自分戦略研究室 Book Review(2)
2003上半期ベストセラービジネス書
〜プロマネ志望者必読の8冊〜
藤村厚夫、辻俊彦、堀内浩ニ、小林教至
2003/8/8
いまから3年後、5年後のキャリアとしてプロジェクトマネージャを目指すのならば、技術知識だけでなくマネジメント力やプランニング力といったビジネス方面の知識にも精通しておく必要があるだろう。
そこで、普段ITエンジニアがあまり縁のないビジネス書、中でも2003年上半期に話題となったものの中から、4人の選者が「若手リーダー予備軍」向けにオススメの本をピックアップした。日ごろ、激務に忙殺され、技術書以外の書籍に触れる機会のないヒトも、“お盆休み”のこの時期、自分戦略を考える参考にしてみてはいかがだろうか。
ヨコ型組織のマネジメントで「最適解」を導くツールに |
質問力―論理的に「考える」ためのトレーニング 飯久保広嗣著 日本経済新聞社 ISBN4-532-31033-4 2003年2月 1400円(税別) |
モダンな労働行為にあって、その生産性の鍵を握るのは、「コミュニケーション力」だ。折衝、会議、打ち合わせ、ヒアリング……。
サービス指向の業務に占めるコミュニケーションの比重はとてつもなく高い。それはサービス指向の業務とは、“答え”を一意に定めにくい業務だからにほかならない。そこでは答えを探し求める行為そのものが労働であり、その鍵を握るのがコミュニケーション力なのだ。
本書では、答えを探し出すためのコミュニケーション行為を、「質問力」として扱う。副題に「論理的に『考える』ためのトレーニング」とあるゆえんだ。対面や会議で、「問題ないな?」「できるのか、できないのか」といい放つ人は、本書によれば「質問力のない人」となる。筆者を含め耳の痛い人も多いはずだ。
他方、「質問力のある人」は、「どんな問題や課題があるのだろう?」「最適な選択肢はどれだろう?」と尋ねる。ほんのさわりにすぎないが、この対比だけでも喚起されるものは大きいだろう。
リーダーが職制上の権威だけでチームをけん引しにくいヨコ型組織では、リスクの兆候をできるだけ早期に把握するため、また顕在化した問題の解決のために選択肢を議論するために、質問力は重要な能力となる。「問題解決と意思決定のスピードと精度を高める」手法を解説する本書は、ヨコ型組織のマネジメントが役割であるプロジェクトマネージャに役立つだろう。
自らに問い掛けるチームマネジメントの重要性 |
ターンアラウンド―ゴーンは、いかにして日産を救ったのか? デビッド・マギー著、福嶋俊造訳 東洋経済新報社 ISBN4-492-50108-8 2003年6月 1800円(税別) |
危機に瀕した日産を、たった2年で再建の軌道に乗せたカルロス・ゴーン氏の成功物語は、すでに多くのビジネス系の書籍や雑誌で扱われている。類書ある中で、本書の特徴は、日本的組織の典型として行き詰まった日産と、「リーダー=ゴーン氏」が果たした役割という構図を分かりやすく整理しているところにある。
では、ゴーン氏が果たした役割とは何だろう? 本書の中から乱暴にそれをいい当てるとすると、「解決策は社内にある」と断じ、社員に課題を与えてそれを引き出すことを徹底したことにある。答えを外部に求めず自らに問い掛ける契機をゴーン氏はもたらした。自らが解決策を見いだせば、モチベーションと自信が社員に植え付けられる。その意味で、「答え」を有した強烈なリーダーであると同時に、スタッフに「問い」を与え続けるコーチであったともいえる。
もう1つ重要なことがある。文字どおり国際(クロスカルチャー)企業となった日産では、コミュニケーションを明確化するために「ビジネス用語集」(ゴーン語録)があるという。解釈が多義化することで行動が停滞する弊害をこれで排除するのだ。
「議論を明瞭化する」強い姿勢と、答えを与える代わりに「問い掛ける」ことの2つをもたらしたマネジメントスタイルは、チームマネジメントを考える私たちに等しく重要な示唆をもたらしているといえる。
チームが機能不全に陥る5つの要因とは? |
あなたのチームは、機能してますか? パトリック・レンシオーニ著、伊豆原弓訳 翔泳社 ISBN4-7981-0368-3 2003年6月 1600円(税別) |
プロジェクトは、通常チームで行う。従って、プロジェクトのパフォーマンスは、エンジニア個人のスキルの総和ではなく、チームワークに依存する。プロジェクトマネージャは、極小のリソースでプロジェクトを完遂するために、チームとしての行動に最大限の注意を払う必要がある。
本書では、業績不振に陥ったITベンチャー企業に、ブルーカラー企業出身の57歳の女性が、新任CEOとして就任し、チームワークを育むことで、見事な企業再建を果たすストーリーが描かれている。
