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 スマートフォン&ソーシャル業界の転職者にインタビュー

スマソ系エンジニア転職市場Watch!

第2回 開発経験ほぼなしの元経理、Androidアプリ開発エンジニアへ転職

IT業界の転職市場は、回復傾向にある。特に、スマートフォン&ソーシャル業界の求人意欲は活発だ。本連載では、スマートフォン&ソーシャル業界への転職に成功したエンジニアにインタビューし、「生の声」を聞いていく。転職を考えているエンジニアの参考になれば幸いだ。

吉永彰成さん

【今回の転職者】吉永彰成さん

(28歳、転職1年目)
株式会社リーディング・エッジ社
エンジニアセンター ITエンジニア
【転職前】
(1)CAEソフトのテクニカルサポート
(2)携帯アフィリエイト会社での経理業務

 ↓
【転職後】
Androidアプリ開発エンジニア

 携帯情報端末の新たなプラットフォームとして、世界中から注目を集めている「Android」。市場の急速な拡大に伴って、Androidアプリ関連のエンジニアに対するニーズはますます高まっていくと予想される。

 これは、ITエンジニアにとってはキャリアを広げる大きなチャンスである。具体的にどのような知識やスキルを持っていれば、Androidアプリ開発の現場で活躍できるのだろうか?

 今回紹介する吉永彰成さん(28歳)は、リーディング・エッジ社に所属する、Androidアプリの開発エンジニアだ。ITエンジニアとしての実務経験がほとんどない状態から独学でプログラミングスキルを身に付け、見事Androidエンジニアへの転職を果たした。吉永さんはいかにして転職を成功させたのか――詳しく話を聞いた。

  テクニカルサポート→経理→開発エンジニアという異色のキャリア

 大学院で物理学の研究に取り組んだ吉永さんは、その知識を生かし、海外製CAEソフトウェア(工業製品の設計・開発工程支援システム)の販売会社に就職し、物理シミュレーションシステムのテクニカルサポート業務を担当していた。しかし、入社して1年が経過したころ、吉永さんの興味は「会計」という、まったく別の分野に移っていく。

 「もともと理論好きなためか、会計理論に興味を持ったんです」

 働きながら公認会計士の資格取得を目指すことにした吉永さんは、最初の転職を決意する。転職活動をしたところ、携帯アフィリエイトサービスを手掛けるベンチャー企業で、経理担当として働くことになった。

 財務部門の中枢メンバーとして、「かなり幅広く、貴重な経験が積めた」と吉永さんは語る。しかし、外部の公認会計士や税理士とのやりとりを通じて、「理想と現実は違うかもしれない」と感じるようになる。転職して2年が経過したころ、思い切って公認会計士の資格取得を中断した。

 「もっと自分に向いている仕事はないか、自分が本当にやりたい仕事は何か」――じっくり考え抜いた末に出た答えは“プログラミング”だった。

  プログラミングスキルはすべて独学、スマートフォンにも高い関心

 実は、吉永さんは大学在学時からプログラミングが趣味だった。当時はWindowsを使用して、Visual Studio上でDirectXを使ったゲームを作成したり、OpenGLで3Dを描いたり、簡単なWindows APIを使ってWindowsフォームアプリケーションを作ったりなど、独学でプログラミングスキルを身に付けていた。「好きな言語はC++です」という吉永さんは、経理として働いていた時からC++の勉強会に定期的に参加し、OpenGLを使ったデモを発表していたそうだ。

 経理の仕事にも、プログラミングスキルは生きた。Excel VBAでマクロを組んだり、C++でテキスト整理のためのプログラムを組んだりして、業務改善系の仕事も手掛けるようになった。

 「勉強会で知り合ったエンジニアたちからは『何で経理やってるの? 開発やった方がいいよ』とよく言われていました。彼らと交流するうち、自分はエンジニアに向いているのではと思うようになったんです」

 これまで趣味でやってきたプログラミングを、仕事に生かしたい――吉永さんの思いは日増しに強くなっていった。

 そんな中、吉永さんがキャリアの方向性を見い出すきっかけとなったのが、2009年当時のスマートフォン市場の急成長だ。iPhoneやAndroidなど、新しいプラットフォームで開発をしてみたい――。吉永さんは早速、個人でアプリ開発をしてみることにした。

  Androidの可能性に触れ、2カ月で自作アプリをリリース

 iPhoneとAndroid、どちらのプラットフォームで開発するか? 吉永さんは考えた。iPhoneアプリはObjective-Cによる開発のため、C++のスキルが応用できる。一方、AndroidではJavaだ。吉永さんは考えた結果、Androidを選択した。

 「Javaはそれまでまったく使ったことがありませんでした。しかし、Androidは無料で開発環境が手に入るし、何よりマーケットへの登録がiPhoneより格段に安い。そのため、Androidアプリを開発しようと思ったのです」

真高速道路案内真高速道路案内

 Androidアプリ開発に関する書籍とXperiaを購入し、プライベートの時間を利用してJavaの勉強を始めた。「思っていたよりもC++の知識を応用できた」ため、およそ2カ月で最初のAndroidアプリ「高速道路案内」(最新バージョンは「真高速道路案内」)をリリース。公開APIを利用し、練習用にと作成したアプリであったが、レビューサイトで取り上げられたのをきっかけに、現在は3万件近くまでダウンロード数を伸ばしている。

 Androidアプリを作る傍ら、吉永さんはエージェントや転職サイトを利用しながら本格的な転職活動も始めた。Androidアプリ開発を手掛ける企業を中心に、検索エンジンやWeb系開発の企業にも応募した。リーディング・エッジ社に入社した理由について、吉永さんはこう語る。

