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Book Guide



 

■技術スキル
多くの人にとって使いやすいWebコンテンツを
Webアクセシビリティ――標準準拠でアクセシブルなサイトを構築/管理するための考え方と実践
●Jim Thatcher、Michael R. Burks、Christian Heilmann、Shawn Lawton Henryほか著、渡辺隆行、梅垣正宏、植木真監修、UAI研究会 翻訳プロジェクト訳
●毎日コミュニケーションズ 2007年10月
●3990円(税込み) 978-4-8399-2220-7

 「アクセシビリティ」という言葉をご存じだろうか。障害者、高齢者を含めた多くの人にとっての使いやすさを意味する。日本では2004年にJIS規格にWebのアクセシビリティが盛り込まれたことから、官公庁、地方自治体をはじめ民間企業でもWebコンテンツのアクセシビリティを確保する取り組みが行われている。
  本書は世界の専門家11人の執筆、日本の第一人者たちの翻訳による、Webアクセシビリティ解説書である。筆者がこの本に興味を持ったのは、アクセシビリティの普及で活躍をしている植木真氏が翻訳と監修を担当していたためだ。
  オーストラリアやアメリカでの訴訟事例の紹介から始まり、アメリカのリハビリテーション法508条とW3CのWCAG(Web Content Accessibility Guidelines)への対応を中心に、HTML、CSS、JavaScriptなどの文法を知っているだけでは実装できないアクセシビリティ対策のノウハウが詰まった1冊だ。
  障害者や高齢者に使いやすければ、そのほかの人にとってもいっそう使いやすくなる。また、アクセシビリティ技術のいくつかはSEO(検索エンジン対策)と共通であるため、アクセシビリティを意識すれば、検索サイトでの順位が上昇する可能性も高い。
  本書は実用書という位置付けであるため、哲学的な話は出てこない。加えて最適な翻訳と補足、翻訳時の最新情報の追記によって、656ページからなる大作にもかかわらず、興味を失わず読み切れた。そして世界のアクセシビリティ動向と日本での具体的な実装方法を深く学ぶことができた。
  企業や自治体でサイトのアクセシビリティ向上を推進する人、業務でアクセシブルなページを作成したい人にお薦めの良書である。
富士通ラーニングメディア講師・村本奈美

最初につまずかないために、入門書選びは重要
やさしいJava 第3版
●高橋麻奈著
●ソフトバンククリエイティブ 2005年9月
●2730円(税込み) 4-7973-3182-8

 ベストセラー本になったことで、本書の書名だけは聞いたことがあるという方も多いと思う。私も最初はその1人だった。なんとなく、「ベストセラー」「40万部」「第3版」という広告に釣られ、興味本位で手に取ったのが本書との出合い。著者を見ると高橋麻奈氏とあり、以前ブックガイドで紹介した本『プログラムのからくりを解く ルート探索や料金計算はどうやってるの?』と同一人物だったことに驚く。Javaの本が数知れずある中で、引き寄せられたかのようだ。書名からして、分かりやすいに違いないと勝手に推測して手に取ったのかもしれない。
  本書は、プログラミングの経験がなく、また、Javaは難しそうだと抵抗感を抱いている人向けのJava入門書である。そのため、変数、演算子、条件分岐、配列などの基本文法が、参考書の厚さの半分弱を占めている。
  大まかな構成は、J2SEの範囲が体系的に記述されており、各章の解説の後には演習問題があり、章によって関連知識のコラムがありと、オーソドックスな参考書だ。
  では、本書の良いところとは何か。それは、かゆいところに手が届くことだと思う。
  まずは、Javaの環境設定の章だ。Javaを一から始める人にとってはしょられると非常に困る、JDK(Java SE Development Kit)インストールの部分やコンパイラの使い方が、コメント付きの写真とともに丁寧に解説されている。右も左も分からない入門者にとってとてもありがたい。これからJavaを学ぼうというのに、ここでつまずくわけにいかないからだ。
  また、コラムがすごくそそられる。著者としても力が入っていたのか、コラムだけの目次まで存在した。コラムの内容は、オーバーライドとオーバーロードの違いや、ローカル変数とインスタンス変数の違い、publicとprivateを省略するとどうなるかなど、初心者がこんがらがってしまいがちなポイントがうまく抽出され、端的にまとめられている。ただ欲をいえば、せっかく着眼点が鋭く魅力的なので、コラムとはいえもう少し詳しく書いてあればなお一層ありがたかった。
  長いサンプルコード出てきたとき、「長いコードなので少しうんざりしてしまいますね」といったねぎらいの言葉に、心なしか救われたりもする。かわいいイラストにも心癒され、まさにやさしいJavaといったところだ。(@IT自分戦略研究所 荒井亜子)

CからC++への前進に最適な1冊
C++クラスと継承完全制覇(標準プログラマーズライブラリ)
●矢沢久雄著
●技術評論社 2002年9月
●2499円(税込み) 978-4774115733

 C++はアプリケーション開発のみならず、現在では組み込み開発においても非常に需要が高まっている言語である。開発者にとっては、ぜひ学んでおきたい言語の1つであるはずだ。しかし、C言語の経験がある開発者の中にも「C++の理解は難しい」と感じている人は多い。難しいのは、C言語に追加された「オブジェクト指向」の考え方であるらしい。クラスを定義し、継承することの利点が理解できず、挫折してしまうとよく聞く。
  本書は、C言語ができるが、C++ができない人を対象に執筆されている。C++を学んだことがない人、C++の理解に挫折してしまった人にとって、まさにうってつけの書籍だ。タイトルにあるとおり、基本文法ではなく、オブジェクト指向の基盤「クラスと継承」を中心に解説している。オブジェクト指向のメリットへの理解を深める記述や図も豊富だ。また、C++でオブジェクト指向で開発するときに不可欠な機能(オーバーロード、コンストラクタ、デストラクタ、オーバーライドなど)の仕組みや動きも詳細に記述している。
  特に私が気に入っているのは、メモリ上でどのように実体を持っているのかを意識して説明を進めていることである。C言語同様、C++もメモリ上の実体がどのように構成されているかについての理解が不可欠であり、それがC言語の経験をC++につなげる手助けになると思う。
  著者は序文で、「難しそうと躊躇している人の気持ちも、挫折した人の気持ちも、筆者は自分のこととして十分に理解しているつもりです」と記述している。その言葉どおり、C++の理解に苦しんでいる人に対し、非常に思いやりのある書籍に作られている。C言語からC++へ挑戦し、さらに飛躍したい人にはぜひ一読をお勧めしたい。
富士通ラーニングメディア講師・五十嵐寿恵

データベースの仕組みを理解して、より良いシステムを
インサイドMicrosoft SQL Server 2005(マイクロソフト公式解説書)
●Kalen Delaney著、熊澤幸生監修、オーパス・ワン翻訳
●日経BPソフトプレス 2007年6月
●4935円(税込み) 978-4-89100-550-4

