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第9回 ITアーキテクトの本質は、「新しい枠組みの提唱」

ITアーキテクトという職種が脚光を浴びるようになってから数年。その人気は衰えることなく、転職市場でも注目度の高い職種の1つだ。しかしその定義は「幅広くいろいろな技術を知っている人」というあいまいなもので、実際の仕事内容や本質を知る人は極めて少ない。ITアーキテクトの本質について聞いてみた。

    ITアーキテクトは、自分を「ITアーキテクト」とは呼ばない?

 「ITアーキテクトと呼ばれている人たちの中には、『私はITアーキテクトです』と自己紹介しない人が多いと思います。どういう職種名で呼ばれるかより、目に見えない裏側の部分でシステムをどう動かすかに興味があるのではないでしょうか」――。日本ユニシス 商品企画部 AtlasBase推進室長 井手ノ上淳氏はこのように語る。

 井手ノ上氏は、同社でCORBA関連のミドルウェア開発に携わり、「自分自身でそう認識しているかどうかは別として」(井手ノ上氏)“ITアーキテクト”的な仕事に携わってきた人物。現在は、ユニシスが提唱するシステム基盤「AtlasBase」の企画担当として、社内にいるITアーキテクトたちの希望や実績を吸い上げ、理想となるシステムアーキテクチャのモデルを描くことに専念している。日本ユニシスの技術力やこれまでの成果を背景に、高可用性・安定性・パフォーマンスを保証する柔軟なアーキテクチャの“あるべき姿”を描くのが仕事だ。

日本ユニシス 商品企画部
AtlasBase推進室長 井手ノ上淳氏

 具体的には、.NET、Javaなどのサーバサイド技術のほか、各種アプリケーションサーバ、データベース、ミドルウェア、ハードウェアや開発方法論まで含めて、アーキテクチャを形成する技術を俯瞰(ふかん)し、モデルを組み立てていく。当然、こうしたさまざまな技術についての知識が求められる。

 井手ノ上氏は、現在の業界の動向を冷静に見て、「確かに『ITアーキテクト』という言葉は、かなり浸透してきたと思います。しかし実は、その役割は昔からあったものなのではないでしょうか」と分析する。

 ITアーキテクトとは、一般的に「システム構築プロジェクトにおいて、技術的な部分の判断を行い、責任を負う立場」とされている。プロジェクトマネージャが納期・コスト・品質の責任を負うように、ITアーキテクトは機能要件・非機能要件を満たすシステムを保証する立場にいるわけだ。

 「メインフレームの時代、アーキテクチャは単一でした。ところがオープン化の流れとともに、いろいろな技術や製品を組み合わせるようになり、その複雑性を考慮してシステムを設計するスキルが求められるようになったのです。そういう意味で『ITアーキテクト』という言葉が登場する以前からこの種の仕事はありましたし、だからこそ『ITアーキテクト』という定義に戸惑う人がいるのかもしれません」(井手ノ上氏)

    ITアーキテクトの仕事の本質は「汎化」

 ITアーキテクトと呼ばれるITエンジニアたちは、30代半ば〜40代といった年齢層であることが多い。企業によってはもう少し上の年次のITエンジニアが加わる場合もある。先述したとおり、さまざまな技術についての知識が求められるからであり、知識は経験で培われることが多いからだ。こうしたITアーキテクトたちの中には、井手ノ上氏が指摘するように、「ITアーキテクト」という呼び方自体に戸惑いを感じる人もいる。

 しかし、20代の若手エンジニアとなると話は別だ。技術志向の強い若手エンジニアの場合、現在のITアーキテクトを見て「あんなふうに技術に詳しくなりたい」と思い、あこがれを抱くことが多い。

 ここで問題なのは、現在の中堅以上のITエンジニアと若手エンジニアの間には、決定的な差があることだ。後者は「コンピュータの仕組みや基礎を理解せずに、コンピュータを動かすことができる環境で育った」という点である。GUIベースの画面や開発環境、コンポーネント技術の台頭などいろいろな原因があるが、いずれにせよ使いやすくなった反面、コンピュータのハード面も含めた原理を知らないITエンジニアが増えている。こうした若手がITアーキテクトとなるには何が必要なのか。

 井手ノ上氏は、「ITアーキテクトの仕事の本質は、ひと言でいえば『汎化』だと思います。汎化とは、さまざまな事象や事柄、ものの考え方を抽象化し、新しい考え方の枠組みを作ること。例えば昨今、ITエンジニアにもビジネススキルが求められるようになってきました。マーケティングや戦略立案のフレームワークを学んだり、そこから新しいフレームワークを自分自身で作って普及させたりするなど、ITアーキテクトの“本質”を磨く方法はたくさんあるでしょう」と語る。

 「物事をあせらずにじっくり掘り下げる姿勢も重要です。1つの技術領域で構いません。メインテーマを必ず1つ持ち、それに対してエキスパートになるように努力しましょう。多くのITアーキテクトや若手エンジニアを見ていて感じるのですが、物事の吸収が早い人は、『素直で人を尊敬できる』という素晴らしい資質、共通点を持っています。こうした方は、飲み込みが早く、ITエンジニアとしても大きく伸びていくと思います」と井手ノ上氏。

 「もし、掘り下げたテーマが2つあるなら、そこから共通項を見つけ出すのが容易になります。それをチューニング/カスタマイズできるようになれば、汎化が起きます。もちろん、基本的な技術知識について勉強していくに越したことはありませんが、このような汎化能力を磨くことは、ITアーキテクトを目指す人にとって大きな財産になるでしょう」(井手ノ上氏)

    総合的に人材を判断する日本ユニシスの認定制度

 ここで、日本ユニシスの人材育成について見てみよう。日本ユニシスでは、ITアーキテクトを大きく3つに分類している。「ビジネスアーキテクト」「アプリケーションアーキテクト」「システム基盤アーキテクト」だ。ビジネスアーキテクトは、戦略立案などの上流工程からプロジェクトにかかわることが多く、アプリケーションアーキテクトとシステム基盤アーキテクトはそれぞれメインとなる技術力を持ち、システムを設計する役割を担う。

図1 日本ユニシスにおけるアーキテクトへのキャリアパス(日本ユニシスの「人材育成・教育制度」のWebページから作成)

 これらのITアーキテクトは、ITSSで定義されているように、核となる技術領域について深いスキルを有し、ビジネススキルも併せ持つ「バランス型人材」であるとされている。こうした考え方に基づいて、日本ユニシスでは独自の社内認定制度を設けているそうだ。この認定制度も、ITSSと同じくレベル分けされ、最高位はレベル7となっている。

 「認定制度で必要となる基準値の設定は非常に難しいものです。手掛けたプロジェクトの実績はもちろん、社内外への貢献もポイントになるなど、その人材のスキルや能力を総合的に見ることにしています。社外貢献とは、例えば大学の講師など、いかに知識を“汎化”して広く伝えているかといったことです」と井手ノ上氏は説明する。

 ITアーキテクトは“幅広い技術力”を求められることが多い。しかし、すべての技術を深く知ることは現実的に不可能だ。「その際に必要となるのが汎化です。フレームワークを自分で作る、あるいはコンパイラや開発環境をカスタマイズしてみるなど、どんなことでも自分なりに考え、その結果を汎用的なものにしていくという姿勢が重要なのではないでしょうか」と井手ノ上氏は締めくくった。


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