マイナビ転職×@IT自分戦略研究所
「2012年ITエンジニア転職市場動向」
ガートナーアナリスト「BtoB開発とBtoC開発の融合により、人材流動が加速する」
2011年は「何かが劇的に変わった年」ではなく、「変わると言われてきたトレンドが現実になってきた年」だった。「今後は、スマートフォンなどのモバイルを媒介にして、SI業界とWeb業界の垣根が低くなり、人材流動が加速するだろう」――ガートナーのアナリストによる、IT業界の最新動向分析。 |
2011年は、東日本大震災や欧州経済危機など、暗いニュースが続いた年だった。
そういった中、システムインテグレータ(SIer)を中心としたIT業界はどのような動きを見せたのだろうか。2012年以降、IT業界の市場動向はどうなるのか、また求められる人材はどのように変化するのか。ガートナーのアナリストに話を聞いた。
2011年はSI業界で“大きな潮目”の変化があった | ||
まずは、2011年のSI業界動向を振り返ろう。ガートナー ジャパン、リサーチ部門 リサーチディレクターの足立祐子氏は、次のように語る。
リサーチ部門 リサーチディレクター
足立祐子氏
「2011年は、景気の悪化や災害などがあったため、数字だけを見ると売り上げなどは昨年に引き続き、低迷する傾向にありました。しかし、SI市場は今、“大きな潮目の変化”を迎えています。今後のIT市場全体を見極める上で、この変化を見過ごしてはいけません」
“大きな潮目の変化”とはいったい、どのようなものか。
その代表的なものが、「システム開発に対する要求の変化」だと、足立氏は指摘する。これは2011年に限った話ではないが、「システムを1から作り込む」案件から、「割り切ってパッケージを導入する」案件、「既存のシステムやサービスを組み合わせて利用する」案件が目に見えて増加した。さらに、納期はどんどん短くなっている。数年前までは1〜2年のプロジェクトは普通だったが、最近は「1年未満」というように短期間での開発を望む企業も増えてきた。
品質へのニーズも変化している。従来のように「100%の完成したシステム納品」を目指すのではなく、「80%の仕上がりで運用を開始し、運用をしながら完成度を高めていく」アプローチを求める声が、ユーザー企業側から上がり始めている。
足立氏は、こうした変化の原因を「リーマンショック後の不透明な経済環境下で、IT投資への統制が強まっていることに加え、ユーザー企業のビジネスプロセスそのものの変化、それに伴うビジネス部門のITに対する要求の変化のため」と分析する。
スマートフォンやタブレット型端末といった新しいデバイスの普及により、ビジネスプロセスにおいて「モビリティ(Mobility)」が重要なテーマになってきている。
これまでの決まりきった定型業務をそのままシステムに“移し変える”のではなく、モビリティというキーワードのもと、ITで何ができるか、どうビジネスを変えられるかを、ユーザー企業側は模索する段階だ。そのため、企業は、新たなビジネスプロセスとシステム構築を“一緒になって考える”ことを、SIerに求めるようになってきている。この分野では、アジャイル型の開発手法を導入するケースも増えている。
クラウドについては「今後、間違いなくシステム開発の柱になる」と、足立氏は分析する。バズワード化したところが否めないクラウドだが、サービスがより安定し、地に足がついたものになればニーズは間違いなく広がるという。
企業のグローバル化に伴い利用するベンダもシフト | ||
“大きな潮目の変化”として、足立氏がもう1つ挙げるのが、企業のグローバル化に伴う利用ベンダのシフトだ。
製造業を中心に、海外拠点の役割が現地生産拠点から市場開拓拠点へと変化している。足立氏によれば、こうした動きに伴い「企業側が利用するベンダも変化してきた」という。従来は、海外で利用するシステムを国内のベンダを仲介者として現地パートナーに発注してきたが、現在は現地事情に強いグローバルベンダや現地の有力ベンダに直接発注するケースが増える傾向にある。
理由は3つある。1つ目は、「意志決定の速さ」である。現地のベンダは、打ち合わせの場で意思決定をすることが多く、日本のベンダのように自社に持ち帰って上司と相談するといったタイムラグが生じないため、迅速な開発が見込める。