チームが機能不全に陥る5つの要因として、信頼の欠如、衝突への恐怖、責任感の不足、説明責任の回避、結果への無関心を挙げている。実際にパフォーマンスを上げる結束の固いチームのメンバーは、互いに信頼し、アイデアをめぐって遠慮なく衝突し、決定や行動計画に責任感をもって取り組み、計画を守らなかった場合は互いの責任を追及し、チーム全体の結果を達成することを重視する、という傾向がある。極めて当たり前のシンプルな結論であるが、それだけに実行は難しい。リーダーには高いレベルの自制心と根気が必要とされる。
人間同士の営みには、政治的要素が介在するが、プロジェクトにおいてパフォーマンスを上げるには、政治的発言を極力排除し、スポーツのように成功・失敗が明確な形で示されることにより、チームワークが威力を発揮するのである。
ユーザーにとっての優秀なSEとは何か |
仕事のとれるSE 安井昌男、武井英明、野田伊佐夫、小林正夫著 日経BP社 ISBN4-8222-8167-1 2003年5月 1800円(税別) |
ビジネスの世界では、結果が求められる。システムを導入するユーザー企業にとって、望ましいシステムは、使えるシステムである。あいまいで主観的なユーザーの要望・要求を、使えるシステムに具現化することがSEに求められるパワーであり、仕事のとれるSEに不可欠なものである。
本書では、優秀なSEが持つべきパワーを、以下の3つの要素で定義づけ、最新のテクノロジ(J2EE)の見極め方などを事例に基づいて具体的に解説している。
1 設計力:新しい業務を設計しモデル化する(モデリング)
2 技術力:新しい技術を見極め適用する(オブジェクト指向)
3 推進力:プロジェクトを的確に進める(プロジェクト管理)
また、「これまで出会った優秀なSE」では、実在のSEを例に、SEに期待される能力や役割の本質を論じており、極めて興味深い。ものすごい技術力、先端技術を分かりやすく教えてくれた、必ず結果を出す、ユーザーとともに成長するなどなど、タイプの異なる優秀さを見事にあぶり出している。
執筆メンバーは、ユーザー企業(清水建設)に勤務する現役SEであり、日経コンピュータ主催の情報システム大賞グランプリを獲得したプロジェクトメンバーでもあるだけに、現場に即した具体的な記述はとても平易で読みやすかった。まさに「使える」本である。
「カイシャ」とはどういうものなのか |
会社はこれからどうなるのか 岩井克人著 平凡社 ISBN4-582-82977-5 2003年2月 1600円(税別) |
働く会社を変えれば転職、自分で会社を興せば起業。職業人としての自己実現は「会社」を通じてなされるものである。ではその舞台たる会社とはいったい何か……。
この本は物理の公式を組み立てるように、原理原則から1つずつ、会社とは、日本型資本主義とは、そしてわれわれが突入しているポスト産業資本主義とは何かを、じれったいほど丁寧に説明している。330ページほどの本であるが、自分戦略を考えるヒントが詰まっているのは最後の60ページ。これからの会社のあり方と、会社で働くということについて著者なりの見通しを述べている。
まず、これからの企業の競争力は資本の多寡や設備の軽重ではなく「ヒト」、それも1人ひとりのタレントや、それを生み出すアイデアになってくると指摘している。文中では、以下のように記述している。「(略)ポスト産業資本主義的企業にとって、いかにヤル気を起こさせる人間組織をデザインするかが、その命運を決してしまうことになった」
次に、自ら差異(これが競争力の源泉)を生み出せる個人の起業が容易になっていくことを指摘している。金融革命によって資金調達が、IT革命によって情報流通が、それぞれ容易になったことを背景としてあげているが、同時にこんな指摘もある。「だが、いくらこのような外的条件が整ったとしても、会社を興す意思決定をするのは究極的には個々の人間である」
日本はこれからどうなるのか。その中で自分はチームリーダーとしてどう組織をマネジメントしていけばいいのか。そんな骨太なテーマを、あらためてじっくり考えてみたいと思わせてくれる1冊である。
「自分を売る」ことの大切さを実感できる |
営業マンは断ることを覚えなさい 石原明著 明日香出版社 ISBN4-7569-0628-1 2003年2月 1500円(税別) |
営業マンでなくても、最低1つは売らなければならないものがある。それが「自分」だ。売り込むとまでいかなくても、実力を正当に評価してもらうためにはそれなりのアピールとコミュニケーション力が必要になってくる。
