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第14回 不況に強い=オフショアされないエンジニアを目指せ

ここ数年「空前の売り手市場」といわれ続けたエンジニア転職市場に寒風が吹き荒れている。景気が減速し、あらゆる企業が求人を減らす中、エンジニアとしてスキルアップ、キャリアアップを図るにはどうすればよいか。「不況でも必要とされるエンジニア」になるための心構えを探った。

  求人数は激減の一途! 果たして2009年は?

 「1990年代バブル崩壊の再来か」――。世界同時不況が起こった2008年末。大きな引き金となったのは、2008年9月15日、米国金融大手のリーマン・ブラザーズが連邦裁判所に連邦倒産法第11章(日本の民事再生法に相当)を申請し、事実上破たんしたことだ。

 この「リーマン・ショック」により、世界中の金融機関に損失が発生。融資にストップがかかり、多くの企業は債務返済に追われ、資金繰りに窮することとなった。当然、ビジネスの拡大も控えざるを得なくなる。この波がエンジニアの転職市場に影響するのに、それほど時間はかからなかった。

 マイコミエージェント キャリアコンサルタントは次のように語る。「金融不安が叫ばれたのは2007年でしたが、2008年初めはまだ『一般企業にはそれほど影響がないだろう』と積極採用が続いていました。変化が訪れたのは夏の終わりです。リーマン・ショックを機に、国内・欧米企業が一気に採用を控えるようになりました。ここ数カ月、採用数は激減の一途です」

 どの分野の採用が冷え込んでいるのか。マイコミエージェント キャリアコンサルタントによると、「業種でいうならば、元請けでスクラッチ開発を得意としていた大手SI(システム開発)企業。20代後半のサブリーダークラスのエンジニアの採用が目立って少なくなっています。プログラマも、『未経験・第二新卒可』という企業が多かった状況に陰りが出てきました。そもそも新規開発案件が少なくなっているので、エンジニアの採用が減っているのでしょう」(マイコミエージェント キャリアコンサルタント)

 この状況は、2009年になれば好転するのか。「残念ながら、2009年はいま以上に市場の冷え込みが加速すると思います。現在の採用活動は2008年初めの計画に基づいていますが、2009年の採用計画は年明けの予算に基づいて立案されるはず。景気の突破口が見えない状態なので、採用計画が縮小される可能性は高いでしょう」とマイコミエージェント キャリアコンサルタントは答える。

  不況下でも求められる職種とは?

 一方で、不況下でも需要のある職種が存在する。「上流エンジニア/コンサルタント」「プロジェクトマネージャ」だ。ここでいう上流エンジニア/コンサルタントには、経営コンサルタントなどの最上流、業務改善コンサルタントも含まれる。プロジェクトマネージャは、オフショアを含め開発チーム全体の予算・納期・コストを管理する役割だ。マイコミエージェント キャリアコンサルタントによると「30代半ばの経験を積んだ上流コンサルタント/エンジニア、プロジェクトマネージャ」の需要は高く、この傾向は来年も変わらないそうだ。慢性的に人材が不足していることに加え、不況下ではいっそうの経営効率アップやコスト削減が求められるからだろう。

 「ここ数カ月の転職市場では、職種・年代ともにピンポイントに絞り込んで採用する動きが高まってきました。2009年はこの状況にさらに拍車がかかると考えられます」(マイコミエージェント キャリアコンサルタント)

 だが、不況だからこそ、ニーズが高まる職種もあるという。その1つが運用系コンサルタント/エンジニアだ。「新規開発が減るということは、既存の資産を有効活用する機運が高まるということです。よって運用系のコンサルタントやプロジェクトマネージャ、エンジニアへの需要が増えると考えられます。特にネットワークエンジニアは、アプリケーション系のエンジニアに比べて数が少なく、運用フェイズに重要な役割を果たすので、ネットワーク運用のスキルがあれば有利でしょう。シスコ資格を保有していると、さらに大きなポイントになるかもしれません」(マイコミエージェント キャリアコンサルタント)

 不況だからこそ中途採用を積極的に進める企業もある。主に2次請けを担当し、突出した技術力やコンサルティング力を持つ独立系SI企業だ。こうした企業は技術力や提案力で一般企業からの強い支持を得、中型の案件を多数抱えている。こうした企業はむしろ「不況のときこそチャンス」と考え、優秀なエンジニアの採用に乗り気だという。

 そんな中、「選ばれるエンジニア」になるためには何が必要なのか。マイコミエージェント キャリアコンサルタントは「個別のプログラミング知識ではなく、業務分析やマネジメントのスキルをどれだけ持っているかが重要になります」という。「敬遠されるのが、ここ数年の好景気を受けて、年収だけで転職を繰り返してきた方です。経歴に一貫性がないと、採用時にシビアな目で見られることは避けられません」と語る。

  不況に強い=オフショアされないエンジニアになれ!

