マイナビ転職×@IT自分戦略研究所
「キャリアアップ 転職体験談」
第22回 「OSSで身を立てたい」――
楽天のプライベートPaaSをゼロから立ち上げたエンジニアの選択
「転職には興味があるが、自分のスキルの生かし方が分からない」「自分にはどんなキャリアチェンジの可能性があるのだろうか?」――読者の悩みに応えるべく、さまざまな業種・職種への転職を成功させたITエンジニアたちにインタビューを行った。あなた自身のキャリアプラニングに、ぜひ役立ててほしい。 |
強い意志で転職、 楽天のプライベートなPaaSをゼロから立ち上げる |
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楽天市場や楽天トラベルをはじめ、40以上のインターネットサービスを提供する楽天。そのサービス基盤に、プライベートクラウドでのPaaS「Rakuten Platform as a Service」がある。このPaaSを立ち上げたのは、インフラとは縁のなかった一人のエンジニアだった。
そのエンジニアが、今回お話を聞いた佐々木庸平さんだ。
2010年に楽天に入社した佐々木さんは、Webサービスの開発経験を経て、サービス開発環境および提供基盤としてのRakuten Platform as a Serviceを立ち上げ、2012年から社内提供を開始した。その際に採用したのが、オープンソースのPaaS基盤ソフトウェアCloud Foundryだ。
製品のテクニカルサポートを中心に担当していた佐々木さんのキャリアの転機となったのは、「今後はオープンソースソフトウェア(OSS)で身を立てたい」との強い思いに基づいた転職だった。
プロプライエタリか、それともオープンソースか | ||
佐々木さんは2004年3月に大学を卒業後、外資系大手ベンダのグループ企業に入社し、製品のテクニカルサポート業務を担当していた。
最初の2年間はシステム管理ツールのサポートを、その後4年間はOSSのテクニカルサポートを担当していたという。特に、OSSのサポートに携わったことは、佐々木さんにとって大きな経験となった。
「お客さま先での利用が見込まれそうなOSSの調査や検証、グループ企業内で利用中のOSSのサポートなどを主に担当しましたが、初めのうちは分からないことだらけでしたね」と当時を振り返る。
ときには「オフコンのOS上でPHPをサポートしてほしい」といった難題が寄せられることもあった。「難題の解決を含め、システム構築や設計のレビュー、Q&A対応などいろいろな業務を担当していくうちに、新しいものや自分が知らないものに対する抵抗がなくなっていきました」
同じ時期にRuby on RailsやHadoopに触れ、クラウド関連技術についての先行調査を行っていたという。「クラウドについては、複数のOSSを組み合わせて実現できるか、といった課題も検討しました」
仕事を続けるうちに、佐々木さんは次第にOSSの魅力にはまっていった。
OSSの中には、自社グループが提供しているプロプライエタリな製品と競合する分野のものがある。自社グループ製品を選択した場合、カスタマイズの範囲は限られ、ソースコードレベルで仕様を参照して、必要に応じて手を入れるとなると、本国の開発チームの手にゆだねることになった。「それなら、自分でソースコードに手を入れられるOSSの方が、素早く価値を提供できるのでは?」佐々木さんはそう考えるようになったという。
「OSSかプロプライエタリかということではなく、お客さまが求めるものを早く提供できるかどうかが重要でした。自分で開発ができるなら、プロプライエタリの製品でも良かったんだと思います」
自分でソースコードに手を入れることで、求められる価値を迅速に提供できる。それが佐々木さんにとってのOSSの魅力だったのだ。
OSS関連の記事執筆がきっかけで転職 | ||
仕事を通じてさまざまなOSSをレビューするうちに、佐々木さんは、いくつかのプロジェクトにより深く関わるようになっていった。
「Ruby on Railsのパッチを書いたり、CouchDBのコミュニティに顔を出したりするようになりました」
そして佐々木さんは、「自分はOSSで身を立てていこう」という強い思いに至った。「今後ソフトウェア業界で身を立てようと考え、エンジニアとしての『伸びしろ』に思いをめぐらせたとき、プロダクトサポートよりも、必要に応じてコードを見て機能追加できるOSSに関わる方に魅力を感じたのです」という。ドリコム主催のRuby on RailsによるWebアプリケーション開発コンテスト「Drecom Award on Rails」に個人的に応募して入賞したことも、自信につながった。
とはいえ、その時点では具体的に転職を考えていたわけではなかった。きっかけとなったのは、佐々木さんがいくつかの雑誌に執筆していたOSS関連の記事だった。転職エージェントが佐々木さんの記事に目を留め、直接アプローチしてきたのだ。
転職を具体的に意識するようになった佐々木さんがエージェントに提示した転職先企業の条件は、次のようなものだった。
- ベンダではなくアプリケーションプロバイダ(自社でシステムを開発している企業)
- 外資系ではなく日本企業
佐々木さんは前職での経験から、自社でシステムを開発し、ユーザーに提供する企業にこだわった。「OSSのメリットが一番生きる環境だと思ったためです」と話す。
日本企業を希望した理由も、前職での経験によるものだった。「外資系企業では、物事を決めるのに本国の返事を待たなければならないことも多く、迅速な意思決定が期待できない面があります。日本企業ならば、そのような煩わしさがないのではと考えました」
