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第12回 「判断力」「マーケティング力」が信頼される社内SEの条件

「システムの企画から開発、運用まで一貫してかかわれる」「発注側として仕事をしたい」などの理由で、人気の高い社内SE。具体的にどんな仕事をしているのか。そして一般のITエンジニアと比べ、どんな経験やスキルが必要とされるのか。実際に社内SEとして活躍するITエンジニア、そしてキャリアコンサルタントへのインタビューから、社内SEの魅力とやりがい、必要なスキルを探った。

  人気の高い社内SE、募集に大きな増減なく採用は狭き門

 企業の情報システム部門などに所属し、社内システムにかかわるスペシャリストとして活躍する、いわゆる社内SE。ITエンジニアに人気の高い職種の1つだが、実際の募集件数は限られており、転職の難易度は高めだといわれている。

 ここ数年で、社内SEの転職事情に変化はあるのだろうか。マイコミエージェント キャリアコンサルタントは、「社内SEの募集状況は、数年間で大きく変わっていません」と話す。全体的な件数は多くはないものの極端な増減もなく、堅実に募集があるということだ。社内SEの募集は、それ以外のITエンジニアと比べ、景気の影響を受けにくいからだ。

 「ITエンジニアの募集数は、景気の変動に左右される傾向があります。企業のシステム投資の状況によって、必要人員が増減するからです。しかし社内SEでは、募集の目的は主に欠員補充です。従って景気の影響を受けにくいのです」(マイコミエージェント キャリアコンサルタント)

 社内SEへの転職は狭き門だ。理由は2つある。1つは募集件数が限られていること、もう1つは一般の転職サイトなどからは案件が見つけにくいことだ。特に大企業では、新システムへの取り組みを競合企業に知られないようにするため、転職サイト以外に、転職エージェントを利用して非公開で採用活動を行うケースが多いという。「社内SEへの転職を目指すのであれば、転職エージェントの活用が近道になるはずです」とマイコミエージェント キャリアコンサルタントはアドバイスする。

 とはいえ、社内SEへのニーズが高まる要素も存在する。「社内システム拡大に伴って社内の開発体制を強化し、企画担当、インフラ担当、アプリケーション担当など専門性の高い社内SEを求める企業が出てきています。また、景気低迷の影響で、金融関連企業の合併が進めば、社内システムの統合や再構築が必要となり、多くの社内SEが必要とされる可能性があります」(マイコミエージェント キャリアコンサルタント)という。

 ITエンジニアの社内SE転職人気は常に衰えることなく、その競争率は非常に高い。マイコミエージェント キャリアコンサルタントは、社内SEが人気を集める理由として、「システム構築の『受注側』から、社内SEという『発注側』になって仕事をしてみたいという気持ちが強い」ことを挙げる。

 また、1つのシステムを最初から最後まで手掛けられる点に魅力を感じるITエンジニアも多いという。「受託開発を行うITエンジニアはさまざまな顧客のシステムを担当するため、システム構築の途中から参加したり、別の案件に移ったりするケースがあります。これに対して、社内SEはシステムの企画から開発、構築、そして運用に至るまで、全工程を一貫して担当することができます」(マイコミエージェント キャリアコンサルタント)

 さらにもう1つ、勤務地が固定されるのも社内SEの大きなメリット。受託開発を行うITエンジニアは、中〜大規模のプロジェクトともなれば、顧客企業に常駐することが多い。例えば九州の企業を担当することになったら、現地への長期出張は避けがたい。できれば勤務地を変えずに働きたいと考えるITエンジニアは多い。

  すべては自社システムのために。多岐にわたる業務内容

ソフトバンク クリエイティブ 管理本部
経営企画部 情報システム課
課長 宇草亮氏

 多くのITエンジニアから人気を集める社内SEだが、実際にはどんな役割を担っているのか。ほかのITエンジニアとどこが違うのか。社内SEとして活躍するソフトバンク クリエイティブ 管理本部 経営企画部 情報システム課 課長 宇草亮氏は、社内SEを「企業内のITシステムにかかわることをすべて担当する、ITのスペシャリスト」とし、「社内システムの企画、開発から保守、運用はもちろん、各事業部の技術者や利用部門へのコンサルティングやアドバイスも重要な役割です」と説明する。

 ここ数年では内部統制に関する取り組みが増えており、個別のシステムだけでなく全社的な効率化を考えた取り組みが求められているという。宇草氏は「部門を横断してシステム全体を把握できているのは社内SEだけです。われわれが主導して全社システムの評価と改善、全社サービスの提供などに取り組んでいく必要があります」として、その役割が多岐にわたることを強調する。