 「SQL Serverはデータベース管理を自動でやってくれるので、チューニングの余地があまりない」「インターネットだと、SQL Serverの断片的な技術情報しか得られない」。現場でこんな不満を感じたことはないだろうか。本書はSQL Serverの専門的な解説書である。SQL Server 2005を新規に導入する人だけでなく、上記のような不満を持つSQL Serverの経験者にも薦めたい1冊である。
  SQL Server 2005はマイクロソフトのデータベース製品であり、SQL Server 2000の後継製品だ。本書ではSQL Server 2005の「設計のポイント」「各機能の仕組み」が述べられ、前バージョンからの仕組みや機能の変更点についても説明されている。
  本書の最大のメリットは、詳細な解説である。複雑な個所では分かりやすい図表が活用され、データベース内部の仕組み(SQL Server 2005のインストールとアップグレード、SQL Server 2005のアーキテクチャ、データベースファイル、トランザクションログの仕組みなど)を詳しく説明している。
  各項目の情報量は非常に豊富だ。先頭から順に読み進めていくこともできるが、深く掘り下げたい機能を中心に個別の項目を学習していく形でも十分活用できると思われる。説明文中にはSQL Serverで提供されている各種コマンドやサンプルスクリプトが掲載され、開発者、運用者に重宝される情報が盛り込まれている。
  本書を読みこなすのは大変だと思う。しかし、「データベースの仕組み(アーキテクチャ)の理解」がより良いデータベースシステムを生み出すことにつながれば、ITエンジニア冥利(みょうり)に尽きるのではないだろうか。興味がわいたら、一度手に取ってみてほしい。(富士通ラーニングメディア講師・田中健一

注目のITILを分かりやすく解説し、資格試験対策にも効く
要点解説 ITILがわかる!
●黒崎寛之著
●技術評論社 2006年10月
●1974円(税込み) 4-7741-2910-0

 「手順書が整備されていないので、何をやるにも先輩に確認しないといけない」「あの人がいなくなると業務が回らなくなってしまう」。職場でこんな不満を感じたことはないだろうか。ITILのコンパクトな解説書である本書は、ITサービスマネジメントに興味のある人だけでなく、属人的な業務運用に困っている若手エンジニアにも薦めたい1冊である。
  ITILとは、ITサービスマネジメントの成功事例を集めた書籍群のことだ。ビジネスを支援するITシステムの品質を、費用対効果を考慮しながらいかに向上させていくかについて、「プロセス」の切り口で述べられている。認定資格であるITIL Foundationの取得意欲は非常に高く、ITサービスを提供する企業やシステム運用管理に携わる人々の高い関心を集めているフレームワークといえる。
  とはいえ、何の準備もなくITILをひもとこうとすると、頭を抱えることになるだろう。ITILの中心的な2冊である『サービスサポート』『サービスデリバリ』は各300ページ前後であり、記述は抽象度が高く理解は困難である。ITILの理解やFoundation資格の取得には参考書の活用が欠かせない。
  本書の最大のメリットは分かりやすさである。各プロセスを「基本用語」とプロセスの「目標」、目標を達成するための「活動」、活動の達成状態を計る「指標」という4つの流れで説明している。ITILの記述の骨子を、著者の経験に基づいて肉付けしているので、読者はつまずくことなく理解できる。また、専門用語を説明する際、「盲腸炎」や「手術」といった想像しやすい例えを用いているため、ITサービス提供の業務経験が少ない人の理解も促進されるだろう。
  Foundation資格試験対策という側面も充実している。試験で問われやすいポイントを明示してあり、用語集や練習問題も盛り込まれている。本書で学習したうえで研修などを受講すれば、合格の可能性は高いと思われる。
  上記「盲腸炎」の例のように、本書はITILの理解にシステム運用管理以外のものを例えとして用いた。これを逆に見れば、「ITILの考え方は私たちの日常業務の改善にも応用できる」と考えられそうだ。ITILを学習した後は、その考え方を参考にして自分の組織のプロセスの成熟度を測定し、整備されていない部分の対応策を提案するのも面白いかもしれない。担当業務の分野を問わず推薦するゆえんである。(富士通ラーニングメディア講師・海野雄馬

文系プログラミング初心者にもお薦め
プログラムのからくりを解く ルート探索や料金計算はどうやってるの?
●高橋麻奈著
●ソフトバンククリエイティブ 2007年5月
●945円(税込み) 4-7973-3950-0

 プログラミングを勉強し始め、文法が少しずつ分かるようになってきたが、どうも分かっているのは言葉だけで、プログラムの実態がつかめないでいるような気がしてならない。プログラムがコンピュータを動かす仕組みが分かっておらず、文法を覚えても応用が利かないのだ。そんなとき、本書に出合った。
  本書では、エアコンや自動販売機など、身近な機器をイメージしつつ、プログラムの仕組みを説明する。ハードウェアを制御するプログラムが、コンピュータ(の各種の機構)とどのように連携するのかが、イラストやグラフなどで分かりやすく描かれている。普通は見えないコンピュータの中の動きが視覚化され、まるで自分がコンピュータの中に入り込み、データが動く様子を「体験しているような」気分になる。
  例えば、「(160+50)×2」の演算式をソースコードとして書いてプログラムを実行すると、当たり前のように「420」という実行結果が出力される。しかし、メモリの中で何が起こっているのかは、ソースコードやコマンドプロンプトを眺めているだけでは見えてこない。本書では、メモリ上で、データが並べられ、積み上げられ、取り出されるという一連の動作である、データの記憶と取り出しがイラストで描かれている。想像力が喚起され、データの記憶と取り出しの流れがするする頭に入ってくる。
  ほかにも、アナログデータをデジタルデータに変換する際、0と1に符号化する処理が、コンピュータの中でどうやって行われるのかが図解で示されている。これが分かるとカーナビシステムで適宜流れる音声ナビの仕組みを頭の中で「体験」できる。本書を読むに従って、外の世界とプログラムのかかわりが徐々に具体的なイメージでつながっていくのがうれしい。柔軟な発想力を養う訓練にもなりそうだ。
  プログラムを言葉だけで分かった気になっている機械音痴の(文系プログラミング初心者の)私には、目からうろこの1冊だった。
  アルゴリズム、プログラミング、データベースなど幅広く扱っている内容のため、これからコンピュータを学ぶ人の基礎知識を身に付ける1冊としてお薦めする。(@IT自分戦略研究所 荒井亜子)

安全な開発のために、暗号化技術の本質を理解しよう
暗号技術入門―秘密の国のアリス
●結城浩著
●ソフトバンククリエイティブ 2003年9月
●3150円(税込み) 4-7973-2297-7

 Webアプリケーションのセキュリティが注目されるようになって久しい。さまざまな攻撃に対処するさまざまな防御手段があり、特に新しい技術ほど、開発者が意識しなくてもよいように、初期設定などで「ある程度の」安全性が保たれているものが多い。セキュリティ対策が簡単に実現できるように、関数などが準備されていることもある。その結果、関数そのものを覚えただけで、機能やその本質を理解しないままでいる技術者も見受けられる。
  アプリケーションの安全性は、適切な技術を適切な組み合わせで利用することにより向上する。便利に使える関数も、組み合わせを誤っていたり利用シーンに合ったものを選択できていなかったりすれば、攻撃に対する防御手段としては意味を成さないかもしれないのだ。
  本書では暗号の歴史をはじめ、現在多く使われている暗号化技術、その周辺技術までが幅広く紹介されている。特徴的なのは図の明快さと読みやすさで、数学の知識に自信がなくても、技術の概念や動きを十分に理解することができる。動きを知ることによって、適切な利用シーンや、別の技術で補うべき点が見えてくる。
  歴史を学ぶことに抵抗感を覚える人もいるかもしれない。しかし技術が生み出された背景を知ることによって、今後何が実現されれば現在使用している技術が安全でなくなるのかといったことも理解できるようになる。
  入門と銘打っているため、実装時に参考にできる内容が少ない点は否めない。また、出版から4年がたっており、技術書としては古い部類に入るだろう。それにもかかわらず本書は、内容が色あせていない良書であるといえる。
  本書は、あなたが知っている暗号化技術に何ができて何ができないのか、どんな組み合わせで暗号化技術を使えばより安全なアプリケーションが作れるのかを教えてくれるだろう。
富士通ラーニングメディア講師・今村可奈