この本は、タイトルが示すように営業マン向けの本である。(中小)企業の社長に向けて、売れる営業マンをどう育てたらいいかというノウハウ本の体裁を取っている。しかし、自分ブランドをどのように構築するかという問題へのヒント集として読んでみても面白い。ぜひ“自分カンパニー”のリーダーとして、優秀な部下をどう育てるべきかという視点で読んでほしい。
前出の『会社はこれからどうなるのか』でも言及されているように、ポスト産業資本主義社会において「ヒト・モノ・カネ」の中でヒトがますます重視されていく。ということは、自らの力を「磨く」とともに、自らを「売る」ことにも意識を配る必要が出てくるのである。
「自分を売り込むことが苦手で……」だって? だからこの本を選んだのである。自らを売り込むとは、頭を下げて安売りをして買ってもらうことではない。売り物を熟知したプロとして買い手に接することなのである。
「売れるほどのスキルがないんだよね……」だって? それに思い当たるヒトは「商品の良さと売れ方は関係ない」というセクションを読んでみてほしい。営業マンのセンスを持てば、あなたのチームリーダーとしてのスキルも2倍生きるかもしれない。
不平不満ばかりもらすヒトに読ませたい |
「原因」と「結果」の法則 ジェームズ・アレン著、坂本貢一訳 サンマーク出版 ISBN4-7631-9509-3 2003年4月 1200円(税別) |
なぜかビジネス書にランクインし、書店でもビジネス書コーナーに置かれている。確かにタイトルを見る限り、いかにもビジネス書だが、内容は自己啓発書的なものだ。
自己啓発書というと一見うさんくさそうだが、そんなことはない。本書は、なんと1902年に書かれたものだ。1世紀以上も前のことである。激動の20世紀の間、読み継がれているという事実は、内容が真理を突いていることの証左ではないだろうか。
しかも、現代成功哲学(というジャンルがあるらしい)の大家であるナポレオン・ヒル、デール・カーネギー、アール・ナイチンゲールなどに多大な影響を与えているそうだ。本書のまえがきでは、「近年の自己啓発書のほとんどは、ジェームズ・アレン氏のシンプルな哲学に具体的な事例をあれこれとくっつけて、複雑化したものにすぎない」と言及している。
さて、内容だが、趣旨は至ってシンプル。成功、人格、環境、健康などの「結果」は、すべて思いが「原因」だ、というもの。仕事がうまくいかないと、「会社の方針が」「上司が」「得意先が」と何かのせいにしてしまいがちだが、何かのせいにしてしまうと、それ以上の発展はない。ならば現状は自分に責があると認め、自分が何かをしなければ事態は解決しない、と覚悟を決めて課題の解決に当たった方が解決の可能性があるのではないだろうか。
本書を読み終わって、筆者が思い出した格言(?)はこれ。「宝くじを当てるには、まず買うこと。買わなければ絶対に当たらない」
リーダーに必要な企画力・開発力アップに役立つ |
考具 加藤昌治著 TBSブリタニカ ISBN4-484-03205-8 2003年4月 1500円(税別) |
学生時代の先輩が広告会社に入社してコピーライターになった。その先輩が新人のころ与えられた宿題。「団扇(うちわ)について、明日までにキャッチコピーを400個考えてこい」。あなたはいくつ考えられるだろうか? 筆者もこのように尋常ではない量と質のアイデアを生み出さなければならない広告会社の企画担当者だ。
もちろんいきなり団扇のコピーを400個も考えられるわけはない。企画のプロたちはどうも道具を持っているらしい。そして次のように問い掛ける。「あなたは考えるための『道具』を持っていますか」。本書ではこれを「考具」と呼ぶ。システム開発でいうところの、開発手法に相当するものだ。
企画立案を「情報を集める」「アイデアを拡げる」「アイデアを企画に収斂させる」の3つのフェイズに分け、それぞれの考具を紹介している。昨今、企画書の書き方を指南する本はよく見掛けるが、企画になるまでのプロセスを解説してくれる本はまれだ。
「アイデアを拡げる」フェイズでは、「手書きアイデアスケッチ」「ポストイット」「マンダラート」「マインドマップ」「ブレーンストーミング」など、具体的な説明があり、すぐにでも活用できる。
本書の筆者も参考にしたと書いているが、『アイデアのつくり方』(ジェームス・ウェブ・ヤング著、TBSブリタニカ)も、企画が苦手という方にぜひ読んでいただきたい。「アイデアとは既存の要素の組み合わせ以外の何ものでもない」という一文は、大変参考になる。
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