2つ目は「豊富なベストプラクティス」、すなわち成功事例だ。現地におけるベストプラクティスを多数抱えているベンダの方が、発注する側にとってもリスクが少ない。日本のベンダは日本企業の事例しか持ち合わせていないことが少なくない。
3つ目は「ガバナンス」。間に複数のベンダが介在することで、情報統制が難しくなることを嫌う企業が増えているのだという。
作るシステムから使うシステムへの移行、グローバル化にアウトソーシング、アジャイル開発――これらは2011年に生まれた技術的変化ではない。2011年は「何かが劇的に変わった年」ではなく、「変わると言われてきたトレンドが現実になってきた年」だったと言えるだろう。
静かだが、大きな変化である。この変化を見過ごしてはいけない。
「SI」の定義そのものが変わる |
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それでは、2012年以降、SI市場はどのように動くのだろうか。
「残念ながら、既存のビジネスモデルで定義されるSI市場はすでに成熟しており、中長期的に見ると縮小していかざるを得ないでしょう」
ただし、必ずしも悲観的になる必要はない、と足立氏は強調する。確かに、システムを1から作る従来型のビジネスにユーザー企業が支払う金額は減少するが、“それ以外”の分野にビジネスチャンスは広がっている、というのだ。
足立氏が「潮目の変化」という言葉を使ったのは、決してSI市場全体が停滞してしまうという意味ではない。狭い視野で見れば、確かに従来型のシステム開発分野は減益し、そこで働くエンジニアのキャリアも狭まっていくように見える。しかし、広い視野で見れば、ITビジネスの領域は広がり、エンジニアはより多様なキャリアを選べるようになる。
BtoBとBtoCの垣根が低くなり、人材流動が加速する | ||
その一例が、先に挙げた「業務システムとモバイル端末の融合」だ。スマートフォンやタブレット端末で業務システムを利用する企業は今後、増えていくだろう。従来は別物として扱われてきた顧客向けサービスと社内システムを連携させながら開発する動きが広がる。これはつまり、「BtoBサービスとBtoCサービスの垣根が低くなる」ということを意味している。
これまでは、同じ「IT業界」といえど、業務システムを作るSI業界と、Webサービスを作るWeb業界の間には明確な線引きがあった。実際、2010年から2011年にかけて、SI業界からWeb業界へ転職したエンジニアが増えたが、よく「両者のスタンスや開発手法、ユーザーとの関わり方が違いすぎて苦労している」という話を聞いた。だが、これからは、業務アプリケーションと個人が使うサービス・端末が融合していく、というのだ。
これは、2つのことを意味している。1つは「求められるエンジニア像・スキルの変化」、もう1つは「SI業界とWeb業界の人材流動性が高まる」ことだ。
足立氏は、「スマートフォンやタブレット端末の開発経験、業務経験を持つ人は重宝される」と予測する。採用が過熱しているWeb業界に限らず、スマートフォンアプリ開発のスキルはいずれ、業務アプリケーション分野でも確実にニーズが高まっていくという。
「業務アプリケーションをWebやソーシャルメディア、モバイル端末と絡めて作ることができるエンジニア、そしてユーザー企業に『それらを組み合わせて何ができるか』を提案できるエンジニアが求められるようになるでしょう」
今、SIerに勤めるエンジニアには「今後もBtoBの業務システムの領域で活躍していきたいなら、あえて一度はWebサービスを経験しておくのも悪くない」とアドバイスする。BtoCサービスでの経験を、再びBtoBサービスの分野に持ち込んで生かす――こんなエンジニアが増えれば、より人材の流動性が高まるというのが、足立氏の分析だ。
これから変わるテクノロジ最前線 | ||
今後のSI市場を考える上で、「モビリティ(Mobility)」は重要なキーワードとなる。足立氏は他にも、これからのIT業界をつくるトレンドとして、「コンテキスト・アウェア・コンピューティング(Context-aware computing)」「インターネット・オブ・シングス(Internet of things)」を挙げた。