サクサク読める、組み込みに特化したソフトウェア工学の入門書
組込みソフトウェア開発はなぜうまくいかないのか―開発現場の泥沼から抜け出すために
●岩田宗之著
●日科技連出版社 2007年5月
●2730円(税込み) 978-4-8171-9224-0

 組み込みソフトウェアに関する講習会を実施していると、企業の教育担当者や受講者から「開発の一連の流れを把握させたい」「担当業務以外の個所も知ってほしい、知りたい」という声を聞く。いままでこのような知識はOJTによって取得されていたが、現在は開発規模の増大や人手不足などの理由により、OJTがこれまでのようにうまく機能していないようだ。このような状況だからこそ、組み込みソフトウェアの一連の開発工程を理解したうえで、自分の担当する業務の役割や他工程との関連を理解することの重要性が高くなっているといえる。
  本書は、ソフトウェアとは何かという入門的な話からソフトウェア開発の管理の話まで、各工程で必要な知識や作業を順に紹介している。読み終わったときには、開発工程の一連の流れを把握できるようになっているだろう。特に一度開発を経験している2、3年目のエンジニアであれば、すんなりと内容を理解できると思う。具体例を用いて説明しているため、開発現場をイメージしながら読むことができ、ソフトウェア開発におけるベースの知識を知るのに最適な構成になっている。
  本書の大きな特徴は、組み込みソフトウェア開発に特化したソフトウェア工学の入門書である点だ。具体例として挙げられているのはすべて組み込みソフトウェア開発に関する事例であり、納得できる事柄が数多く書かれている。例えば、システムはアプリケーション、ハードウェア、ユーザーインターフェイスのドメインに分けて開発する、仕様書には動作だけでなく理由も書くなど、開発経験から得られたさまざまなノウハウが披露されているのだ。具体例と根拠が併せて記述されているため非常に分かりやすく、組み込みソフトウェア開発者に最適な実用的図書なのである。
  タイトルからは難しい印象を受けるかもしれないが、内容は非常に読みやすく、電車の中や自宅などで読み物としてサクサク読み進めることができる。一度開発に携わった人やこれから開発に携わる人をはじめ、ソフトウェア開発に携わるすべての人にお薦めしたい1冊である。 (富士通ラーニングメディア講師・奈良久美子

ハードウェアの基本、知っておこう!
コンピュータアーキテクチャのエッセンス
●ダグラス・E・カマー著、鈴木貢、中條拓伯、仲谷栄伸、並木美太郎訳
●翔泳社 2007年5月
●3990円(税込み) 4-7981-0990-8

 コンピュータでプログラミングをするということは、コンピュータのアーキテクチャは最低限知っておくことが、暗黙の了解とされていた時期があったように思う。ぼくも当たり前のようにコンピュータのアーキテクチャを学習した。
  しかし現在では、必ずしも知っている必要はなく、知らなくてもプログラミングができる分野は広がっている。基本的なファイルI/Oでさえ、さほどアーキテクチャを意識しなくても問題ない。「そういうものだ」という程度の理解でいい。
 そういう中にあって本書で著者は、コンピュータアーキテクチャを学ぶ利点について、「ハードウェアを理解すると、より小さくて、速いコードを間違えることなく書けるようになるということ」を第一に挙げる。「基礎を成しているハードウェアを理解しているほど、プログラマはより良くソフトウェアを作ることができるのである」とも指摘する。
 本書では、ディジタル論理回路、ビットやバイト、2進算術、16進記法、Unicodeを含む文字コード、プロセッサ、メモリと記憶装置、入出力などの基本的な用語が詳しく(それでも略しながら)解説されている。
  ハードウェア関係の仕事をする場合は、本書では物足りないだろうが、ソフトウェア関係の仕事をしていて、多少ハードウェアのことも知りたい、そんなITエンジニアにはお薦めしたい1冊だ。(@IT自分戦略研究所 大内隆良)

現場で培われた、Oracleの貴重なノウハウ集
門外不出のOracle現場ワザ
●五十嵐建平、大塚信男、小田圭二、鈴木博貴、村方仁著
●翔泳社 2005年6月
●2730円(税込み) 4-7981-0929-0

 書店に行くと、Oracleに関連する書籍がずらりと並んでいる。その多くが分かりやすくまとめられており、どれを買おうかと悩んだ経験のある人も多いだろう。その中にあって本書は、「実践的」という点でほかとは一線を画している。
  著者は日本オラクルのコンサルタントである。日々ミッションクリティカルな案件や大トラブルに向き合う中で培われた貴重なノウハウが、本書で惜しみなく公開されている。つまり本書は単なるOracleの機能説明書ではなく、通常は個々人が現場経験を通して蓄積するはずの知識と技術を集約した「Oracleデータベースを最大限効率的に使用するための最高のガイド」(本文より)なのだ。
  例を挙げて紹介しよう。代表的なトラブルの1つに「時々レスポンスが遅くなる」という性能問題がある。この問題に早急に対応するために重要なことは何であろうか。それは「原因追求のための情報は日ごろから取っておく」(本文より)ことなのである。確かに、「遅い」という報告を受けてから情報を取ろうとしても、現象の再現パターンが特定できず、なかなか調査が進まないということはよくある。本書では、日ごろから取得しておくべき情報(一部サンプルも交えて紹介されている)に加え、情報の取得間隔の目安、それに伴う負荷にまで言及している。もちろん、取得した情報を確認するポイントの説明も詳しい。
  本書の内容は、上記のようなパフォーマンス分析のテクニックに始まり、トラブルを招かないためのデータベース設計および監視/テストの方法、オプティマイザの基本動作とその制御方法、コネクションプーリングの実装方法と選択基準など幅広い。Oracle管理者にはぜひ手元においていただきたい、お薦めの1冊である。
富士通ラーニングメディア講師・安永東加

実務で「使える」、リスクマネジメントプロセス導入の手引き
実践・リスクマネジメント――製品開発の不確実性をコントロールする5つのステップ
●プレストン・G・スミス、ガイ・M・メリット著、澤田美樹子訳
●生産性出版 2003年12月
●2520円(税込み) 4-8201-1767-X