 宇草氏は、ソフトバンク クリエイティブの社内SEが日々こなしている業務内容について、具体的なスケジュールの例を挙げてくれた。

9:15〜10:00 メールと予定の確認
10:00〜11:00 メンバーとの打ち合わせ
(懸念事項がある案件など)
11:00〜12:00 情報収集
(業務パッケージソフトの機能比較)
13:00〜16:00 新規事業システム開発ミーティング
(RFP作成支援)
16:00〜17:00 協力会社との打ち合わせ
(社内システムの相談および保守運用内容の報告)
17:00〜19:00 資料作成(内部統制関連)
ソフトバンク クリエイティブ、社内SEのとある1日

 「社内SEとひと言でいっても、業務内容は担当によってさまざまです。また、定常的な業務に加えて、非定型業務が入ってくることも珍しくありません。うまくスケジュールを調整して業務を組み込んでいくことが重要になります」(宇草氏)

 たまに聞く意見に、社内SEの業務は残業が少なく、楽そうだというものがある。これに対して宇草氏は「そういうことはまったくありません。システムトラブルが発生し、早急な解決を求められる場合は、当然ながら深夜残業や休日出勤で対応する必要があります。残業が発生するのは、多くの場合、作業スケジュールの設定ミスや統制不足が原因であり、社内SEもそれ以外のITエンジニアも同じだと考えています」と述べている。

 社内SEとそれ以外のITエンジニアの大きな違いについては、一般的にITエンジニアは「多(ユーザー)対1(自社)」でシステム構築を進めるのに対し、社内SEは「1(自社)対多(ベンダ)」で行う点を指摘。「社内SEは、常に自社のために最適化したシステム構築を目指していく必要があります。自社の現状と将来像を見据え、今後どんなシステムが必要なのかを考慮して、さまざまなベンダと取引をしていく。この点は、案件ごとに異なったシステムを構築するITエンジニアとは大きく違う部分です」(宇草氏)

    技術スキル以上に、コミュニケーション能力が重要

 社内SEとして活躍するためには、どんなスキルや資質が必要なのだろうか。現場の視点から宇草氏は、「まず当然の条件として、社内で一番のIT知識を持っていることが大前提。そのうえで、コミュニケーション能力や的確な判断力を備えていることが重要です」と述べる。「社内システムの構築には、さまざまなベンダとの取引が必要です。社内SEは、利用部門とベンダの間に入って密にコミュニケーションを取り、スムーズにプロジェクトを進めていかなくてはなりません。さらに、ベンダからのシステム提案に対して最終判断をする際、社内SEは非常に重要な役割を担います。利用部門のニーズ、さらには経営層の方針も含めた総合的な判断力が求められます」としている。

 この点については、キャリアコンサルタントであるマイコミエージェント キャリアコンサルタントの意見と一致するところが多い。「技術的なスキル以上に、人を動かすヒューマンスキルが重要。ITエンジニアが社内SEを目指すとき、単純に仕事が楽そうだからと考える人もいるようですが、それは甘い考えです。経営層と各ベンダの間に入って納期や価格の交渉をしたり、システムの費用対効果や生産性向上について社内にプレゼンテーションをしたりと、非常に重要な役割を担っていることを理解してほしい」(マイコミエージェント キャリアコンサルタント)と訴える。

 ただ、両氏が指摘するコミュニケーション能力は、簡単に身に付けられるものではない。これについてマイコミエージェント キャリアコンサルタントは、「転職前からコミュニケーション能力を鍛える方法があります。受託開発のITエンジニアであっても、ただ開発業務をこなすだけではなく、より効果的なシステムを考えて顧客企業に提案するなど工夫をしてみることです。周囲の協力を得ながら積極的にプロジェクトを動かす経験を積むことで、コミュニケーション能力は高められるはずです」とアドバイスする。

 一方、宇草氏は別の視点から、社内SEに必要なスキルとして「普遍的なビジネススキル」を挙げる。「社内SEには、それぞれの業界知識が必要といわれます。しかしこれについては、必要なときに必要な知識を吸収する意欲があればいいと思います。それよりも、会計、法務、経営やマーケティングなどにかかわる普遍的なビジネススキルを備えることが重要だと考えています。いくらITの知識が豊富でも、仕訳や財務諸表についてまったく分からないのでは、本当に企業経営に役立つシステムを作り上げることはできません」(宇草氏)という。

 最後に宇草氏は、社内SEの社内アピールの重要性についてこう述べた。「社内SEは、一般の社員から『何をしているかよく分からない』と思われていることも少なくありません。われわれ社内SEは全社システムを裏で支える黒子ではありますが、これからはその活動がどれだけ会社に貢献しているのかを積極的にアピールしていくことが大切だと考えています。そして利用部門への社内マーケティングを展開し、構築したシステムが役に立っているのか、どんな課題があるのか、現場の声を吸い上げて、その成果を形にして経営層にフィードバックしていく。そうすることで、利用部門と経営層、双方との信頼関係を深めることができるはずです」(宇草氏)

 そのうえで、これから社内SEを目指すITエンジニアに向け、「『社内SE=黒子』という意識ではなく、システムによって企業全体をプラスに変えていける、存在感のある社内SEを目指してほしい」と提言した。


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