある。それはフラット化の基本は物理的にテクノロジへアクセスできる人が対象ということである。先進国以外では中国やインド、フィリピンのITパークに見られるように「テクノロジの飛び地」はできているが、それはごく一部の限られた話であり、大部分の人間はその地域特性をベースに生きている。フラット化ベース=グローバルベースか地域ベースか、どちらが正しいかではなく、対象地域、職業、個人によってそのバランスは異なる。いずれにせよ、グローバリゼーションがすべてを解決するという「フラット化原理主義」になってしまうと見立てを誤ることになる。

ポイント(2):自社における「外国人社員の活用目的」を理解、把握する

 日本における外国人社員活用の目的は大きく分けて「国籍不問採用」「海外事業を推進するブリッジ要員」「社内に異文化人材を受け入れて活性化を図るダイバーシティ・マネジメントの一環」の3つに分類できる。もともと理工系留学生などの国籍不問採用は存在していたが、2001年に中国がWTOに加盟し中国市場という経営課題がクローズアップされて以降、ブリッジ要員という考え方が急速に発展してきた。

 比較的新しい考え方であるダイバーシティ・マネジメントは女性やシニアの登用の延長線上にあり、異分子・異文化背景を持ち発想の異なる人材をあえて社内に取り込むことで組織活性化を促すという考え方である。ここに3分類を挙げたが、多くの場合これらが個別に独立して存在するのではなく併存する。各社の戦略に基づいてそれぞれに濃淡を付け、自社における活用目的について理解・把握することが重要である。

ポイント(3):「ポストグローバル採用3.0」を見据えたこれからの採用の形

 2004年から2008年までは「グローバル採用3.0」の時代であった。「2.0」と「3.0」では、同じ海外からの技術者採用でも異なる。「2.0」では主に外資企業や中堅IT企業が即戦力として採用していたが、「3.0」では日本企業が海外新卒者などポテンシャル層を積極採用していたという特徴があった。また、自動車や精密機械といった海外売り上げの比率が高い企業だけでなく、中堅企業を含めた幅広い企業が海外人材の採用をしたのも特徴であった。

 昨年以降、世界同時不況に突入した現在は「3.0」が終わり、「ポストグローバル採用3.0」の時代になったといえる。そもそも日本において「新卒」が登場したのは1887年、東京大学の卒業生が官公庁に入職するところから始まった。戦後の経済成長などを通じ辞令交付の手間暇などがあり、一括採用が行われるようになったが、これからの採用の形(対象、人数、時期など)がいままでの延長線上にあるのかどうかは企業によって異なる可能性がある。これはグローバル連結経営、グローバル最適開発体制ということも関連する。以下(4)で概要を紹介する。

ポイント(4):グローバルにおける人的リソースを分類して理解

 上記(2)、(3)では特に国内における外国人社員の採用について述べた。グローバル連結経営においては最適な場所で研究開発、生産・販売・サポートをしていく必要がある(もちろん、(1)フラット化を過信しすぎない、という前提のもとである)。以前も紹介したが、グローバルリソースの最適活用という意味で一般化すると「国内」「海外」という軸と「正社員などの内部資源」「派遣社員などの外部資源」という軸に分けて整理でき、ジェイエーエスではこれを「グローバルリソースポートフォリオ(GRP)」(図1)と呼んでいる。

 このポートフォリオと併せ、図2の「グローバルリソース活用の変遷」もご覧いただきたい。各リソース(資源)をフェイズ(年代)ごとの変遷で理解しておくことがグローバルリソースの最適活用の今後(ポストグローバル採用3.0ともいえる)を適切に理解するためには必要となる。

  国内 海外
内部資源
(I)国内・内部資源型
・日本人社員グローバル対応
・逆出向(受入出向)
・留学生などの海外人材
(III)海外・内部資源型
・駐在員
・現地社員
 
外部資源
(II)国内・外部資源型
・研究、業務委託
・派遣社員
  
  
  
(IV)海外・外部資源型
・非連結対象の現地関連会社社員
・委託加工生産、オフショア開発
・BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)
・現地社員(第三国登用)
図1 グローバルリソースポートフォリオ(GRP) 最適活用の4分類

図2 グローバルリソース活用の変遷(出典:ジェイエーエス)※クリックで拡大

ポイント(5):国別に「対日関係性」濃淡あり

 中国、インド、ベトナムなど一口で国別比較をすることがあるが、登録ベースで日本人が10万人以上長期滞在している中国と、同3000人程度のインドでは接地面が違いすぎて単純な比較はできない。進出企業数、またその国から来日している目的、人数などによっても日本企業との関係性には濃淡がある。


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