 「予定していた作業時間が、割り込みにより確保できなくなった」「流用できると思っていた既存モジュールが使えないことが分かった」など、プロジェクトではさまざまな問題が発生する。これらの「問題」が発生してから対処するのではなく、発生する前の「リスク」の段階で対策を行うプロセスが、本書の主題である「リスクマネジメント」である。
  近年、プロジェクトマネジメントにおけるリスクマネジメントの重要性はますます高まっている。しかし、リスクマネジメントのプロセスが適切に実践されているケースはまだまだ少ないのではないだろうか。本書はリスクマネジメントをいかに「実践」するかという観点から、あくまでも現実の業務の中で実現可能なプロセスとしてモデル化し、豊富な事例とともに丁寧に解説している。
  本書は、製品開発業務におけるリスクマネジメントのプロセスを、5つのステップによってコントロールできるようにモデル化している。この5つのステップは、1.リスクの特定、2.リスクの分析、3.リスクの優先付けとリスクマップの作成、4.リスクの解決、5.リスクの監視からなる。このプロセスの考え方は、PMIが発行しているプロジェクトマネジメントの世界標準であるPMBOKのそれに準拠しており、PMBOKベースのマネジメントを採用している多くの企業にとっても違和感なく受け入れられるものだろう(なお、本書は2003年のPMIデビット・I・クレランド・プロジェクトマネジメント文献賞を受賞している)。また、リスクを特定し分析する際のモデルとして、「標準リスクモデル」を採用している点も本書の特徴である。標準リスクモデルとは、リスクを「リスク事象」と「影響」とに分解し、それぞれの「発生可能性」と「ドライバー(原因となる事実)」を分析するものである。このモデルを使うことで、「リスク事象への対策」とリスクが顕在化した際の「影響への対策」とを区別し、重層的に対策を検討することができる。リスクの優先順位を定量的に判断するための手法についても、数式の使用を最小限に抑えており、適用が容易なものになっている。さらに、「回避、転嫁、軽減、受容」などと無味乾燥に列挙・説明されることが多いリスク対策の方法も、標準リスクモデルと関係付けながら有機的に解説しており、大変分かりやすい。標準リスクモデルのような明快でシンプルなモデルを活用し、全体の説明の理解しやすさと実務での使い勝手の良さの両方を高めている点は本書の大きな魅力である。
  リスクマネジメントのプロセスを導入する際はもちろん、既存プロセスの改善を図る際にも、明確で具体的な指針を与えてくれる1冊であり、広くお勧めしたい。
富士通ラーニングメディア講師・生江孝至

ユーザー企業IT部門再生のためのバイブル
実践! ITガバナンス/IT統制―ITサービスマネジメントとIT部門再生
●玉川義人著
●公人社 2006年11月
●1995円(税込み) 4-86162-031-7

 本書において著者は、ERP、SCM、ITガバナンスに関する豊富なコンサルティング経験を基に、ユーザー企業がITを導入、運用していくためのポイントを解説している。特に昨今のユーザー企業のIT部門の弱体化が企業のITに関するさまざまな問題の根本原因であると述べ、IT部門の再生を訴える。
  著者の論点は明確だ。コンサルタントの役割はIT化をスムーズに行うための考え方、方法論を提供することであり、SIベンダの役割は人材と製品、サービスの仲介/元請け会社として機能することであり、ユーザー企業のIT部門にこそ、自社の経営的戦略を基にしたIT化企画を行う責任があると述べている。
  本書では、ユーザー企業がIT導入における企画、管理/監査、保守運用という一連のフェイズを首尾よく行うため、SWOT分析、バランス・スコアカード、PMBOK、ITILといったフレームワーク、ツールを使った具体的なIT化推進プロセスを伝えている。丁寧な解説で、IT導入の経験が少ない方にも非常に分かりやすいと思う。加えて、著者の豊富なIT業界での経験からの主張だと思われるコンサルタントの選び方、利用法、総合テストの際の仕様変更と不具合の考え方、その対処法などは非常に興味深い。多くのIT部門の参考になると思う。
  著者は最後に、IT企画、管理/監査、保守運用といったIT部門の役割の中でも、特に保守運用にIT部門再生の大きな手掛かりがあると訴えている。少し前までは単純にマニュアルどおりに運用していくための定常作業として、コスト削減の一番のターゲットであった保守運用が、現在は重要なポジションを占めているという。さて、皆さんはこのメッセージをどのように聞くだろうか。
富士通ラーニングメディア講師・金原篤

ビジネスの観点から、中立的にオープンソースソフトウェアを解説
オープンソースを理解する
●秋本芳伸、岡田泰子著
●ディーアート 2004年1月
●1890円(税込み) 4-88648-719-X

 官公庁や学校、一般企業などでオープンソースソフトウェア(OSS)が積極的に採用され始めている。OSSを扱うシステムに携わるITエンジニアも増えているのではないだろうか。
 それでもいまだに「OSSはすべて無償である」との誤解があり、オープンソースの概念が広く理解されているとはいい難い。OSSについて「よく分からない」という印象を持っている人も多いだろう。弊社(富士通ラーニングメディア)で定期的に開催している、OSSの代表格であるLinuxの講習会などでも、「特定ソフトウェアの技術的スキルはあるが、オープンソースの概念はあまり分かっていない」という声がよく聞かれる。
 本書はOSSの概念、知的所有権、歴史の紹介と、OSS解説書の定番の内容で始まる。しかしその後に続くOSSのメリットと現状、課題については、複数の視点から非常に丁寧な議論を展開していて、これが大きな特徴になっている。
 ソフトウェアの紹介や技術的な内容を中心とした書籍が多い中、ソフトウェア紹介は最小限にとどめ、OSSの採用を検討した場合に生じる疑問や課題を、一般ユーザーと開発者の視点に分けて議論している。例えばOSSのメリットの1つとして、ソースコードが公開されている点がよく挙げられる。しかし、開発コミュニティに参加するようなコアなユーザーでない限り、ソースコードを見たり変更したりすることはまずない。では、ソースコードが公開されていることのメリットはどこにあるのか。本書ではこのようなOSSの疑問を、複数の視点から議論することですっきりまとめている。
 本書の良さは、常にビジネスの観点から中立的にOSSをとらえている点だ。OSS関連書籍によくある、商用ソフトウェアを敵視した「OSS万歳」ではなく、中立の立場から商用ソフトウェアとOSSのメリットを述べている。いかにOSSをビジネスに活用するか、そのための課題は何かを冷静に議論しているため、OSSに対して抱いていたイメージが変わる読者も多いだろう。
 オープンソースの入門書として、直接OSSにかかわらない人にもぜひ読んでいただきたい1冊だ。また、OSSに関する知識がすでにある人の知識の整理にも大いに役立つだろう。
富士通ラーニングメディア講師・石田佐知子

DIとAOPでシステムのスケーラビリティを高める
Seasar2で学ぶ DIとAOP アスペクト指向によるJava開発
●arton著
●技術評論社 2006年8月
●3360円(税込み) 4-7741-2855-4

 Javaのサーバサイド技術や、Strutsのようなプレゼンテーション層フレームワークを適用したWebアプリケーション開発は、もはやスタンダードであるといえる。本書は、これらの技術をひととおり学習済みだがオブジェクト指向をあまり意識した開発をしていないという人や、Seasar2やSpringなどのフレームワークを適用したいが「なぜ必要なのか? どう適用したらいいのか?」と入り口で悩んでいる人にお薦めしたい。
  業務アプリケーションのように大規模で、変更や機能拡張が予測されるシステムにおいては、「拡張性」「保守性」(以後、スケーラビリティとする)はとても重要な要素になる。「オブジェクト指向」というとスケーラビリティに優れているというイメージがあるが、オブジェクト指向言語で開発したからといって、必ずしもスケーラビリティの高いアプリケーションになるわけではない。スケーラビリティを高めるには、コンポーネント同士の結び付き(依存関係)を低くし、あるコンポーネントへの修正が別のコンポーネントに影響を及ぼさないような設計をすることがポイントになる。また、オブジェクト指向の特徴である「継承」がスケーラビリティを低くしてしまうこともある。そこで注目したいのが、「DI(依存性の注入)」「AOP(アスペクト指向プログラミング)」といった技術である。
  本書はSeasar2の参考書であると同時に、「DI」「AOP」といったスケーラビリティを高めるべくして生まれた技術の必要性を、従来のオブジェクト指向の限界を交えながら解説した本だ。オブジェクト指向を補う技術として、なぜ必要なのか、どういう場面で使用すればいいのかを分かりやすい例とともに紹介している。
  IT系の参考書には、「サンプルを作りながら覚えよう!」というアプローチがよく見られる。とある手法で特定の物の作り方を早急に習得するという意味では、とても合理的な学習方法かもしれない。しかし、本の指示どおりに完成させたけれどよく分からない、自分の業務にどう適用したらいいのか分からないというように、「スケーラビリティ」の低い知識しか得られないことが少なくない。本書では詳細な解説と例示によってスケーラビリティの高い考え方を習得でき、結果としてスケーラビリティの高いシステムを構築する第一歩を踏み出すことができるだろう。(富士通ラーニングメディア講師・渡邉潤

