IT/ネットワーク技術の発展に伴い、エンジニアはどのように変化していくのか。今回は、NGN(次世代ネットワーク)の開発に従事するネットワークエンジニアを例に、「次世代に必要とされるエンジニアの姿」を追う。 |
今日のネットワーク社会の礎を築いたNEC
ここ20年、日々ネットワークは進化している。例えば、昔は電話というと「音声で通話するもの」でしかなかったが、FAX送受信が可能になり、データをパケットに変換してコンピュータ同士の通信ができるようになり、そしてインターネットが誕生した。一方、固定電話以外にも携帯電話が登場し、その普及率やスピードは、固定電話を圧迫するほどの勢いを見せた。
そんなネットワークの進化を支えてきたのがNECだ。特に携帯電話ネットワークにおいては、同社の貢献がなければ、今日の携帯電話の普及はなかったといえる。なぜなら、同社は第1世代と呼ばれるアナログ方式の時代からモバイル通信技術の開発に積極的に取り組み、基地局(インフラ)から端末に至るモバイル通信ソリューションを総括して提供し続けているからだ。
その成果は海外でも評価され、第3世代/第3.5世代(3.5G)の通信技術であるW-CDMAやHSDPAなど最新技術システムを欧州・アジアに広く供給している。また携帯電話ネットワークだけでなく、高速無線LANシステムも積極的に推進。衛星通信システム、地上マイクロ波通信システムなどを世界160カ国に提供してきた。
最近では、BRICsといわれる新興国を中心に、携帯電話網の拡張や“ラスト・ワンマイル”を迅速に解消するため、有線回線不要の小型マイクロ波通信システム「パソリンク」の需要が増え、そのシェアは、ナンバーワンのエリクソンに迫る勢いだ(写真1)。
NECの小型マイクロ波通信システム「パソリンク」は、海外の新興国のネットワーク敷設に大きく貢献している |
ちなみに同社がパソリンク事業に乗り出したのは1986年のこと。二十余年の間に洗練させてきた技術力により、現在さまざまなラインアップがそろい、主としてインフラ需要が拡大している新興国のネットワーク敷設に大きく貢献しているという。
NGNの登場により、技術の水平・垂直統合が発生
こうした中、次世代ネットワークとしてビジネス的にも注目されているのが「NGN」(Next Generation Network」だろう。NGNとは、固有の技術名ではなく、IP網をベースに、あらゆるサービス・アプリケーションを融合し、さらに国際間のネットワーク相互接続を可能にする新しいネットワークのことで、現在ITU-T(国際電気通信連合の電気通信標準化部門)で標準化が進められている。
NGNにより、技術開発やネットワーク製品はどのように変わるのだろう。無線ネットワークの中で、特に注目されているのがWiMAXだ。WiMAXは、情報家電への搭載も検討されているなど、適用範囲も広いうえ、現在の無線LANよりカバレッジが広く、デジタルデバイドを解消する技術として注目されている。同時に、NGNにおける主要なアクセス方式の1つとして検討されており、国や企業を超えた相互技術の検証や開発など、この分野におけるネットワークエンジニアは今後ますます求められると予想される(写真2)。
スペインのバルセロナで開催された「3GSM World Congress 2007」で展示されたNECのWiMAXのシステム |
一方、拡大するデータ容量へのニーズには、いかに対応するのか。これに対し、NECは「波長分割多重」(WDM:Wavelength Division Multiplexing)という技術で応えている。WDMとは、光の波長を変えることで、光ファイバの通信容量を数倍〜百数十倍に拡大する技術のこと。またネットワークトラフィックの追加や取得を柔軟にするADM(Add/Drop Multiplexer)の開発にも定評があり、これによりキャリア各社は、サービスの拡充やリリースが迅速に行えるようになった。
今後NGNが発展することで、そうしたネットワーク網がより高度化し、大量データによるサービスが普及していくと予想されるが、そうしたネットワークインフラを支えるのが、WDM/ADM技術だ。
以上の例から見ると、NGNにより「適用範囲の拡大」「相互接続や標準化への対応」「サービス化を踏まえた技術開発/提案」というように、ネットワークエンジニアが扱う技術範囲が広くなっていることが分かる。
多様化する技術動向を追うスキルが必要に
