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自分戦略研究室 Book Review

エンジニアがヒントを得られるビジネス書籍3冊

藤村厚夫
2004/8/10

 エンジニアとして、技術書やプロジェクトマネジメント論までは読むことが多くても、ビジネス書にはなかなか手を伸ばさない。そんな人が多いかもしれない。しかし、ビジネス書にもエンジニアの仕事や業務(プロジェクトマネジメントや業務の進め方、ビジネスの考え方など)に生かせること、ヒントになることは多い。

 そこで今回は、アットマーク・アイティ代表の藤村厚夫が経営者の視点から、エンジニアにもお薦めしたいエンジニアの仕事や業務のヒントになりそうな書籍3冊を紹介する。

  「失敗」に肯定的な風が吹く
一勝九敗

柳井正著
新潮社
ISBN4-10-464201-0
2003年11月
1029円(税込)

 『一勝九敗』。本書のタイトルには、著者柳井正(そう、「ユニクロ」を運営するファーストリテイリング社CEOである)の哲学が込められている。

 「経営は試行錯誤の連続で、失敗談は限りなくある。商売は失敗がつきものだ。十回新しいことを始めれば九回は失敗する。成功した経営者のなかには、もっと凄まじく『百回に一回程度しか成功しない』などとおっしゃる方もいる」

 著者はもちろん経営について語っているのだが、この「経営」や「商売」を、「仕事」と置き換えてみたらどうだろう? あるいは「人生」と置き換えてみたらどうだろうか? 私たちに共通のメッセージが受け取れることに気付くだろう。仕事上の失敗は、決して“許されざること”ではない。成功の背景には数多くの失敗が潜んでいるのだから。

 「フリースの場合は成功したが、他については失敗は数知れず。当社は数々の失敗を繰り返して、学習してきた会社だと思っている」「失敗は誰にとっても嫌なものだ。目の前につきつけられる結果から目を逸らし、あるいは蓋をして葬り去りたい気持ちにもなるだろう。しかし、蓋をしたら最後、必ず同じ種類の失敗を繰り返すことになる」

 著者が繰り返し私たちに伝えようとするものは、「失敗から学ぶこと」。これを平凡なメッセージと通り過ぎてはならない。本書を読み進むにつれて、ファッションや流通の分野にとどまらずわが国の企業経営に少なからぬインパクトをもたらしたユニクロの、その躍進の源泉がそこにあるからだ。「失敗に学ぶことと、リカバリーのスピード。これが何より大切」「早く『失敗した』と認識しないとダメ」というメッセージは、失敗することに臆病な時代に生きるあなたや私を励ましてくれる。

  プロの常識という不合理
マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男

マイケル・ルイス著、中山宥訳
ランダムハウス講談社
ISBN4-270-00012-0
2004年3月
1680円(税込)

 抱腹絶倒の“プロ野球ビジネス”論だ。「プロ野球」と「ビジネス」の主従を変えてもよい。プロ野球、ましてやMLBに強い関心がなくともビジネスの仕組みに関心があれば、十二分に楽しめる点が本書の偉大なセールスポイントだ。

 「あなたは4000万ドル持っていて、野球選手を25人雇おうとしています。一方、あなたの敵は、すでに1億2600万ドル投資して25人の選手を雇ってあり、あとさらに1億ドルのゆとりを残しています。さて、あなたがこの敵と戦って、みっともない負けかたをせずに済ますためには、手元の4000万ドルをどのように使えばいいですか」

 本書の主人公、オークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンは、この命題に立ち向かい革命的な手腕を振るう。就任以来、全球団中2番目に選手総年俸が安いオークランド・アスレチックスは、シーズン87勝から91勝、102勝と快進撃を続ける。同球団はまさにROIが抜群に高い球団へと見事に変身した。「みっともない負けかた」どころかいまやポストシーズン進出常連球団なのだ。

 何が「革命的」なのか。ビーンは就任以来「ヤンキースのように大金をばらまくことはできないと最初から分かっていたので、非効率な部分を洗い出すことに専念」した。「足の速さ、守備のうまさ、身体能力の高さ」といった過大評価されがちな観点を容赦なく切り捨てデータ重視を徹底する。“プロの常識”という不合理な評価に不遇をかこっていた選手を次々発掘、低年俸で採用。と同時に、“不当に”評価のつり上がった選手を放出しさらにROIの高い運営へと突き進む。この徹底ぶりが革命的であり「抱腹絶倒」なのだが、その具体的な描写は実際に読んで楽しむのがいい。

 本書が明らかにしたものは、MLB各球団が従う“ゲームのルール”とは、実戦指揮はもちろん、長期的な戦略、選手スカウティングなど多くの局面で“神聖なメジャー経験”という常識に委ねられたものであるということ。この不合理世界で埋もれている成功法則を発掘し続ける人々の物語、と本書を説明すれば、その価値が伝わるだろうか。エンターテインメントはもちろん、ビジネス分野での知的刺激が欲しい向きにもお薦めだ。

  モチベーションをチームマネジメントに
モチベーション・マネジメント 最強の組織を創り出す、戦略的「やる気」の高め方

小笹芳央著
PHP研究所
ISBN4-569-62442-1
2002年12月
1365円(税込)

  「モチベーション・エンジニアリング」をビジネスとする著者による本書。主題は書名に「マネジメント」とあるように、マネージャの視点に沿ってのものだ。スタッフの「モチベーション」、いい換えれば「やる気」をいかにして喚起するか、あるいはやる気をいかに下げないようにするか。本書には著者の創見とその実践の数々がちりばめられている。

 「企業はモチベーションファクター(従来であれば報酬原資)を市場から稼げなくなっており、しかも従来の金銭的・地位的報酬はもはや、従業員にとって最大のファクターではない」「結論から言うと、企業はモチベーションファクターを『自家内生産』=企業内部で創り出していくしかない」

 開発プロジェクトのマネージャであるあなたには、チームメンバーのやる気を引き出し、高いアウトプットを引き出すことが問われる。しかしこれが難しい。ここにあるように、やる気の対価は「市場から稼げ」ない。つまり、うまくできたからといっても、報酬が倍になるわけでもない。だからこそ、自家内(再)生産的にやる気を喚起できる役割が求められる。本書ではその存在を「モチベーションマネジャー」と呼ぶ。一方、このような時代環境に適合できないマネージャを「モチベーションブレーカー」と呼ぶ。

 本書の真骨頂は、この「マネジャー」と「ブレーカー」の対比を通じ、いかにスタッフのやる気を引き出しつつチームを目標達成に導くかの手法の数々にある。「採用活動に参画させる」「オンリーワンを気づかせる」「名前を大切に扱う」「同じ状況の他者と交流させる」などなどの示唆は、チームマネジメントに日々心を砕くあなたに有用だ。小セクションに分類された実用性の高さも貴重だ。

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