グーグルでは、情報学部生に開かれている技術職は2つある。もの作りが好きな人向けの「ソフトウェアエンジニア」、作ることと使うこと両方が好きな人向けの「アソシエイトプロダクトマネージャ」。あなたはどちらのタイプだろうか。 |
情報系の学問を修めた学生がグーグルに新卒入社する際、選べる技術職は主に2つある。「ソフトウェアエンジニア」(以下、SWE)と「アソシエイトプロダクトマネージャ」(以下、APM)だ。
「SWEとAPM――両者の関係は、オーケストラでいうところの『演奏家』と『指揮者』の関係によく似ています」。
グーグル リクルーティングマネージャの茅根哲也氏はこのように説明する。オーケストラでは、さまざまな楽器の演奏家が集まって音を奏でる。指揮者は自分で演奏することはないが、音全体を聞いて、1つの音楽にするために指揮をする。SWEとAPMの関係も同様だという。SWEは日々技術を磨きながら多くのプロダクトや機能を作り、APMはSWEたちが作るさまざまな機能を1つの「製品」としてまとめあげる。
大倉務氏(SWE:検索エンジン担当)と井上陸氏(APM:モバイル担当)は情報理工学を修めた後、2008年にグーグルへ新卒入社した。彼らはどのような志でグーグルを目指し、そしていまどのような仕事をしているのだろうか。
大倉務氏(左)と井上陸氏(右) |
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グーグルのプロジェクトは、「こんな機能を開発したい」というアイデアを共有するSWEが数人集まるところから始まる。所属は厳密には関係なく、「どういうものを作りたいか」という意思によってチームが構成される。「1チームの平均人数は1人から3人です。それ以上の人数では、柔軟な動きができなくなってしまいますから。遠まわりなプロセスを踏まずにすばやく開発するには、これぐらいの規模がベストなのです」と大倉氏は語る。
このような小さなプロジェクトチームが、グーグルには何十チームも存在する。SWEは通常、いくつかのプロジェクトを掛け持ちで担当している。担当分野を越えたプロジェクトに参加することもある。ちょっとした機能を作るだけなら、上司の許可は必要ない。プロトタイプ作成を経て、ある程度の規模になると、プロダクトマネージャ(以下、PM)が登場する。
PMの仕事は、プロジェクトの「全体感」を見ることだ。複数のチームにかかわり、SWEをサポートしながら、各チームの連動性や相互性をチェックする。PMはいくつものチームにまたがる「コミュニケーションのハブ」である。SWEとPMはもちろんのこと、PR、カスタマーサービス、マーケティング、営業などの職種と連携して、SWEが作った製品を世の中に送り出す。
井上氏の職種である「APM」は、「PM」になる前段階のポジションだ。2年経つとPMに昇格するが、APMの仕事内容はPMとほとんど変わらない。
井上陸氏。APMとしてモバイルを担当 |
「グーグルには、通常のプロダクトマネージャが行う進行管理といった仕事はほとんど存在しません。企画書を作るより、SWEがプロトタイプを作る方が早いからです。もしわたしがガントチャートを作ったとしても、それを作る合間にプロジェクトはどんどん進んでいくので、あっという間に役立たずになってしまいますよ」と井上氏は笑う。いかにも「まず、もの作りありき」のグーグル技術者らしい。
グーグルの技術者といえば、個々人が自由に開発を行っているというイメージが強い。しかし、大倉氏は「自由に開発する環境はありますが、個人で黙々と仕事をするわけではありません。いろいろな人と話をしながら仕事をする時間はとても多い」と話す。
SWEとAPMは、自分たちが作る機能について活発に意見を交換する。井上氏は、数多くある仕事の中でも「SWEとの議論」が最も重要だと感じているという。「SWEとの議論は、イノベーションが生み出される場所です。SWEのすごいアイデアに触れるのはとても刺激的ですね」と語る。
大倉務氏。SWEとして、検索エンジンを担当 |
SWEにとっても、APMの存在は大きい。「APMは、『ユーザーがどういうものを求めているのか』『マーケットにはどのような競合がいるか?』という、APMならではの視点を提供してくれます。彼らの指摘を受けて方向転換することは多い」と大倉氏。
このような協力作業が可能なのは、『ユーザーにとって便利なものを作る』という価値基準を両者がしっかりと共有しているからだ。「わたしたちの仕事の『軸』は同じです。ただ、やることが違うだけ」と、2人は声をそろえる。
「エンジニアは、『技術的には面白いが、誰の役に立つのか分からない』ものを作ってしまう罠に陥りがちです。わたしはそういうものを作らないように気を付けています。ユーザーにとって役に立つものが一番すばらしいと思うからです。SWEとして、わたしはいつも『ユーザーにとって何が不便なのか』を考えます。そこから、どういうものを作ればいいか、どういう技術を使えばいいか、実装は実現可能か、実現可能なら今回はどのように作るか、と思考をドリルダウンしていきます。どちらをとるべきか迷う場面では『ユーザーにとってどちらが便利か』で判断します」(大倉氏)。
「わたしはAPMとして、『ユーザーとしてどのようなものが使いやすいか』という視点からプロダクトをとらえます。製品は複眼的な視点でとらえられるべきものですから、マーケット動向やユーザー調査の結果を報告することもあります」(井上氏)。
「グーグル川柳は、わたしが作りました」 |
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