 暗い見通しのエンジニア転職市場だが、「真っ暗」というわけではない。テックバイザージェイピー 代表取締役 栗原潔氏は、「状況が厳しいことは事実ですが、企業もIT投資をやめれば事業が立ち行かなくなるのは分かっているので、投資がゼロになることはありません」という。大切なのは、次の時代にどんな技術が必要かを見極める目だ。

 栗原氏は2009年の技術トレンドとして、次の3つに期待しているという。

(1)クラウドコンピューティング(本命)

 直訳すれば「雲の(中の)コンピューティング」。インターネットという「雲」を通じて業務アプリケーションやサービスを利用するという概念と、実装技術や具体的なサービスを総称した言葉だ。「クラウドコンピューティング自体は新しい概念ではなく、これまでのいろいろな概念を総合的に表現したものです。考え方としてはWeb 2.0に似ており、ひと言で多様なトレンドを表現することで、特に経営者が理解しやすくなるという意義があります。具体的なサービスとして、SaaSやユーティリティコンピューティングを含みます。この言葉が出てきたことによって、これらのサービスの普及が進むと見ています」(栗原氏)

(2)仮想化(対抗)

 「仮想化は、『既存のIT資源を技術によって効率化し、有効利用しよう』という発想から生まれています。経済環境が厳しくなる中、最も有効な手段になると考えられ、その技術を有するエンジニアの需要も伸びるでしょう」(栗原氏)

(3)グリーンIT(大穴)

 グリーンITとは、IT機器による消費電力をできるだけ削減するなど、環境問題に配慮する施策や考え方のことだ。実現する技術の1つとして注目されているのが前出の仮想化である。栗原氏は、「本当はもっと注目を浴びてもいい分野。公的な規制ができれば需要が増える可能性があります。前述したように、コスト抑制の観点から仮想化技術が求められる状況であり、それに合わせてグリーンITの認知も進むのではないでしょうか」と語る。

テックバイザージェイピー
代表取締役 栗原潔氏

 こうした技術トレンドを受けて、不況でも強いエンジニアになるには、どのようなスキルが必要なのか。

 栗原氏は、「例えば、クラウドコンピューティングの普及によってSI案件が減るという認識がありますが、その見方は正確ではないと思います。ミッションクリティカルなシステムはクラウド化が難しいでしょうし、そもそも1つの業務だけクラウド化するという選択肢はありません。事実、salesforce.comは、PaaS(Platform as a Service)という開発環境を提供し、ほかのクラウドソリューションとの統合を強く打ち出しています。これに加えて、既存システムとクラウドコンピューティングを連携する技術の需要はいっそう高まると思います。そうした中、不況に強いエンジニアになるために必要なスキルは1つしかありません」という。

 それは「業務を分析し、システムへ落とし込む」という開発の本質を知っているかどうかだ。確かに新しい技術が生まれれば、細かい相違が出てくるだろう。しかし、業務を分析し、視覚化し、最適な業務プロセスを組み立てるスキルがあれば、要素技術の違いはそれほど重要ではない。たとえレガシー系技術者であっても、この本質を知っていれば、不況下でも企業が欲しがる人材となるはずだ。マイコミエージェント キャリアコンサルタントも同じことを述べている。

 「不況に強いエンジニアとは、『オフショアされないエンジニア』。プログラミング技術だけでなく、上流工程のスキルやプロジェクトマネジメント力を持っていれば、いつの時代でも『強い』ことは間違いないでしょう」(栗原氏)

  いまの環境でスキルアップ、キャリアアップを図るには?

 では、「上流志向が強いけれど、いまの勤務先ではプロジェクトマネージャやコンサルティングの経験が積めない」というエンジニアはどうすればよいか。

 栗原氏は、「仕事で実践経験を積むのがベストですが、それが難しい場合、いろいろなメディアに目を通したり、経験者のブログを読んだりして技術トレンドをいち早くつかみ、とにかく積極的に学ぶ姿勢が必要です。そのためには英語力、特に速読力があるとなおいいでしょう。さまざまなコミュニティに参加し、人脈と技術力を磨くのも有効な手段だと思います」と語る。

 マイコミエージェント キャリアコンサルタントは、「職場環境の事情でキャリアアップが望めないのなら、厳しい時代ではありますが転職を考えるという手もあります。即キャリアアップにつながらなくても、若手を積極的に登用し、さまざまな経験を積めるチャンスを与えてくれる企業に転職すれば、道は開けます。独立系SI企業はその好例でしょう。こうした企業文化は一般応募だけでは分からないので、人材紹介会社やキャリアコンサルタントも上手に活用し、自分に合った転職先を見つけることが重要です」という。

 厳しい状況ではあるが、だからこそ冷静に自分のキャリアを見つめ、足りない部分を補ってスキルを磨く。そんな自主性が、「不況に強いエンジニア」になる必須条件なのかもしれない。


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