豊富なキーワードを基にデータベースの基礎と実践を
72のキーワードから学ぶ実践データベース
●梅田弘之、堀真人著
●翔泳社 2004年3月
●2394円(税込み) 4-7981-0606-2

 現在、システムはデータベースありきの世界になっている。データベースの知識はアプリケーション開発者、サーバ管理者にとどまらず、システムに携わるさまざまな人の必須要件といえる。新入社員研修においても、基礎となるSQLだけではなく設計などの技術を学ばせたいという声は多い。データベースはシステムパフォーマンスのボトルネックになることも多く、データベース自体の仕組みやパフォーマンスチューニングに関する知識も必須である。
  そんな中、「データベースを学習したいが、何から手を付けていいか分からない」「いまいちデータベースの全体像がつかめていない」と考えている人にお薦めなのが本書である。
  データベースに関する専門用語は非常に多く、1つ1つ調べていくのは大変だ。本書ではSQLからアーキテクチャ、パフォーマンスチューニングや障害復旧まで、データベースの基礎知識として現場で役立つキーワードが網羅されている。単にキーワードの説明を並べているわけではなく、開発から運用までストーリー性を持たせてまとめてあるため、初めから順を追って読んでいくとより理解がしやすいだろう。
  Oracleをベースに説明しているが、SQL Server、DB2 UDBとの比較もされており、製品ごとの定義や仕組みの違いを知ることもできる。また「Why! How! What!」というトピックには、なぜその概念が必要なのかが現場ベースの考え方で分かりやすく書かれており、「なるほど!」と思わせてくれる。著者の経験から書かれたコラムも、実際にデータベースを扱ううえでの注意事項など有益な情報が多い。全体を通してデータベースの仕組みを楽しく理解することができる。
  データベースのシステム構成については、分散コンピューティングという切り口でグリットコンピューティングなどを紹介しており、データベース構築のトピックスを知ることもできる。
  初めてデータベースを利用したシステムを構築する人は、必要な要素技術の習得に入る前に、まずは本書でデータベースの仕組みを習得し、データベースシステム全体の概要をとらえることをお勧めする。その後データベース設計やサーバ構築、アプリケーション開発など必要な技術の習得を行えば、効果的な学習ができる。若手の多いプロジェクトにはぜひ1冊用意してほしい。
富士通ラーニングメディア講師・高橋雅人

「LANスイッチありき」のいま、ネットワークにかかわる人必携のハンドブック
改訂新版 Cisco Catalyst LANスイッチ教科書
●シスコシステムズ株式会社 LANスイッチワーキンググループ著
●インプレス 2004年7月
●4200円+税 4-8443-1973-6

 以前、ネットワーク研修の参加者の大半はネットワークエンジニアだった。現在はアプリケーション開発者、利用部門、総務部門など多種多様な職種の人が参加することが多い。この要因の1つとして、業務アプリケーション、音声、WebトラフィックなどすべてのトラフィックがIPとイーサネットLANへ統合されたことが挙げられるだろう。通信トラフィックは必ずLANスイッチ(スイッチングハブ、レイヤ3スイッチ)を通過する。レスポンスが重要なトラフィックフローを守る、障害に備える、組織の改編や統廃合に柔軟に対応する、セキュリティを確保するなど、LANスイッチへの要求は非常に多様化している。LANスイッチの扱い方次第で社内ネットワークのパフォーマンスは大きく変わるといってよい。LANスイッチありきの現在のネットワークにおいては、職種を問わずLANスイッチに関する知識が必要とされているのだ。
  そんなLANスイッチについて、製品知識からコマンドまでトータルに習得したい人に強くお薦めしたいのが本書だ。スイッチのハードウェアの構成から論理的なアーキテクチャ、定義コマンドから出力まで、総合的に詳説している。シェアの高いCisco Catalyst製品をベースに記載されているため、製品名や型番、追加モジュール、搭載機能、内部構造まで習得でき、すぐに実務に適用することが可能だ。Catalyst特有の機能まで読み解けば、シスコ技術者認定CCNPの必須試験の1つであるBCMSN(Building Converged Cisco Multilayer Switched Networks)の対策資料としても十分使える内容である。
  ネットワークの実践的な書籍は洋書を和訳したものが多く、日本語が難解で挫折しやすいが、本書はシスコシステムズの日本人チームによって書かれているため、ほかの書籍と比較して読みやすさと情報の正確さは抜きんでている。OSI参照モデルやアドレスクラス、2進数変換など基礎的な内容にも章を割いてしっかりと解説しているため、これからネットワークの学習を始める人にも安心して薦められる。ネットワークを機器と実線だけでなく技術イメージで表現しているため、難解な技術もイメージしやすい。製品の画像を多用しているのも特徴の1つだ。
  LAN技術の辞書としての使用も可能である。STP(Spanning-Tree Protocol)、VLAN、イーサチャネル、HSRP(Hot Standby Routing Protocol)、アクセスリスト、IEEE 802.1x認証、CEF(Cisco Express Forwarding)、マルチキャスト、QoS、IPテレフォニーと、一般的にLANの知識として必要とされるおおよそすべての技術が網羅されており、用語集まで付いている。手元にあると安心できる一冊である。私も講義の際には必ず教室に持ち込んでいる。
  まとめると、本書の良さは技術理論、製品知識、コマンド解説、設計理論、構築例、試験対策という多岐にわたる内容を凝縮し、やさしい日本語と多くのイメージ図で記述していることである。シスコシステムズの日本人技術者でなければ、これほど高い水準の技術書を、分かりやすく執筆することは不可能だろう。LANにかかわる多くの人に必携のハンドブックだ。
富士通ラーニングメディア講師・シスコ認定インストラクタ 梅崎悟

Javaにはポインタ「しか」ない! いまひとつ理解できていない人に贈る
Java謎+落とし穴徹底解明
●前橋和弥著
●技術評論社 2001年12月
●2380円+税 4-7741-1361-1

