「転職には興味があるが、自分のスキルの生かし方が分からない」「自分にはどんなキャリアチェンジの可能性があるのだろうか?」――読者の悩みに応えるべく、さまざまな業種・職種への転職を成功させたITエンジニアたちにインタビューを行った。あなた自身のキャリアプラニングに、ぜひ役立ててほしい。 |
第6回 経営視点を持って開発していきたい――SIerからGREEへ転職
今回のテーマ:SIerからモバイル業界への転職 | ||
●転職者プロフィール グリー株式会社 メディア開発部リーダー 山家匠さん(35歳/転職2年目) 【仕事内容】 証券会社向けの基幹系システム開発 → モバイル向けSNSにおける大規模Webアプリケーションの設計・開発 【開発言語】 C、C++、Java → PHP |
Web業界の中でも、ここ数年、特に目覚ましい成長を遂げているモバイル業界。転職市場においても積極的な採用活動を行う企業が増加中だ。しかし、システム業界出身者など、モバイルサービスの開発経験がないITエンジニアの中には、自分の経験をどう生かせるのか、疑問に感じている人もいるだろう。
今回紹介する山家(やんべ)匠さん(35歳)は現在、国内最大級のモバイルSNS「GREE」を開発・運営している『グリー株式会社』で活躍するITエンジニア。証券会社向けシステムに特化したシステムインテグレータ(SIer)に10年間勤務した後、より幅広い経験を積みたいという思いを抱き、同社への転職を成功させた。同じITエンジニアとはいえ、仕事の内容が大きく異なると思われる「SIerからモバイル業界への転職」を決意した理由と、現在の業務について話を聞いた。
証券会社向けシステム開発のSIerではマネジメント業務も担当 より幅広い経験を積みたいと感じるように |
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証券会社向けシステム開発のSIerに入社した山家さんは、証券会社向けの基幹系システム構築に10年間従事。最初の5年間はSEとして要件定義からテストまで一通りのフェイズを経験し、残りの5年間はアーキテクトという立場で、システムの構成やフレームワークの構築に取り組んだ。証券会社のシステムというミッション・クリティカルな案件に携わり、かつその方針を決定する立場にいることにやりがいを感じていた。だが、入社7年目から管理職のポジションを任されたことで、自身の目指す方向性と実際の仕事内容にずれが生じ始めたという。
「最大で30人程度のチームを率いることになったので、実際の設計・開発というよりも、現場の進ちょく管理や部下の労務管理、人事評価といった仕事に時間を割かれるようになりました。もちろんそれが必要な仕事だと分かっていましたが、少し管理業務側に偏り過ぎているという感覚がありました」
山家さんは当時、システム開発の全フェイズを手掛けた上で、自分の得意分野を持ち、さらに人材育成スキルや経営的な視点なども身に付ける必要があると考えていた。
「管理業務に追われている状況では、そんな自分の理想を実現できないと思いました。そこで、転職することを決めたのです。もっといろいろな経験を積める環境で、幅広いスキルを身に付けたいと思いました」
転職を決意した山家さんが、新たな職場に求めたことは、次の3つだった。
・ 高い技術レベルを持った会社であること
・ 組織としてまだ発展途上の会社であること
・ 社員の平均年齢が自分の年齢より下であること
「まだ組織としてできあがっていない会社であれば、会社を作り上げる段階から携われるので、幅広い経験が積めると思いました。また、自分とは考え方の違う年下の人が多い組織は、学ぶことが多いように感じました。そんな環境で働けるなら、年収が多少下がっても構わない、と思っていました」
モバイル業界へのキャリアチェンジを決意 独特のスピード感とスケールの大きさに触れる |
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エージェント会社に登録し、転職活動をスタートさせた山家さん。6社ほど紹介され、その中から自分の基準を満たす企業を3社にまで絞った。最終的にグリーを転職先に選んだ決め手について、山家さんはこう語る。
SIerとモバイル業界の「スピード感の違い」を強調する山家さん |
「もともとグリーの社員が書いていた記事を読んだことがあり、大規模なサイトを運営していることや、技術レベルの高さは知っていました。また、PCよりモバイルの方が伸びているという意識があったので、どうせなら伸びている分野に携わりたいと考えました。何よりも、その会社で1年後に自分が何をやっているのか、会社がどのように成長しているのかが想像つかなかったことが大きかったですね。想像できてしまうと、面白くないですから(笑)」
10年間経験を積んだSIerから、まったく違う畑であるモバイル業界へとキャリアチェンジすることに、不安はなかったのだろうか。
