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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第35回 世界同時不況に打ち勝つ「アジア人材戦略」

小平達也
2009/7/28

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ポイント(6):国別「仕事観」の傾向。ただし、世代間のギャップには要注意

 会社や仕事と個人の関係については国別にそれぞれ傾向がある(図3)。また、同じ国でも、例えば日本であれば20歳時点での社会状況がバブル前・後どちらなのか、中国であれば市場経済政策の前後、またインドであればIT革命前後によって世代間の仕事観が異なる場合があるので注意が必要である。

優先 1 2 3 タイプ
中国 家族 コミュニティ 会社 独立起業型
インド 宗教 家族 会社(職種) スペシャリスト志向型
ベトナム 家族 コミュニティ 会社 一家だんらん型
図3 国別価値観・優先順位

ポイント(7):外国人社員の活用を阻む「3つの壁」の存在

 日本企業には「外国人社員の活用を阻む3つの壁」が存在している。それは雇用契約・処遇、社会保障、納税など仕事をするうえで前提となる事項である「ライフライン」、国内・海外進出先を問わず「日本企業では日本語が社内公用語」というのが一般的であるが、読み・書きは非漢字圏出身者にとっては難易度が高い「コミュニケーション」、そして中・長期の雇用を前提としたパフォーマンス発揮が求められることが多い日本企業と期間の限られた中でのパフォーマンス発揮が求められる海外企業とでは成果を生み出すための時間軸が異なる「キャリア」である。これら3つの壁があることをまずは認識することが大切である。

ポイント(8):同じ「日本企業」でも「3つの壁」の高さは異なる

 一言で日本企業といってもその内容はさまざまである。大きく分けると日本企業は「歴史の古い伝統型企業か、最近(古くても20〜30年)誕生した新興型企業か」という基準と「製造業か、サービス業か」という基準の2つの軸を使って4つのタイプに分類することができる。つまり、「伝統型製造業」「伝統型サービス業」「新興型製造業」「新興型サービス業」のいずれかになるのだが、外国人社員の活用難易度はタイプごとに異なり、活用難易度第1位(一番難しいの)は伝統型製造業であろう。

 伝統型製造業とは、自動車や家電などいわゆる「大手メーカー」であり、海外で日本企業というとすぐにイメージされる企業の多くはこの分類に属する。長期雇用が前提で離職率は比較的低く、新卒を丁寧に育てていく傾向が強いのが特徴。だがこれらの企業は、長きにわたる成功経験の蓄積によって現在の在り方が形づくられおり、人事・組織も「成功に最適化」しているがゆえ、外国人社員にとっては非常に分かりづらいものになっていることが多い。結果として「3つの壁」はいずれも非常に高いものになっている。筆者が強調したいのは「だから外資系・海外企業のように対応せよ」ではなく、むしろその逆で、これら「3つの壁」の存在を認識したうえで、自社の人事制度にアドオンする形で外国人社員の活用に対応することができる、ということである。

ポイント(9):自社の考え方を「言語化」し浸透させる

 自社の考え方を「言語化」することの大切さは本連載第34回「テクノロジの世界展開に必要なのは、理念と伝える力」でも述べたが日本企業は自社の考え方を海外人材にうまく伝えることが苦手だ。「考え方」にはミッション、ビジョン、ウェイなどいろいろあるが、ミッションとはそもそもキリスト教の「伝道」を意味する。このような単語の生い立ちをとってみても、欧米系(キリスト教社会)企業がアジア新興国はじめ世界のリクルーティングフェアや社内で自社の考え方を現地人材に「響く」形で伝えているというのは相当年季の入ったものであるということが分かる。一歩遅れている日本企業だが、ミッションの策定と浸透はメソッド化されており、効果的に導入することは十分可能だ。

ポイント(10):自社にとってのアジアビジネス・人材戦略の定義付け

 「世界同時不況に打ち勝つ!アジア人材戦略」で紹介する10番目のポイントであるが、ここで大切なのは「自社のビジネスモデルにとって」アジアビジネスをどうとらえるか、そして人材戦略をどうするかである。よく「欧米系企業は……」と一口でいうが、アメリカ系企業と欧州系企業とでは社風は異なる。また、同じアメリカ系企業でもGEとパタゴニアでは経営者の思想が天と地ほど違うだろう。さらにいえば同じアメリカ系IT業界でもIBMと米シスコシステムズでは仕事に取り組むスタンス、進め方が異なるようだ。従い、コンサルタントが好んでいう「ベンチマーク」にしてもまずはどの企業を対象にベンチマークするのかが非常に重要になるし、ベンチマークをした企業のモデルをそのまま自社に持ってくるのではなく、いかに自社の現状に合った形で適用するかが大きなポイントになる。

 オフショア開発を例に取ると、筆者の知っている札幌の中堅IT企業はそもそもコスト削減を目的としておらず、日本国内では特に高度な技術を持った人材確保、海外との連携を通じた業務標準化、海外人材との連携を通じた日本人社員教育などを目的としている。また、関東のベンチャー企業はインドで設計を行った後、エンドユーザーに隣接している日本で製造をしている。このようにやみくもに「アジア新興国=優秀で低コスト人材の宝庫」という一般論に走らず、自社にとってのアジア戦略・人材戦略とは何なのかを冷徹に考えることが必要である。

 

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筆者プロフィール
小平達也(こだいらたつや)
ジェイエーエス 代表取締役社長
◆東京外国語大学 多言語・多文化教育研究センター コーディネーター養成プログラムアドバイザー
◆早稲田大学商学部学術院総合研究所 WBS研究センター 日中ビジネス推進フォーラム特別講師
◆ジェトロ BJTビジネス日本語能力テスト外部化検討委員会 委員

大手人材サービス会社にて、中国・インド・ベトナムなどの外国人社員の採用と活用を支援する「グローバル採用支援プログラム」の開発に携わる。中国事業部、中国法人、海外事業部を立ち上げ事業部長および董事(取締役)を務めた後、現職。ジェイエーエスではグローバル採用および職場への受け入れ活用に特化したコンサルティングサービスを行っており、外国人社員の活用・定着に関する豊富な経験に基づいた独自のメソッドは産業界から注目を集めている。

現在、ブログ「グローバルに特化した組織・人事コンサルティング ジェイエーエス 小平達也」執筆中。

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