 システム開発の現場で使用される、代表的なプログラミング言語の1つがJavaである。書店に行けば数え切れないほどの入門書があるだろう。だが、ひと通り書籍を読んだけれどもいまひとつ分からなかった、何となく分かったような気になったがあいまいさが残ってしまったということはないだろうか。そんなときに手に取ってもらいたいのが本書である。文中にある「この本の対象読者」を引用してみよう。
  ・すでに一度Javaまたはオブジェクト指向を勉強しようとして挫折した人
  ・他にすでに何らかの言語を知っていて、これからJavaを勉強しようとしている人
  ・すでにJavaを使っているが、いまひとつ理解があいまいな人
このように、いわゆる入門書ではないので注意してほしい。
  Javaを学習するうえでの第一のポイントは「参照」を理解することであり、この理解が不十分だと思いもよらないバグを含むプログラムを作成してしまう恐れがある。「参照」はC言語の「ポインタ」とよく似た概念であるが、厳密に同義ではない。そのため「Javaにはポインタがない」といわれることもあり、この言葉を額面どおりに受け取って「Javaにはポインタという概念がまったくない」と誤解してしまう人がいる。本書では大胆にも「Javaはポインタの言語だ」と主張し、参照の本質はポインタであるということを、C/C++のポインタとJavaの参照の比較も交えて説明している。このように本書の中で随所に出てくる大胆ないい回し、これが本書をお薦めする理由の1つである。
  もう1つお薦めする理由は、本書がJavaの各機能の説明を主に「欠点」の観点から行っていることである。勘違いしやすい点や起こりがちなミスを述べたうえで説明を行っているため、短時間で各項目の本質をしっかりと学習することができる。一例を挙げると、「継承」という機能はスーパークラスの変数やメソッドをサブクラスに受け継ぐことができるため、差分プログラミングが可能になるという特徴がある。このようなメリットを説明することはできても、デメリットを説明できる人は少ないだろう。継承のデメリットや使うべきでないケースを、本書ではケーススタディを用いて解説している。
  Javaを学習しようとしてつまずいてしまった人はもちろん、スムーズに習得できた人も一度手に取ってみるといいかもしれない。Javaを学習したときに「なぜ」と思いながら「決まりごとだから」として覚えたことが多い人ほど、本書を読むことで新たな発見をし、Javaエンジニアとしてひと回り大きく成長できるだろう。
富士通ラーニングメディア講師・高木亮一

システム基盤構築のノウハウが豊富に盛り込まれた1冊はぜひ現場で
アプリケーション開発を成功に導く システム基盤の構築ノウハウ
●谷口俊一、澤井良二、石川辰雄、鈴木広司著
●日経BP社 2005年1月
●3800円+税 4-8222-2972-6

 現在、コンピュータシステムの開発において「システム基盤」の重要性が注目されている。システムに課せられた非機能要件を満たす設計を行ううえで、システム基盤は重要な部分を占める。しかしながら、業務アプリケーションの観点から書かれた書籍(各種プログラミング言語、モデリング手法など)は多くても、システム基盤にフォーカスした書籍はあまり見当たらない。そのような中で本書は、システム基盤に着目し、システム構築の現場に沿った内容が記載されている貴重な書籍である。
  システム構築経験の豊富な著者が執筆しているため、システム基盤とは何かという「入門書」ではなく、各種業務処理の形態に対応したシステム設計のポイントや構築事例が紹介された「実践的なノウハウ本」といえるものになっている。これからシステム基盤に携わる若手SEはもちろんのこと、業務経験豊富なSEにもポイントの整理として役立つだろう。
  私が本書をお勧めする理由の1つは、本書が非常に整理された構成で記載されていることである。単にシステム基盤を広くとらえるのではなく、代表的な業務処理の形態に合わせて解説されているところに、実務への結び付きを意識していることがうかがえる。例えば、内容は「オンライン処理」と「バッチ処理」という一般的な業務処理形態で区分けされており、オンライン処理においてはより具体的に「OLTPシステム」と「Webシステム」に分けて記載されている。さらには「バックアップ・システム」の構築手法やITILを意識した「運用管理」の方向性なども解説され、システム構築のさまざまな場面での特徴が簡潔に紹介されている。
  システム開発会社がノウハウを公開することはほとんどない中で、筆者のシステム基盤構築経験や事例から得たノウハウを随所に盛り込んだ内容であり、システム基盤のポイントを修得するには最適である。設計や構築の現場においてぜひ読んでもらいたい1冊である。(富士通ラーニングメディア講師・吉永賢一

どんどん書き込んで、自分だけのActive Directory参考書を
ひと目でわかるMicrosoft Active Directory
●Yokota Lab, Inc.著
●日経BP出版センター 2005年6月
●2500円+税 4-89100-469-X

 システム管理者向けの講習会で、「Windows Serverにはこんなにもたくさんの機能があるのですね」といわれることがよくある。Windows Serverでは、サーバを簡単に構築できる多彩な機能が提供されている。その中で最も重要な機能がActive Directoryだ。ドメイン管理者であれば、必ずこの機能を習得する必要がある。Active Directoryを用いることで、社内に散在する何百、何千というユーザーやマシン、共有フォルダやプリンタなどをデータベースに登録して集中管理ができるため、管理者の作業を大幅に削減することができる。管理作業は表示される設定画面にデータを入力していくだけであり、非常に簡単だ。
  しかし設定項目がたくさんあるため、すべての内容を詳細に把握するのは大変である。学習法の1つとして、実際に設定をしながらメモや注意事項を控えることが挙げられる。だが、項目数が非常に多いため、メモを取ってもどの設定画面のものであったのか分からなくなってしまう。そのため、私は必要な設定画面をわざわざ印刷してメモや注意事項を書き込んだ。設定画面があらかじめ手元にあれば、こんな作業は必要なかったはずだ。
  本書では、タイトルに“ひと目でわかる”と書かれているように、ほとんどの設定画面が掲載されている。そのため、メモや注意事項をどんどん書き込み、自分だけの参考書を作成することができる。多くの時間を割けない管理者であっても、短時間で非常に効率良くActive Directoryの習得ができるわけだ。
  Active Directoryをまったく知らない人は、第4章の「アカウントとオブジェクトの管理」から読み始めるのがいいだろう。まずはActive Directoryで何ができるのかを知ってほしい。次のステップでは、Active Directoryの構築・設計などができるようになってもらいたい。そのためには、第1章〜第3章で説明されている専門用語や構成方法などをしっかり理解する必要がある。設定画面と併せて操作方法も掲載されているため、実際に管理作業をしたことのない人でも理解がしやすい。また、身近な例や図などを用いて大変分かりやすく解説されているため、スムーズに読み進めることができるだろう。
  Active Directoryの構築・設計から運用・管理までの経験があり、基本をある程度理解している人であれば、本書をリファレンスとして活用するのもいいだろう。索引が設けられているため、利用したい機能だけを探し、設定方法などを把握することができる。
  書店にはWindows Serverに関する分厚い参考書がたくさん並んでいる。本書は薄いが必要な機能を厳選しているため、多岐にわたる機能を体系的に効率良く習得することが可能なのである。
富士通ラーニングメディア講師・森本三紀子

学習者の疑問を代弁する「ツアー客」とともにプログラミングの世界へ
プログラミングワンダーランドへ、いらっしゃい(2)JSP&サーブレット編
●山田祥寛著
●翔泳社 2004年6月
●2600円+税 4-7981-0491-4