「不安はありませんでした。むしろ、自分が新しい環境に身を置いて、どのくらいやれるんだろうかと、楽しみにしていました。また、SIer時代は基幹系システムということもあって、長く使われている一定のテクノロジしか使えないという制約がありました。グリーではオープンソースのテクノロジを使いたいなあ、とわくわくしていました」
1カ月という短期間でスムーズに転職活動を終え、山家さんは2008年12月にグリーに入社。メディア開発部にて、PC版GREEリニューアルなど、大規模Webアプリケーションの設計・開発を、チームリーダーとして担当することになった。
「転職してまず驚いたのが、アプリケーションを作ってからリリースまでの期間が圧倒的に短いということ。以前は何日もかけていたことが、グリーでは何時間という単位で進みます。そのスピード感に最初は少し戸惑いましたし、システム規模にも驚きました。以前も大規模な基幹系システムを手掛けていましたが、グリーのシステムはそれとは比較にならないほどの規模でしたからね。従来のやり方ではうまく動かないということもありました」
課題にぶつかる度に、周りのメンバーに相談したり、Web上の情報を丹念に収集して、判断力を磨いていった山家さん。新しい環境になじむ努力をする一方で、SIer出身だからこそ発揮できる自分自身の強みにも気付いたという。
新たな開発環境の変化に対応する一方で SIer出身者としての強みを生かせることに気付く |
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「SIerにいたときは、企業顧客がいて、きっちりしたプロセスで手堅くシステムを作っていくことが求められました。一方グリーでは、まずユーザーの反応を見るために、小ロットでのリリースやスピード感が大切になってきます。とはいえ、約1800万人の会員を抱える規模になった以上、SIerほど手堅くはなくとも、ある程度、手順を踏んできっちり作っていくことが必要になってきます。そういった『手堅さ』については、SIerでの経験が生かせていると思います」
さらに山家さんはこう続ける。
「モバイル業界に転職して仕事の仕方は変わっても、アプリケーションを作る上で大切なことはSIer時代と変わりません。ただ、SIerでの開発プロセスをそのまま持ってきても、スピードの面で追い付かないので、部分的にショートカットしながら、自分なりにうまく順応させていくのがいいと思います」
畑違いに思えるSIerとモバイル系企業。だが、ユーザーにメリットを提供するという点で、ものづくりの根底は共通している。自分ならではの強みを意識して仕事に取り組み、状況に応じて新しい環境に合わせていけばいい、と山家さんは考えている。
「いろいろな経験を積みたいという当初の思いは十分、満たされています。アプリケーション開発の実務にも携われますし、経営的な数字を見る会議にも参加できて、仕事の『上下の幅』が広がりました。また、前職ではトップダウンで物事を進めることが多かったのですが、ここではみな自発的かつ協力的に仕事を進めるので、フラットで働きやすい環境だなと感じます。エンジニアのスキルの高さに驚くことも多いですね」
モバイルならではの仕事の面白さとしては、エンドユーザーの反応がダイレクトで、しかもその量が圧倒的に多いところにあると語る山家さん。電車内でGREEを使っている人を見かけると、うれしくなるそうだ。
SIerの経験を生かす醍醐味と、モバイル業界ならではのやりがい――。その両方を手にした山家さんに、今後の目標について聞いた。
「前職で中国に出張したとき、現地のエンジニアが野心的で一緒に働いていて面白かったんですよね。だから、将来的には中国のように、いま伸びている国を相手にグローバルな仕事をしてみたいと思っています」
●グリー株式会社の人事に聞いた、山家さんの評価ポイント まず、SEとして要件定義からテストまで一通りのフェイズを担当し、ミッション・クリティカルな大規模システムを構築してきた経験を評価しました。特に、SIerでの業務で得た、きっちりしたプロセスで手堅くシステムを作るスキルを、GREEのシステムをより堅牢に作ることに生かしてほしいと考えました。 大規模Webサービスの開発経験はありませんでしたが、基礎的な技術をしっかり習得していたため、短期間で習得可能であろうと判断しました。また、仕事に対しての考え方が前向きで、変化の激しいモバイル業界においても、状況に応じて適応できると感じました。 落ち着いた人柄ですが、10年間のSIerでの経験に裏打ちされた発言には説得力があり、この人であれば安心してミッション・クリティカルなシステムを任せられると高く評価しました。 |
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提供:マイナビ転職
企画:アイティメディア営業企画
制作:@IT自分戦略研究所 編集部
掲載内容有効期限:2010年8月31日