そもそも、2人はどのようなきっかけでグーグルに入社したのだろうか。
「入社したら、やっぱり面白い会社でした」 |
井上氏は「テクノロジーとマネジメントの両方にかかわる仕事がしたかった」と話す。「もともと大学時代に人工知能や経営工学を学んでいたため、テクノロジーとマネジメントの両方に興味がありました。両方にかかわる仕事がしたいと思ったけれど、日本にはそういう仕事自体が少なく、さらに新卒採用をしているところはほとんどなかった。グーグルでAPM職種を募集していることを知って、一番面白いんじゃないかと思いましたね」。
大倉氏は、大学では自然言語処理やテキストマイニングについて学んでいた。「情報はあるだけでは意味がない。きちんと適切なものを探すことができなければ」と学生時代から考えていたという。「『人間の“考える力”をサポートするもの』を作りたかった。ショベルカーやダンプカーなど、人間の“力”をサポートするものはこれまでにたくさん作られてきました。電車や飛行機など、“移動力”をサポートするものも同様です。しかし、“考える力”をサポートするものは少ないように見える。こうした状態を何とかしたいと思っていました。だから、グーグルは僕のためにできた会社なのではないかと思いましたよ」と、大倉氏は笑顔を見せた。
2人とも、大学時代に得た興味関心や技術を生かしたいと考え、実際に希望する仕事に就くことができたようだ。学生時代、彼らはどのぐらい技術が好きだったのだろうか。
大倉氏は、「プログラミングはあくまでもの作りの手段」と答える。一方、井上氏は「ものを作る」ことは好きだったが、同じぐらい「ものを使う」ことも好きだったという。「昔もいまもいい製品やアプリがあるとすごい! と感動してしまいますね」と井上氏。
「もの作り」が好きなSWEと、「作ること」と「使うこと」が好きなAPM。学生時代から、2人はいまの仕事と同じ感覚を持っていたようだ。
「新卒研修? いやあなかったですね」。そういいながら、井上氏と大倉氏は顔を見合わせる。2人は、入社1日目から「これが君のプロジェクトです」と担当プロジェクトを渡された。しかも、プロジェクトの「サポート」ではなく「オーナー」としての役割だったという。
これまでで一番大変だったプロジェクトは間違いなく初回だ、と2人は声をそろえる。
大倉氏は、当時をこう振り返る。「渡されたプロジェクトを進めるには、これまでにすばらしい製品を作ってきたシニアエンジニアたちの援助が必要でした。彼らに向かって、わたしが『この機能が必要だから入れるんだ!』と説得しなくてはならなかったのです」。入社当時、大倉氏には「上級エンジニアに仕事を頼むのは上司の役割」と考えていたという。上司に伝言を頼んだら、「何で君は自分でいわないんだ? 変わっているね」といわれてしまったらしい。
井上氏も、入社1日目に担当プロジェクトを渡された。「入社3カ月ほどで、副社長やディレクターの前で製品企画のプレゼンテーションをしなくてはならないときはものすごく緊張しました」。
入念に下調べをして準備をしたが、やはり1回目は方々からつっこみを受けた。「ぼこぼこにされましたよ」と2人は笑う。しかし、それは子ども扱いをしないという意味だ。自分の担当するプロジェクトについては、入社何年目かどうかは関係なく、常にオーナーとして判断を迫られ、また「自分が何を作りたいか」を問われるという。
初めてのプロジェクトで先輩社員から多くの指摘を受けたことによって、2人は安心したようだ。「入社数十日の自分たちを一人前の社員として扱ってくれるフラットな雰囲気だということが分かりましたから。次回以降は不必要に緊張せず、もっと内容を詰めていくことができました」。
「大変なことはあるが、その分のやりがいはある」と2人は強調した。仕事のやりがいとして、大倉氏は「ユーザーからの反応が返ってくること」を挙げた。グーグルでは、社員に勤務時間の20%を「本人が純粋にやりたいこと」に充てるよう奨励している。この20%からは、さまざまなものが生まれている。例えばGmailは、20%の間に生まれたプロダクトだ。
Google 川柳 β via kwout
「検索エンジンがどのような動きをしたら不自然かな、と思って」 |
大倉氏は、20%を使って4月1日のエイプリルフール・ジョークとして「グーグル川柳」を作った。なぜこのような機能を作ろうと思ったのだろうか? 「『検索エンジンがどのような動きをしたら不自然か』と考えたんです。自分で川柳を読むのは、いかにもコンピュータが苦手そうなことじゃないかと思って」。グーグル川柳はエイプリルフール当日、多くのブログで紹介された。大倉氏は反響がうれしかったため、1日中ブログの反応を読んでいたと明かした。
「ユーザーの反応が返ってくるのはうれしい」と井上氏もうなずく。「あと、SWEがすごい製品のプロトタイプを作ったときがうれしいですね。すごいものが作られる瞬間はわくわくするので、社内で自慢しまくっていますよ」と笑う。
また、世界中のエンジニアと協力して仕事ができることも、魅力の1つである。グーグルは、世界数十カ国にオフィスを持ち、世界各国に検索エンジン担当やモバイル担当などの技術者がいる。彼らとコラボレーションして仕事をすることは非常に多い。
APMは、製品の全体を見るという仕事柄、世界中のAPMと連携する必要がある。井上氏は、日常的に世界各国のAPMやSWEとビデオ会議をするという。「世界」という言葉を引き継いで、大倉氏は「自分の作ったものが使われるスケールが大きいことも、すごくやりがいがあります」と語った。「グーグルのサービスは、世界で共通化されたサービスが多いため、自分たちが作った機能が世界中で使われることになります。何百万、何千万のユーザーに使われる。この喜びは格別ですね」と目を輝かせた。
グーグルにおいては、チームの垣根はあまり関係ない。それどころか国境もあまり関係ないようだ。グーグルの技術者にとって、「自分は世界中に存在する検索エンジンチームの一員であり、たまたま日本のオフィスにいるだけ」という感覚であるという。
最後に、就職活動生にメッセージをもらった。
井上氏:「プロダクトが大好きで、かつもの作りに燃える人がAPMには向いています。一緒にものを作っていて『おお!』と盛り上がれる人と一緒に働きたいですね」
大倉氏:「目の前にある事態が、大変であれば大変であるほどがんばっちゃう人がいいですね。いまは山のようにアイデアがあって手が追いついていない状態なので、ぜひ一緒に働きたいです」
技術に自信のある学生、大きい仕事をしたい学生には、すでにグーグルの演奏家、指揮者になる道が開けているかもしれない。
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