 Java技術を使用してWebアプリケーションを開発したい、より本格的にデータベースとも連携させてみたい……。ひと通りJavaの知識を身に付けたITエンジニアであれば、誰しもそう考えることであろう。しかし一体どこから手を付ければよいのだろうか? Javaの文法以外に、データベースやインターネット技術など周辺知識について知っておく必要もあるし、環境を構築するのも大変そう……と、不安は尽きないのではないだろうか。
  本書は単なるJava言語の解説にとどまらず、環境構築手順から自分で作ったアプリケーションの公開方法までカバーしており、まさに「初めて学ぶ人」が求める内容を網羅しているといえる。特に環境構築については各種アプリケーションやタグライブラリのインストールおよび設定方法が丁寧に解説されており、一から始めようとする人に大変役立つ内容となっている。データベースなどの周辺知識についても分かりやすく図解しているため、前提知識が少なくても問題なく学習を進められる。
  さらにユニークなのは説明の手法である。JSPやサーブレットを学んでいこうとするツアー客とサーバサイドJavaの世界を案内するツアーガイドが登場し、彼らの会話によって説明が進んでいくストーリー仕立てになっている。一方的に淡々と説明するのではなく、ツアー客の疑問にガイドが懇切丁寧に答える形式をベースにしているのだ。
  このツアー客こそが、本書の読者であるITエンジニア自身だ。読者の「そうそう、そこが気になる!」という疑問を代弁してくれる。講習会を実施していると「学習者が疑問を感じるポイントはだいたい決まっている」と感じることが多いが、そのポイントをしっかり押さえて質問する「学習者代表」なのである。例えばサーブレットとJSPの連携については、ツアー客が「なぜJSPだけではダメなのか?」といった素朴な疑問を挙げ、「JSPだけで開発すると、こんなデメリットがある」というサンプルを見せられることで「なるほど」と納得する。「なぜ?」に対する回答として説明が展開されていくことで、原理をしっかりと理解できるのだ。
  入門書という位置付けだが内容は多岐にわたり、頻出エラーの例や役立つコラムもあって、「かゆい所に手が届く」1冊である。最終章を迎えるころツアー客が大幅な成長を遂げているように、きっと本書を読み終えたITエンジニアも、知見を広げスキルアップできていることだろう。(富士通ラーニングメディア講師・宇野あゆ美

仮想PC上で手を動かしてスキルアップ
Virtual PC 2004活用ガイド――for Windows
●藤本壱著
●技術評論社 2005年2月
●2180円+税 4-7741-2270-X

 ITエンジニアがスキルアップをするには、何が必要か。さまざまな意見があると思うが、「手を動かすこと」も必要なことではなかろうか。本書では、Virtual PCを通して「手を動かす」ための各種環境の構築法を紹介している。Virtual PCとはPC/AT互換機の環境をソフトウェアで作り出す製品である。例えばWindows XPを使用しながら同じPCで同時にLinuxを起動することもできる。
  読みながらVirtual PCをインストールして仮想PCを触ってみるもよし、複数の仮想PCを同時に立ち上げてネットワークを構築してみるもよし。初めてVirtual PCを使う人もすぐ使いこなせるように、機能ごとに必要最低限の画面写真が用意されている。Virtual PCの仕組みや便利なコマンド使用方法なども掲載され、初心者のみならず経験者にも配慮された構成となっている。
  本書は、使い方や操作方法が載っているだけの単なるマニュアルではない。著者は「仮想PCだからこそできる環境がある」と説き、その実践方法を丁寧に分かりやすく紹介している。
  仮想PCでネットワークを構築し、ソフトウェアのデバッグを1台のPCで行うための環境構築方法や、仮想PCを再起動すると初期状態に戻す方法など、ファイルとして仮想PCが保存されるという特徴を生かした使い方の紹介がされている。顧客の環境に合わせてシステム開発や運用を行うITエンジニアにとって、大いに参考になるのではないだろうか。
  本書は7章で構成されている。前半はインストールと基本的な使い方の紹介だ。Virtual PCの体験版などの紹介もあり、インターネットからダウンロードすれば即座に使うことも可能になっている。後半は拡張機能や応用的な使い方の紹介となっており、経験者にはリファレンス的に使えるだろう。
  OSそのものをインストールしたことがないという人や、いろいろ試してみたいが、その都度パソコンを用意できなくて困っている人、多数のPCを高性能なPC1台に統合したい人や、さまざまなテスト環境を安価に用意したい人にもお勧めの内容だ。
富士通ラーニングメディア講師・竹内卓也

UMLを用いて「ビジネスモデルの企画・設計」からその実現までを解説
ビジネスモデル設計のためのUML活用――企業改革とシステム構築へのアプローチ
●森雅俊、宗平順己、左川聡著
●毎日コミュニケーションズ 2006年3月
●1980円+税 4-8399-2017-6

 企業を取り巻く経済環境がさまざまに変化していく中で、その変化に柔軟に対応するには、企業の抜本的改革や新規事業の立ち上げが必要となる。その際にベースとなる作業が、ビジネスモデルの再構築である。ただし、改革や新規事業立ち上げの現場で頭を悩ますのは、プロジェクトに参加しているメンバー間で「ビジネスモデルをどう共通理解するか」「そのビジネスモデルを情報システムとしてどう構築し実現するのか」といったこと。例えば企画部門では、ビジネスモデルをイラストで表現するが、情報システム部門ではコンピュータ言語で記述するといったギャップがあっては、お互いのコンセンサスを図るのは難しい。つまりは、分かりやすい設計図が必要となるのである。
  そこで、その設計図を記述するための共通モデリング言語であるUMLを用いて「ビジネスモデルの企画・設計」から、そのビジネスモデルを実現するための「情報システムの構築方法」までを、理論編・実践編・技術編に分けて解説してくれているのが本書である。システム開発の最上流に位置するビジネスモデリングについて、その表記方法を理論的に示して「可視化」できるようにし、そこで表記されたモデルをいかに情報システムへと連携させていくかまでを実践的に解説。ビジネスモデルの構築から情報システムへのシームレスな連携には何が必要なのか。現場での悩みに解決策を示してくれる「指南書」といえる。(ライター・下玉利尚明)

3つの壁をクリアしてLinux/UNIXのサーバ管理者になる
新Linux/UNIX入門
●林晴比古著
●ソフトバンククリエイティブ 2004年7月
●3400円+税 4-8171-6164-7

 Linuxはソースコードが公開されており、誰でも閲覧することができるため、システムの土台といえるOSの動きを知るには格好の教材である。Linuxはこのほかにもコストメリットがあることなどで注目を集めているが、サーバを管理できる技術者が不足していると感じている企業も少なくない。使い慣れたWindowsと比べ、コマンド操作が中心のLinux/UNIXは「分かりにくい」「難しい」という印象があるかもしれない。しかし、正しい手順で学習すればサーバ管理者になることもそれほど難しくない。
  Linux/UNIXのサーバ管理者になるまでには3つの壁がある。1つ目は「コマンド操作に慣れる」こと、2つ目は「OSの仕組みを知る」こと、3つ目は「効率の良い管理を行う」ことである。
  Linux/UNIXの操作コマンドは種類が多く、動作もさまざまだ。本書ではコマンドの動作の説明だけでなく、細かな実行結果も掲載しているので、視覚的に理解しやすい。コマンドの名前は英単語を短縮したものが多く、Linux/UNIXの講習会を行っていると「種類が多いうえに、名前が覚えにくい!」という意見をよく聞く。本書では多くのコマンドが英単語でも紹介されているので、動作をイメージしやすい。例えば「cp」が何だか分からなくても、「CoPy」といわれれば複写するコマンドであることが想像できるだろう。
  2つ目のOSの仕組みについては、例えばOSが起動するまでにどのような工程を経ているのかを理解しておかないと、OSが起動しないといったトラブルが起こった際に対策ができない。本書では解説に図が多用されており、動きをイメージしやすいため、コマンドで検証しにくいOSの内部の動きを効率良く理解することができる。
  コマンドが使え、OSの仕組みを理解していれば、Linux/UNIXを管理することができる。しかし、さらに管理効率を向上させるにはシェルスクリプトというプログラムの理解が必要だ。シェルスクリプトを使えるようになることで、作業負荷を大幅に軽減できる。これが3つ目の壁である。プログラムというと難しく感じるかもしれないが、基本的には実行するコマンドをファイルに書いておくだけだ。本書では書き方の基本から応用までを、図や表などを活用して非常に分かりやすく解説している。
  3つの壁をクリアするには、実際にLinux/UNIXを触ってみるのが一番である。まずは本書前半で基本コマンドとOSの仕組みを理解してほしい。次に後半のシェルスクリプトの部分を読み、管理作業の効率化が図れるようになれば、一人前のLinux/UNIXのサーバ管理者になれる。本書の「NOTE」部分には役に立つ雑学的な内容も書かれており、読者を飽きさせない工夫もお勧めするポイントである。(富士通ラーニングメディア講師・吉田悦康