エージェントが提案した企業の中に楽天があった。規模も破格に大きく、佐々木さんの求める条件をクリアしていた。いうまでもなく、佐々木さんは楽天を選んだ。選考過程を経て、佐々木さんは2010年1月に楽天に入社した。
Rakuten Platform as a Serviceはこうして誕生した | ||
楽天での最初の1年間、佐々木さんは楽天市場の台湾版である「台湾楽天市場」で、商品ページなどフロントエンド部分の開発を担当した。
「Pythonによる開発や自社開発のフレームワークなど、私にとってはすべてが新鮮でした」と語る佐々木さん。前職では常に知らないことに挑戦し、難題を解決していたこともあって、新しい技術や環境に対する不安や戸惑いは一切なかったという。
入社から1年ほどたったとき、佐々木さんはテクニカルアーキテクトというべき部分を担当するようになった。コーディングメインではなく、サービスの構成やデザインなどを考える立場になったのだ。その中には、ミドルウェアなど一部のインフラも含まれていた。
現場ではインフラ担当と開発担当が明確に分かれていたが、ミドルウェアについては開発担当が整備することも多かったという。開発担当がサービスの開発に専念できる環境を検討するうちに、おのずとPaaSに行き着いた。同社では2010年ごろからIaaS型のプライベートクラウド環境構築が進んでいたことも、佐々木さんのPaaS環境構築のアイデアを後押しした。こうしてRakuten Platform as a Serviceが誕生することになった。
「意志があれば、すぐ進む」環境 | ||
インターネットサービスのインフラの設計経験など皆無に等しかった佐々木さんだが、プロトタイプはほぼ一人で構築したという。PaaS基盤には、VMwareが提供するオープンソースのCloud Foundryを採用した。
テスト用に、一部のサービスアプリケーションのソースを全面的に書き直した。ようやくプレゼンできる体裁が整ったタイミングで、社内SNSに「こんな環境を作りました」と告知したところ、すぐに大きな反響があったという。
「Rakuten Platform as a Serviceを、社内のエンジニアに使ってもらえるのが一番うれしい」と話す佐々木さん |
「台湾楽天市場の開発時、2週間に1度は社長(三木谷浩史氏)とミーティングする機会がありました」というほど現場と経営層の距離が近い同社だけに、佐々木さんのアイデアが正式なプロジェクトとなるまでに、多くの時間は必要なかった。
迅速な経営判断の下、Rakuten Platform as a Serviceプロジェクトがスタートした。そこから担当部署の設立までに半年もかからなかった。同プロジェクトを担当するアーキテクチャコミッティ運営室/PaaS開発・運用課は、現在、10人ほどメンバーが在籍するまでに拡大している。
佐々木さんは、このような「現場から上がってきた事案を、上層部が速やかに意思決定する」という楽天の社風に大きな魅力を感じているそうだ。「意志を持っている人がいれば、すぐ進む。その点が良いところだと思っていますし、現場のモチベーションアップにつながります」という。
現在の目標は既存サービスの取り込みと後進の育成 | ||
Rakuten Platform as a Serviceが順調に軌道に乗りつつある現在、佐々木さんの次の目標は何なのだろうか。尋ねてみると「既存サービスの取り込みと後進の育成」という答えが返ってきた。
Rakuten Platform as a Serviceは、まだ新規立ち上げのサービスでしか利用されておらず、既存のサービスをいかにマイグレーションするかが今後の課題とのことだ。「各サービスの担当部門と、時間をかけて解決していく」と佐々木さんは決意を語る。
後進の育成については「以前は自分でコードを書くことにこだわっていましたが、現在はチームのメンバーが書いたものをレビューする程度にとどめています」という。
求める結果が出せるのであれば、自分でコードを書くことにこだわる必要はないとの判断だ。そのためには、仕事を任せられる後進の育成が最重要課題であり、現在はコードのレビューを徹底しているのだという。実際に佐々木さんの下では、若手エンジニアが実力を付けながら育ち始めている。
ソースコードに手を入れ、ソフトウェアを使いやすくカスタマイズしながら、社内や社外のユーザーに提供する。「OSSで身を立てていく」という佐々木さんの強い思いが、転職でかなえた新たな環境の下、Rakuten Platform as a Serviceという形で見事に開花したのだ。
●人事に聞く、佐々木さんの評価ポイント 採用選考時には、彼のOSSの経験や技術に対するアンテナの高さを高く評価しました。また、自分のこだわりに固執しすぎず、フレキシブルな対応ができる点も、事業環境の変化のスピードが速い楽天が求める人材像とぴたりとマッチしていると考え、採用に至りました。 1年半ほど前に、たった2人から始まったPaaSプロジェクトは、いまや7カ国12人のメンバーで構成される文字通りグローバルなプロジェクトになりました。彼の優れた技術はもちろんのこと、実行力、リーダーシップがなければ、実現するのは困難だったと思います。 PaaSをこれからの楽天を支えるWebアプリケーションプラットフォームに育てていく中心的人物として、佐々木さんの今後の活躍に大いに期待しています。 |
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企画:アイティメディア営業企画
制作:@IT自分戦略研究所 編集部
掲載内容有効期限:2013年3月31日
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