NEC モバイルワイヤレスネットワーク事業部 主任 鈴木健弘氏。 「開発を続け、広く技術知識を身に付けてから、キャリアアップを図りたいと考えています」 |
NECでWiMAXの開発に従事するモバイルワイヤレスネットワーク事業部 主任 鈴木健弘氏は、「NGNの登場により、これまで固定電話網や3Gに代表されるモバイル網などと分かれていたアクセス方式が、NGNトランスポートとして水平統合されるようになります。その上にサービス・アプリケーション層も加わることになり、技術的にはタテ・ヨコ2軸に広がりを持つようになります。これまでネットワークエンジニアは、専門分野の技術開発に注力するという傾向がありましたが、これからはタテ・ヨコ両方の技術動向を踏まえなければなりません。そういう意味で、NGNの発展のためには、これまでと異なる“次世代ネットワークエンジニア”の存在が重要だと考えます」と語る。
また、WDM技術の研究開発に従事する光ネットワーク事業部 主任 縣島英生氏も、「かつて1対1だったネットワーク網が、n対nのメッシュ型になるにつれ、WDM装置も単に大量データ送信を確保するだけでなく、ルータのように、全体的なネットワーク管理機能が求められるようになるでしょう。そうしたアプリケーション機能まで考え、幅広い技術情報を仕入れにいく探究心を持てるかどうか。また、大規模なバックボーンを支える装置となると、1社1事業部だけではおさまらず、関連会社や他部門のエンジニアを交えてのプロジェクトとなります。なので、基本となる技術力があって、かつコミュニケーションスキルが高いかどうかも鍵になると思います」という。
「次世代の規格を作っていく」喜びがある
鈴木氏はさらに、「これからのネットワークエンジニアは、技術知識のほかに、企画力も必要になると考えています」という。鈴木氏自身、現在WiMAX技術の開発に注力しているとはいえ、「やはりネットワークレイヤーのスペックだけを追求するのではなく、将来的にサービス・アプリケーションを搭載したときのことを踏まえて開発プランを立てていかなければ」と考えているそうだ。
「NECの場合、ネットワーク系とIT系という2つの柱があるので、NGNの実現に当たり、社内のコラボレーションによる優位性があります。ただ、そうした総合力を発揮できるのは、幅広い技術動向をウォッチしながら、『これはどうだ』と提案できるネットワークエンジニアが必要です。求められるスキルや資質は広がっているので大変かもしれませんが、その代わり、やりがいも大きく、多様なものになるのではないでしょうか」(鈴木氏)。
例えば、試行錯誤しながら作った装置を国際シンポジウムに出し、相互接続に成功したときの喜び。また国際標準を意識しながらも、「自分たちの力で、最先端のものを企画していこう」と追求するやりがい。「まだ規格や仕様ががっちり定められているのではなく、発展形の技術であるからこそ、得られる喜びややりがいがあると思っています」と鈴木氏は語る。
NEC 光ネットワーク事業部 主任 縣島英生氏。「技術的には、まだまだやらなければならないことがたくさんあるので、技術知識の精進に努めます」 |
縣島氏も「NGNの登場により、ネットワーク網の形態がどんどん変化していくでしょう。そこでまた新たな課題が浮き上がり、『これで終了』ということはなく、まだまだ開発したい分野・すべき分野はあります。そうした広がり自体がまず面白いですし、展示会では『他社はどうやっているんだろう』と刺激されることもあります」と述べる。
技術や仕事内容に無限の広がりがあるからこそ、これまでなかったような「やりがい」や「楽しさ」が、ネットワークエンジニアを待っている。また、だからこそ、自分の専門分野や技術の範疇(はんちゅう)を超えた技術への好奇心や探究心、ほかのエンジニアとのコミュニケーション能力が求められるようになる。そして「次世代ネットワークを構築していく」という喜びを達成できることが、これからのネットワークエンジニアしか味わえない“だいご味”なのだろう。
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NEC supported by マイナビ転職
企画:アイティメディア営業本部
制作:@IT自分戦略研究所編集部
掲載内容有効期限:2007年12月25日
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