組み込みソフトのエンジニアを目指す人は読んでほしい
組込みソフトエンジニアを極める
●酒井由夫著
●日経BP社 2006年4月
●2800円+税 4-8222-8272-4

 デジタル家電やゲーム機器、車載機器から航空宇宙機器まで、さまざまな機器に搭載されているのが組み込みソフト。機能はどんどん高度化し、制御方式も複雑化しているにもかかわらず「開発期間はますます短くなっている」。厳しい世界だからなのか「エンジニア不足」がささやかれているという。ただし裏を返せば、やる気とスキルと知識があれば自分で可能性を切り開き大活躍できる世界でもあるということ。
  本書は、現在、第一線で活躍中の組み込みソフトエンジニアはもちろん、これから組み込みソフトの世界に進みたいと考えている人や組み込みソフトを経験したことがないエンジニアを対象に、「いま、組み込みソフト開発現場で起きている問題」と「その解決策」を分かりやすく解説してくれるもの。組み込みソフトエンジニアが「乗り越えるべき障壁」を、「時間分割のハードル」「機能分割のハードル」「再利用の壁」「品質の壁」の4つの視点でとらえ、著者の豊富な現場経験を基にその解決策が提示されている。具体的には「リアルタイム技術」と「設計分析技術」をどうやって身に付けるか、組み込みソフト開発プロジェクトにおいて「体系的な再利用」をどう実践すべきか、「品質向上技術」をいかにして獲得するかなど、現場でも役立つ内容となっている。本書が書かれた背景や本書に登場する人物の日記などを紹介するWebサイト「組込みソフトエンジニアを極める 外伝」、著者の組み込みソフト開発に対する考えを記したブログ「組込みソフトウェア工房」と併せて読めば、組み込みソフト開発におけるより深い知見に触れることができる。(ライター・下玉利尚明)

3年後のデータベース技術を予測するために
データベース――シリーズ・経営情報システム
●魚田勝臣、小碇暉雄著
●日科技連出版社 1993年7月
●3400円+税 4-8171-6164-7

 データベースを学習する若手ITエンジニアは、すべての機能を学習することでデータベース製品を理解しようとしているように見受けられる。これでは、機能が多くなればそれだけ理解するのに時間がかかることになる。データベース製品を理解するためには、データベースの本質を理解した方が効率がよい。すべての機能を検証しなくても、仮説を立ててある程度の機能は推測できるようになるからである。
  本書は、原稿段階で著者以外の専門家が批判的に読み、内容の正確性および客観性を高めるよう執筆されていることが特徴である。初版から10年以上たったいま読み直しても、内容が色あせていない。変わらないデータベースの本質を学ぶことができる教科書である。少し硬い表現で書かれているが、SQLを知っている人であれば無理なく読破できると思われる。
  前半にはデータベースの基礎概念、情報システムとの関係、データモデルおよびデータベース言語、後半にはデータ辞書、設計法、分散データベースシステムおよび先進データベース技術が解説されている。特に前半は、データベースが出現した背景および当時の技術動向を踏まえて解説されている。このようなデータベースの歴史を理解することは、後回しにされがちである。しかし、先に歴史を学ぶことにより、大量のデータを整理して管理するというデータベースの本質を理解できるのだ。
  歴史をひもとく利点はほかにもある。昨今のITエンジニアは、3年後に必要となる技術を予測し、それを見据えていま何をすべきかを考えなければならない。技術は人間の要求から生まれてくるものである。人間の要求がどのように変化してきたのかを学ぶことによって今後の方向性を理解し、3年後に主流となる技術を予測する際の精度を高めることができる。
  データベースは、大量のデータを共有する技術として、現在のコンピュータ社会に必要不可欠なものである。これから本格的に学習する人には、これまでの流れを理解し、今後データベースがどのように変わっていくのかを考えながらスキル向上を図ってほしい。リレーショナルデータベースがデータベースの主流となった背景、先人たちが人間の要求を満たすためにどのようにデータベース技術を進歩させていったのか。ほかの書籍ではあまり語られていないこれらの部分を理解するためだけでも、本書を購入する価値がある。
富士通ラーニングメディア講師・天藤博之

単なる記号の固まりが意味ある情報に見えてくる
マスタリングTCP/IP 入門編
●竹下隆史・村山公保・荒井透・苅田幸雄共著
●オーム社 2002年2月
●2200円+税 4-274-06453-0

 ネットワークの講習会を実施していると、受講生から「ネットワークは難しいから嫌いだ、苦手だ」という意見をよく聞く。ネットワークでやりとりされているデータや仕組みは実際に見ることができず、イメージしづらいからという意見が大半だ。最近はEtherealに代表されるフリーソフトウェアが登場し、ネットワーク内を流れるデータの収集および解析表示が気軽に行えるため、以前に比べて容易にデータを見られるようになったといえる。しかし仕組みを知らなければ、データは単なる記号の固まりにすぎない。
 本書ではTCP/IPの解説に先立ち、ネットワークの基本的かつ重要な事項をしっかりと解説している。ネットワークの重要な概念「OSI参照モデル」は、ネットワークを勉強しようと果敢に挑戦するITエンジニアの前に立ちはだかる最初の大きな壁であるが、本書では日常会話や電子メールなどの身近な例を交えて分かりやすく解説している。初心者でも無理なくネットワークの世界へ飛び込んでいけるような工夫が見られる。
 数多くのプロトコルから構成されているTCP/IPは、階層別に整理して理解することが重要になってくる。階層ごとにプロトコルの特徴や役割の解説をしているのは一般的な入門書にも見られる点だが、特に本書は、図が豊富で細かい点まで記載され、明確で分かりやすいことが特徴として挙げられる。代表的なプロトコルについてはパケットのフォーマットが紹介されているため、実際にネットワーク内を流れているデータをイメージしやすく、一般の入門書より一歩踏み込んだ内容となっている。
 初版が刊行されたのはいまから12年前の1994年である。その後ネットワークは大きく変ぼうを遂げたにもかかわらず、本書は長年読み続けられている。これは基礎部分をしっかり解説しているため、2度の改訂を経てなお参考になる内容が含まれているからだろう。これからネットワークを本格的にマスターしようと考えるITエンジニアには、苦手意識を持たずにTCP/IPの基礎を体系的に整理するためにも、最初に読んでほしい1冊である。単なる記号の固まりが意味のある情報として見えるようになり、ネットワークの仕組みをつかむきっかけとなるだろう。(富士通ラーニングメディア講師・松尾圭浩


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