「コンテキスト・アウェア・コンピューティング」とは、コンテキスト、すなわち文脈に合わせたコンピュータの利用を意味する技術である。システム側が、ユーザーにとって、その時点で最適な情報や機能を判断して提供するというものだ。
モビリティが向上することで、同じ業務を遂行するにも、物理的な場所によって求められる情報や機能が異なることがある。そうしたユーザーの置かれた状況を、GPSや各種センサーにより検出することで、必要とされる情報や機能を選択あるいは限定し、業務効率を大幅に向上させる。あらゆる業務システムに応用可能な技術と言えるだろう。
「インターネット・オブ・シングス」は“モノのインターネット”と訳される。センサー技術とM2M(Machine to Machine)ネットワーク技術により、あらゆるモノの間で通信を行う技術だ。生体センサーを利用した遠隔医療や、食材のトレーサビリティなど、一部で実運用を開始しているものもある。他にも、自動車同士が通信を行うことで交通量の最適化を図ったり、事故防止を行ったりする新たな交通システム構築の試みが、すでに始まっている。
“モノのインターネット”は、医療、食品、物流、交通、製造など、幅広い分野で応用が可能だ。SIの定義をBtoC、あるいはBtoBtoCの分野まで含めれば、市場規模は今まで以上に広がっていくことが見込まれるのである。
これからの5年で何をするかが、本気の勝負どころ | ||
どれだけ経験を積めるかが勝負」
「これからの5年でどれだけ経験を積めるかで、エンジニアとして生き残れるかどうかは大きく変わってくるでしょう」
上記の動向は、すぐに明日の仕事に直結する話ではない。だが、間違いなく5年後のIT業界を変えていくだろう。そうした点を踏まえ、足立氏はこう忠告する。
「従来のSI業界にあったように、実装から設計、そして上流工程へ――といった道のみが、理想的なキャリアパスだと思っているなら、考え方の切り替えが必要でしょう。これから、企業のビジネスプロセスは変化します。そして、ITの活用方法も変化する。この変化で必要なスキルを自ら考え、行動に移すことが重要なのです」
例えば、先に述べたアジャイル型の開発などは、Webサービスの市場で先行して取り入れられている手法だ。企業向け業務システムなどのBtoBシステムの開発に携わるエンジニアは、一度BtoCを経験すれば、キャリアの幅は広がるだろう。
また、Webサービス開発の現場でマッシュアップの経験を積めば、顧客のビジネスモデルを理解し、さまざまな製品を組み合わせ、最適な解を“提案”できる素地となる。
「技術一筋の“プロフェッショナルなエンジニア”はもちろん、今後も絶対に必要です。ですが、もし技術一筋では勝負しない道を選ぶのであれば、ビジネスにどうITを活用するかを考えるエンジニアというキャリアを選ぶのも手でしょう」
2012年は新たな経験を積むのに最適の年 | ||
転職における会社選びに関しても、足立氏は「規模を判断基準として、会社を選ぶべきではありません」と注意を促す。特に“現在定義されているSI”で規模を拡大した会社は、縮小傾向にある市場の影響を受けてしまうだろう。新たなSIの領域で伸びうる、しっかりとしたフィールドや先見性を持った会社かどうかをよく見極めることが大切だ。
さらに「海外に出ること」も将来につながる大きな第1歩だ。先に紹介したように、国内のSIerが現地の有力ベンダに対抗するためには、国際競争力を養う必要がある。そのような状況において、海外経験のあるエンジニアは、喉から手が出るほど欲しい人材なのは言うまでもない。自身の国内での市場価値を高めるために、海外に踏み出すという選択肢を考えてみてもいいだろう。
足立氏は「2012年は、エンジニアにとって新たな経験を積むのにちょうどよいタイミング」だと話す。
ユーザー企業のニーズの変化に対応するために、エンジニアとしてどのようなスキルを生かし、どの立ち位置にいたいのか――。
将来を見据え、「明確な意志を持って臨む」ことで、時代のニーズに合った、求められる人材への道が切り開けるはずだ。
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