 「応募するより以前に参加したリーディング・エッジ社主催セミナーの、Androidに関するプレゼンテーションが非常に印象的でした。AndroidはiPhoneと違って、カーナビや家電にも移植ができるといった話を聞いて、『Androidには無限の可能性がある』と思いましたね」

 プレゼンテーションが終了した後すぐ、吉永さんは発表者であるエンジニアに話を聞きに行った。自分のAndroidに対する熱意を伝えるうちに、「ぜひリーディング・エッジ社で働きたい」という思いは増していったという。

 Androidアプリの開発をやりたい――熱い思いを面接で積極的にアピールした吉永さん。その思いは実り、エンジニアとしての経験はほぼなかったものの、見事2010年12月にリーディング・エッジ社に転職を果たした。

  入社後いきなりAndroid開発の現場に!

 幸運なことに、入社後すぐにAndroidアプリ開発に携わるチャンスがやってきた。モバイルコンピューティングサービスを手掛けるクライアント企業で、Android端末に搭載されている標準アプリのバグ修正作業を担当することになったのだ。

「すぐに現場で経験を積めて、自分は運が良かった」「すぐに現場で経験を積めて、
自分は運が良かった」

 研修期間を経ず、転職後すぐの現場配属である。喜びは大きかったものの、最初は相当なプレッシャーもあったそうだ。

 「顧客先では、いきなり“開発エンジニア”として、バグの修正を求められました。キットの使い方も知らない状態でしたから、毎日が勉強でした。バグを確認したらコメントアウトしてコード修正、レビューだけは先輩にしてもらって、どんどんコミットしていく。2カ月間ずっとそんな調子で、ひたすら開発していましたね」

 バグの原因がアプリ側にあるとは限らず、フレームワークに手を加える時もあった。知識が足りない部分は、その都度Android Developersを確認して補強していったそうだ。初めてやる作業だらけという状況でも、顧客側の期待には応えなくてはならない、というプレッシャーはかなりあったものの、吉永さんは「結果的にはいろいろ経験できて、自分は運が良かった」と笑う。

 「この2カ月間で、Androidソフトウェア開発の流れを感覚としてつかめたのは収穫でした。必死でしたが、『どうにか自分でもできた』と、ほっとしましたね。ただそれはあくまで、独学である程度の知識を身に付けていたから、できたことではないかと感じています。事前知識がなければ、通用しなかったでしょう」

  Androidは、Web系とクライアント系、両方の面白さがある

 次の顧客先では、Androidアプリの設定画面のUI(ユーザーインターフェイス)構築の他、Twitterの通信周り、ライブ壁紙アプリの2D・3D描画など、さらに幅広い経験を積むことができた。吉永さんは、プロジェクトを渡り歩きながら、さまざまな切り口でAndroidアプリ開発に関わっていることに喜びを感じているという。

 「Web系の良さとクライアント系の良さが、両方合わさっている点がいいですね。Web系の開発経験があれば、Androidアプリ開発は親しみやすいと思いますが、Androidはあくまでクライアント端末なので、メモリの使用量が限られてきます。言語はJavaを使うけれど、メモリ管理は特に気を付けないといけない。そのあたりの感覚が鍛えられますね。またAndroidは描画のAPIが整っているのも魅力です。個人的にはWindowsで使ってきたOpenGLの知識が生かせたのが良かったですね。自分のようなC++でのゲーム開発経験者は、なじみやすいのではないでしょうか」

 吉永さんは現在もプライベートの時間を利用して、Androidアプリを開発してはマーケットへ公開している。Androidコミュニティへの積極的な参加はあまりないものの、Twitter経由でのAndroidエンジニアとの情報交換は欠かさないそうだ。

  Androidエンジニアを目指すなら、独学で最低限の経験を

 吉永さんは、「Android開発に関わりたいというエンジニアは増えている。しかし、即戦力として活躍するには知識が足りない人が多い」と感じている。

 「Androidのメッセージ通知UIは『Toast(トースト)』です。トーストと聞いて、パンのトーストが思い浮かんだら、それはまだまだAndroidについて知らないということです。Androidに携わりたいと思ったら最低限、自分で端末を買ってアプリを作り、マーケットに公開するまでのことはやっておくといいのではと思います」

 逆に言えば、独学である程度の知識とスキルを身に付けていれば、吉永さんのような開発エンジニア実務未経験の人でも、十分に活躍が可能ということだ。最後に、今後の吉永さんの目標を聞いた。

 「今後もAndroidに継続して関わり、さらなる魅力を引き出して、面白いサービスを作っていきたいですね。特に今はGoogle App Engineとの連携に着目しているので、サーバサイドとクライアントサイドの良いところを組み合わせた新しいサービスを生み出したいと思っています。会社の名前とともに、自分の名前も世界に広げていけたらいいですね」

●人事に聞いた、吉永さんの評価ポイント

 業務での開発経験はほとんどなく、サポート業務と業務改善のための自動集計プログラム開発程度だったため、経歴面での評価はそれほど高くありませんでした。

 しかし、学生時代からプログラミングに親しんでおり、自主的にコミュニティへ参加していること、Androidマーケットへ自作アプリを公開していることも含め、面接時に「経歴以上のスキルがある」と判断しました。

 吉永さんは新しい技術への興味が高く、面接時の受け答えも明確でした。こうした地頭の良さ、そして明るい性格を評価しました。

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